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第37話 涙の世界、青い世界
しおりを挟む魔力の糸が敷かれた地面に、サラはわざと足を踏み入れる。
『かかった』
凍りつく前に足を上げて事なきを得る。
「見えるんですよ」
「偶然でしょ!」
スカーは周囲の魔力を氷の刃に作り替え、攻撃を開始する。
気づいていたサラが土の壁一枚を使って全方位の氷を避ける。
「……ッ!」
「これでもたまたまだって?」
伸びていく魔力にサラは気づく。
「弾けろ!」
ノータイムで発動する爆発魔法。普通なら避けれない攻撃をサラは風で大きく距離を取る。
「やはりあなたでしたか」
連続的な爆発がランダムにサラを狙うが当たることはない。
傍から見れば奇跡。実際は魔力の糸と逆方向に移動して避けている。
有り得ない事が同時に起きている。
「これならどうだっ!」
スカーは大きな魔力の糸を垂らす。
意思一つで周辺を炭に変える魔法。
魔法は爆発と共に二人へ話しかける。
また無駄な事をしているのか? と。
全てを消し去る魔法の叫び。強力な熱がスカーにまで届く。
焼けるような匂いが周囲に広がる。
光が晴れた先でサラは生身を保っている。
「はっ? なんで生きてんだよ!」
「説明してあげましょう。それが終わった時、あなたの敗北ですが」
サラは更なる魔法の追撃を踊るように避けながら話し始める。
「私は魔力が見えます、それは魔法の動きも見える状態なのです」
五種類の魔法が同時にサラを襲う。
「そして爆発魔法には魔力の波があります」
読み切ったサラは風で加速しながら魔法をぶつけ合わせる神技を見せつけ、飛んできた土の槍を掴み取って魔力を込める。
『その波を避けました。私には見えるので』
無機質だった槍が虹色のオーラを纏う。
スカーに向かって投げた槍が残していく魔力の糸。
サラがそれを掴んだ瞬間。
吸い込まれるように消え、虹色のオーラを纏ってスカーの近くに飛び出る。
「ッ!?」
スカーは魔法を放ちながら距離を取る。
魔力の糸を辿るサラはもうそこにはいない。
「ど、どこだ……」
「ここですよ」
振り向いた時には魔力を掴んで姿を隠す。
もう一度現れた時。スカーの首元には土の剣が向けられていた。
『この時点であなたは死にました』
聞こえた声に振り返る。この時点で嫌いなヤツはオレに対して剣を向けていた。
「さて、リュウキくんはこの私が貰います。代わりに今までの事は黙っておきます」
剣を投げ捨てると勝手に話を進める。
「…………」
「リュウキくん!」
呼ばれたリュウキが舞台に上がる。
「では、これで」
「なあ、サラ。マジで言ってるのか?」
リュウキは今までのことをジョークとでも思っているらしい。
オレもそう思いたいよ。
「これが答え、どう思う?」
リュウキと女の手が繋がる。
お前、嫌そうな顔しないの? オレは嫌なのに。
「それではごきげんよう」
現れた扉の先へ二人は一歩、一歩と進んでいく。
オレから離れていくリュウキを見て湧き上がるこの気持ち。
足音が響く度に目から感情が溢れてボヤける。
『リュウキ……』
オレの声に気づくとわざわざ戻ってきてくれた。
「俺が居ないと死にそうだな」
「死ん、じゃうよ」
涙がオレの言葉を邪魔する。
「スキンシップは激しいと思っていたが……」
何も言えないオレにリュウキはダサい制服のジャケットを脱ぎ始める。
「これあげるから」
そう言うとオレにジャケットを着せてくれた。
生暖かい温もり、お前の匂いと香り。
「ちゅ、チューして」
「しない」
「えっ……」
抑えてた涙がまたポロポロ出てくる。
もうしてくれないの? クソ女の男になったから?
『夜、お前の唇を奪いに行く』
そう言い残して女の所に行ってしまった。
剣も持ち上げたのに、まだ何もくれてないよな。
どうせ今のも童貞だからできないんだろ。
もしかして嘘泣きだと思ってる?
こんなに涙はしょっぱいのに。
『まって、まっ、て……』
スカーのむせ泣く声が背後から聞こえる。
俺は見てしまった、目を真っ赤にして泣く姿を。
本当は抱きしめてやりたかった。
二度と泣かせないって約束したかった。
もう一人の自分が悲しんでるのに何もしてやれなかった。
弱すぎてサラに逆らえない俺は破れる約束しかできない。
さっきの戦闘を見て上位クラスが化け物だと分かったんだ。
なんだよ、瞬間移動って。
そんな奴に魔力ゼロの俺なんて瞬殺だ。
「リュウキくんは何が好き?」
「答える必要あるか?」
「取り寄せてあげようと思ったのに」
俺にできることは一つだ。
「……じゃあサラの手作りがいいかな」
困りそうな返答で空気を濁すくらい。
「嬉しいこと言ってくれるなんて」
逆効果だった。
魔法空間から出るとサラは廊下に出た。
「魔力の糸を体験させてあげましょう、剣士くん」
そう言って人差し指を遠いところに向ける。
しばらくすると指を下ろして俺を招く。
「今からこの魔力に触れます」
近づいた俺の手を強く握ると。
何も無い空間を人差し指と親指で摘んだ。世界が青色を響かせて廊下を突き進んでいく。
情景が流れ込むように変わる。何度も、何度も。
人とすれ違った、ポスターとすれ違った、アステル先生がサボっていた。
目に入ってくる膨大な情報量は脳を凍らせる。
移動が終わったのか世界に色が取り戻される。
地に足を着けた時、視界がグワングワンと揺れてふらつく。
頭もいてぇし、きもちわるい、さいあくだ。
ただでさえ風邪気味なのに。
「な、なんだこれ……」
ヨロヨロとサラの胸元に倒れて息を吸って吐く。
人間の匂い。やましい気持ちよりも先に嗚咽感が収まっていく。
「魔力の核心に触れる時、意思があれば魔力の世界に侵入できるのです。今は私しかできてません」
説明するサラの顔が赤い。そっちも慣れてねえのか。
「魔力の世界に魔法は届かないので、死にそうな時にも使える、どうです?」
チートかよ。
見えるようになりたいな。
羨ましく思いながら通った魔力の道を振り返る。
そこには、青い糸が漂っていた。
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