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第31話 ベタベタの優しさ

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 どうやってスカーに暖かく寝てもらうか考える。

 魔法のストーブなんてなければ魔力もない。

 役立たずにできることは思った以上に少ない。

「温めてやるよ」

「いい……」

 俺の肉体会話は否定され、そそくさと背を向けられる。

「ダメだ」

「来んな……死ぬ……」

 風邪ごときで何が死ぬんだ。

 みんなの冷たい視線に耐えている俺が、風邪移されて死ぬわけ!

「大丈夫だって」

 ゆっくり近づいてスカーの背中に俺の体を密着させる。

 ちょっと強引だけど、スカーを手で抱き寄せた。

「んん……」

 快眠できるように。スカーの頭に腕を差し込んで膝枕を作る。

「風邪、治せよ」

 頼む、治ってくれ。

 そう祈って目を閉じた。



 しばらくして、スカーはリュウキの方を向く。

 ドキドキと今にも張り裂けそうな鼓動。

 聴こえもしない声をリュウキの口元で投げ掛ける。

『……お前のせいで爆発しそうなんだよ』

 そう言って何度も乾いた唇を舐めた。





『起きてー』

 揺さぶられて目が覚める。

 スカーか? 朝か? いや、どっちでも……。

 起きようとして思い通りに動かないことに気づく。

 体を上手く動かせない。

「起きてくれよ」

「ま、待て……」

 やけに口元もベタベタしている。ヨダレか?

 なんとか体を起こして、スカーを見上げる。


『おはよ』


 いつものようにニコニコ笑っている。

「あぁ……」

 完全に治ったみたいで良かったよ。

「まさか、風邪移った?」

「密着する程度は大丈夫かなって思ってた」

 全然大丈夫じゃなかった。喋るのもキツくてダルい。

「ごめん」

「謝るなよ、覚悟はしてた」



『本当はオレが悪いんだ、やっちゃったから』



 そう言って顔を赤く染めると目を逸らした。

 な、何をしたんだ? 聞きたいけどそんな気力はない。

「……だるい」

「風呂はどうする」

「やめとく」

 ベタベタの口元を拭ってベッドから立つ。

 これじゃあズボンに片足突っ込むなんて座ってないとできないな。

 制服で寝てよかった。

「フラフラしてるぞ?」

「なんとかなる」

 しばらくしてカロンも目覚めた。

 朝食が届くらしいので二人がお風呂に行っている間に俺はトイレで用を足す。

 わざわざ座ってする日が来るなんてな……。

 トイレから出てベッドにまた寝転がる。

 頭も痛え。スカーってこんなのに耐えてたのか?

 死にそうなんだけど。


 うーつらいよー。


 うなされながら待っているとスカーが心配そうに戻ってきた。

 髪がツヤツヤしている。風呂上がりっぽい。

「休むか……?」

 お前まで死にそうな顔するなよ。

「行かなきゃならねえんだ」

「うーん」

 精一杯悩んでくれるスカー。


 コンコンと玄関のドアを叩く音が聞こえ、ピューっと消えていく。

 しばらくして戻ってきた。

「朝食だ」

 ああ、助かる。

 感謝しながら寝室を出て、壁に体重を乗せながら席に移動する。

「先に食うか?」

「カロンを待つ」

 背もたれに全てを預け、このダルさを解消する手段を考える。

 謎のダルさ。これさえ何とかできればいいんだが。

「……」

 簡単に浮かんだら苦労しないよな。

「なかなか辛そうだな」

「想像超えてる」

 程なくしてカロンが朝食に合流する。

 窓から差す光にも感謝しながら二人が準備に取り掛かる。

 俺? 正真正銘の役立たずです。

「またサラダ~?」

 スカーが文句を言いながら三つの平たい皿を出す。

 それぞれ既に盛り付けられていて透明な物で簡易的に保存されていた。

「文句はダメですよ」

「でもサラダだけって……足りねえよ!」

『文句は、ダメですよ?』

「はい……」

 俺も乗り気ではないが、サラダを受け取って開封する。

 マジでただのサラダ。味付けは酸っぱいタイプだ。

 まあ、スッキリはするかな。

「納得いかないよー」

「朝に肉を食べていたワタクシ達が悪いんです」

「たしかに……」

 シャキシャキ、シャキシャキ。

「ごちー」

 もう食い終わったスカーが俺の隣に参上する。


 急いで食べたのか、口にキャベツみたいなのが付いてる。


「なんだよ」

「食べさせてあげよう」

「いいよ、別に」

「たまには甘えろ病人」

 そう言って俺からフォークを強奪すると。

「はい、あーんして」

 野菜を絡めて俺の口元に持ってきた。

 落ちてもいいようにフォークの下には手のひらがスタンバイしている。

「分かった」

 フォークを咥えるとスカーが優しく引き抜き、口の中にサラダを置いていく。

 ちょっと美味しいかもな。

「ふふ」

「なんだよ」

「嬉しいんだ」

 変な奴。それから何度か食べさせてもらって楽にサラダを完食した。

「水が欲しいかな」

「あるよー」


 俺に向けられる人差し指。


 なぜかスカーがにやにやしている。

「なんかやだな」

「変なことはしないってば」

 約束だぞ。

 スカーを信じて人差し指をぱくり。

 次第に魔法の水が口の中に溜まり始める。

 俺の事を心配しているのか、前回より出てくる量は控えられている。

 どこから出てくるんだ? そう思って指を舐めて確かめる。

 水圧を感じたのは指先だった。

「く、くすぐったいよ……」

 疑問は解決したから飲むことにする。

 ごくごく。

「もう要らなかったら人差し指を吸ってね」

 ごくごく。満足した俺は形状記憶合金のように口内を人差し指で包む。

「……」

 水が止まり、スカーの指がゆっくり引き抜かれる。

 別に手を叩くでも良かったと思うんだが。

「オレも飲むから……」

 そう言って濡れそぼってキラキラ光る人差し指を咥える。


 指先から水は出るのに、根元まで咥えてる。


 その間にスカーの口元についたキャベツの切れ端を取ってあげる。

「……ッ!」

 スカーが目を見開いて俺を見る。

「どうした?」

 貴重な栄養だから食べておくけど、まずいことしたかな?

「……」

 何も言わないで背を向けられた。納得がいかない。

「変な奴」

 それからしばらくゆっくりしていると。


『じゃ、行くか』


 スカーが席を立った。

「そうですね」

 俺も重い体を立ち上げて、日差しにもう一度、感謝する。

 なんで感謝するのかって? あわよくば神様に治してもらおうって寸法だ。

 背中に一本だけ武器を付けた。これ以上は重く感じて無理だし、振れる気がしてない。

 部屋を出るといつもの男が腕を組んで待っている。


『今回は一体一のトーナメント方式のテストがある』


「トーナメント?」

『大会のようなモノだ、ついてこい』

 そう言うと教室の方に歩いていく。

 遅い俺はだんだん距離を離される。

 気づいたスカーがスタスタ戻ってくる。

「やっぱ帰れよ」

「テストは捨てれない」

「じゃあ……しょうがねえな」


 スカーが地面に手をかざす。


 円形の薄い氷が俺の足元に現れた。

「なにこれ?」



『セグウェイ』



 はっ? どこが?







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