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第30話 したいこと

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 食べ方ってみんな違うんだなあってふと思う。

 カロンは細かくちぎったパンをスープを浸けてほいっと口に放る。

 上品だな!

 スカーは先にパンを楽しむ度にスープを飲んでいた。

 俺はもちろんスカーと一緒のタイプ。

 スプーンはどこにあるかな~。

 カゴの中からスプーンを見つけて手に取る。

 スープにスプーンを押して沈め、中身を混ぜる。

 開放された幸せの香りがホワホワ昇ってくる。

 ただのスープでこんな気分になるなんてな!

 オレンジ色の具材をすくって口に含む。

 ちょっと硬い食感の後に独特な甘み、優しい味わい。

 静かに温もりを堪能していると。


『食べさせてほしい?』


 スカーが俺を見ながら何か言う。

「何が?」

「おーして欲しいのか仕方ないなあ」

 そう言っては席を立つとスープが入ったお椀を持って俺の隣に来た。

 意味がわからない。

「まさかぶっかけるつもりか!」

「ふふふー」

 静かにスプーンをお椀に沈めて持ち上げる。

 湯気を纏った液体が見える。

「や、やめろ……!」

「ふー、ふー」

 スプーンに乗ったスープがスカーの息で揺れる。

 えっ?



『はい、あーん』



 そう言ってスカーは口元にスプーンを近付けてくる。

 なんとなくスプーンを口に含む。ちょうどいい温度だ。

「おいしい?」

「……」

 答えないでいると心配そうに俺を覗き込んできた。

「おいしいよ」

「当たり前だ」

 満足したのか、ニコニコしながら自分の席に帰っていく。

 なんだったんだ?

 それからは黙々と食べ続けた。

 手を合わせて食事を終わらせる。

「なんですか? それ」

「おいしかったですって食べ物に伝えてた。見てるかは知らないけどな」

「いいですね」

 そう言ってカロンもスッと手を合わせる。

「ふう、片付けるか」

 食器を重ねてカゴに戻していく。

 最後にお盆を畳んで戻した。


 一息ついて何となく聞いてみる。

「どうやってタワー占拠したんだ?」

 集団戦について。

 あの時、十人以上の仲間は片方のタワーに集中していた。

 壊滅させるなら爆発魔法が合理的だが、そんな音は聞こえてこなかった。

「あれはですね……」




 最初、スカーさんは状況を見て嫌そうな顔をしていました。

 敵と仲間が入り乱れてタワーの奪い合い。仲間ごと吹き飛ばすのは得策ではありません。

 仲間も守りながら相手が嫌がる戦法。

 それが思いついたのか、手を空に伸ばし始めました。

『よし! 火を降らせよう!』

 その瞬間、言葉通りに大きなマグマが降り注がれる。

 何個も、何個も。

 明るくなかった世界が一瞬で赤く染まる。

『でも仲間さんは!』

『カロンちゃんは仲間に風を当てて避けさせたらいい!』

 確かに。そう思ったわけです。




『なので、ケアしつつ強引に占拠しました』

 豪快だなあ……魔力あると考え方も違うんだろうか。

 そりゃ逃げてくる奴が居てもおかしくない。

「ここだけの話ですが、スカーさんはあなたと戦いたくて仲間が処理されるのを近くで待ってたんですよ」

 外道ですよね。カロンがボソッと呟く。

「そ、それは言うな~!」

 スカーが恥ずかしそうにカロンを見る。

「そうでしたか? 何も言わなかったので」

「むむー」

 戦いたい、か。

「じゃあ、ワタクシは眠いので寝ます」

 カロンは恥ずかしい話を一方的に披露してスタスタ寝室に消えていった。

「酷いなカロンちゃんは。嘘つきやがってー」

「嘘だったのか!」

 騙された!

「ち、違うけど……」

 どっちだよ。

「じゃあ俺は凍らせた女の子見てくるから」

 まだ凍ってるといいんだがな。

「ダメ」

 スカーが俺の手を引き止める。

「なんでだよ、面白そうだろ」

「あんまりしらない人と話してほしくない……魔力がないから心配なんだ」

 束縛が激しい。

「俺が無茶するタイプじゃないって知ってるだろ?」

「うん」

「問題なんて起きないから」

「オレとは喋りたくないの……?」


 問題が発生しそうだな!


「分かった、話をしよう」

 予定を変えてスカーとお話する。

 どんな話をしようかなー。

「ま、座ろうか」

 適当な椅子に座り直すと。

 当たり前のようにスカーが俺の太ももに腰を下ろす。

「俺の好きな人は覚えてるか?」

 ちょっと昔の話。中学生くらいの時。

「あの子だろ、おっとりしてて」

 それでいて優しくて。

 みんなが困った時に、一人で解決できる才能の持ち主。

 可愛いし、クラスのリーダーだった。

「……なんかイライラする」

「初恋の人を思い浮かべたんだよな? どうしてそうなる」

「そいつの劣化した存在がオレってなっちまって」

 凄すぎて遠い存在だから尊敬して好きになるんじゃないのか。



『今だとスカーの方が上だけどな』



 魔法が使える、俺の好みを知ってる、あの子より可愛い。

 魔法、この時点で初恋なんて割とどうでもよくなってくる。

「本当か!」

 そう言って振り返ると。

『オレもリュウキが一番なんだ~』

 俺の胸に倒れて頬をる。

「変な気分だな」

「なんでだよ!」

 不服そうに上目遣いで俺を見る。

「最初俺のこと毛嫌いしてたろ」

「気づいたんだよ……仲良くしなきゃやってけないってさ」

「仕方なくって事か?」

「い、今は違うから! お前は要る!」

 だから。そう言って『行かないで』と言う。


「行くところがねえから安心してくれ」

「それもそうかー」

 それから色んな話をして、程よい眠気がやって来る。

 長い時間、話をしてしまったようで。

「ふあぁ」

 スカーが気持ちいいあくびを目の前でしてくる。

 俺も釣られて……釣られるもんか!

 必死に何とかこらえる。

「寝るわ」

 立ってすぐにふらついたスカーを急いで支える。

「大丈夫かよ」

「問題ないって」

 心配なので支えながら寝室に入る。カイロみたいに手が暖かいな。

「今日もこっちで寝る」

 そう言って俺のベッドに寝転がった。

 とりあえず俺も入ってしばらく様子を見てみる。

「うう……」

 スカーが唸っている。心配だ。

「ちょっとデコ貸せ」

「いいって……」


 無理やりスカーに被さって手を当てる。

 めちゃくちゃ熱い。手が冷えてるだけか?

 そう思って自分のおでこもスカーに当ててみる。


『わわ……』


「何だこの熱さは!」


 なかなかの高熱だった。早急になんとかしなければ!






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