上 下
23 / 42

第22話 屈辱

しおりを挟む






 状況を確認する。

 トイレに行ってする事をしたら紙がなかった。

 そもそもトイレットペーパーを刺す所がない。

 最悪だ。

 良い匂いがしない空間で声を出すのは億劫。


 何事も犠牲が付き物。


 今回の犠牲は、俺のプライド。


『スカー! スカー!』

 精一杯の声を張り上げるとドタバタ走る音が聞こえ、ドアの前で止まる。


「どうした」

「紙がなくて困ってる」

「紙なんてないよ」

「えっ?」

 驚愕の事実を告げられる。そんなバカな?

「じゃあどうやって拭くんだよ」

「ウォシュレットって知ってるだろ?」

 左側に板がある。その上に手を置いて魔力を送るとなんやかんやでお尻が綺麗になるらしい。

 魔力必須? 正気かよ。

「魔力ないんだけど」

「じゃあオレがやってもいいけど」

 ぐっ……ああ、これは仕方ねえ。

 手を伸ばして何とか鍵を開けてスカーを招き入れる。

 入ってきたスカーが、しなくてもいいのに鍵を締め直す。


 ゆっくり歩み寄るスカーの手が板に近づく。


 触れる直前でピタリと止まり、俺の耳元で囁いた。


『なあ、ちゅーしよ』


 えっ?

「ここトイレだぞ?」

 こいつは何を言ってるんだ。

「だからだよ」

「ここはトイレだって言ってるだろ、マジで」

 俺の下には口にも出したくない存在がとぐろ巻いてるんだぞ?

「じゃあオレはこのまま出てくよ」

 逆再生したようにスカーが後ずさる。

「ま、まて」

 出ていかれたら正直困る。

「するのか?」

「いや、キスは無理だ。こんな状況でしたくねえ」

「じゃあ触って」

 俺の前で胸を張るとそんなことを言う。

「何を?」

 色々考えても検討がつかない。

「胸だろうがっ」

「はあ?」

「触って謝れ!」

 従うしかないのか。全てを諦めた俺は、決して小さくはない胸を手で包んだ。

「これで満足?」


『触らなくてごめんなさいって言え』


 俺は今まで女の子に言われて胸を揉むってシチュエーションには憧れていたんだが。


 こんな屈辱的な胸揉みがあるとは思わなかった。


「触らなくてごめんなさい」

「仕方ないな、次から気をつけろよ」

 俺がどんなミスをしたっていうんだ。

 スカーが板に手を置いた瞬間、お尻が洗浄されていくのを感じる。

 しばらく経ってズボンを履き直した。

「あれ、流れてなくね」

「流す時はこうするんだよ」

 スカーがそう言って手をかざす。

 大量の水を中に注ぐと、いつの間にか諸悪の根源は消えていた。

「へえー」

「まさか、液体の方も流してねえの?」

「流せるわけねえだろ」

 魔力ないんだし。

「汚ねえ奴」

 汚いのはどっちだか。


 トイレから出て寝室に戻る前に机のプレゼントを回収する。

「なにしてんの」

「いや、別に」

 風呂場から水の音が聞こえない時点で察してたが、寝室に戻るとカロンはもう制服姿で何かしていた。


『二人で何をしてたんですか?』


 聞かれたスカーの表情が固まる。

「せ、説教してたんだ! カロンの胸、揉んじゃったからな!」

 ものは言い様。

「それはそれは」

 特にカロンは気にしないらしい。


 じゃあ俺も挽回と行きますか!


「悪い事をしたとは思ってる、罪滅ぼしって訳じゃないんだが」

 カロンに歩み寄り、箱を開けて中を見せる。

「なんですか、これは」


『鉱石類が苦手って言ってたから、オーダーメイドで作った』


 カロンは革袋を手のひらに乗せて、目を細める。

「縫い目が荒い部分はあなた、ですか」

「そうだ」

「礼は言いたくありませんが、貰っておきます」

 そう言って首に掛け、袋のツルツルした部分を撫でる。

 カロンの睨んでいた瞳が柔らかくなった気がした。

「なあ」

 黙って見ていたスカーが俺の肩をツンツンしてくる。

「なんだ」

「欲しい」

「はあ? もう首に掛けてるだろ」

「首じゃなくても良いんだ」



 いつもに増して物欲しそうな目で俺を見る。



『お前の手作りが欲しい……』

「作るのキツかったから嫌だわ」

「頼むー作ってくれよ」

「自分で作れ」

 絡めてくる手を振り払うとそれ以上は言ってこなくなった。

「まあ、行きましょう」


 不服そうなスカーをカロンが引っ張って部屋を出る。

 俺も武器を付け直して後を追う。

 男はまだ来てなかった。


 誰かの腹が鳴り、自分が空腹だということに気づく。

「食べに行きましょうか……」

「まあ……」

 俺はともかく、何も食わずに寝た二人は声に覇気がない。



 学園を出て屋台を見ながら何を食べるか考える。

「オレはガッツリ食いたい、ヤケ食いだ」

「賛成です」

 俺は反対なんだけど。



『おっさん! 三本!』



 結局アルカデリアンになった。








しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

分析スキルで美少女たちの恥ずかしい秘密が見えちゃう異世界生活

SenY
ファンタジー
"分析"スキルを持って異世界に転生した主人公は、相手の力量を正確に見極めて勝てる相手にだけ確実に勝つスタイルで短期間に一財を為すことに成功する。 クエスト報酬で豪邸を手に入れたはいいものの一人で暮らすには広すぎると悩んでいた主人公。そんな彼が友人の勧めで奴隷市場を訪れ、記憶喪失の美少女奴隷ルナを購入したことから、物語は動き始める。 これまで危ない敵から逃げたり弱そうな敵をボコるのにばかり"分析"を活用していた主人公が、そのスキルを美少女の恥ずかしい秘密を覗くことにも使い始めるちょっとエッチなハーレム系ラブコメ。

二度目の異世界に来たのは最強の騎士〜吸血鬼の俺はこの世界で眷族(ハーレム)を増やす〜

北条氏成
ファンタジー
一度目の世界を救って、二度目の異世界にやってきた主人公は全能力を引き継いで吸血鬼へと転生した。 この物語は魔王によって人間との混血のハーフと呼ばれる者達が能力を失った世界で、最強種の吸血鬼が眷族を増やす少しエッチな小説です。 ※物語上、日常で消費する魔力の補給が必要になる為、『魔力の補給(少しエッチな)』話を挟みます。嫌な方は飛ばしても問題はないかと思いますので更新をお待ち下さい。※    カクヨムで3日で修正という無理難題を突き付けられたので、今後は切り替えてこちらで投稿していきます!カクヨムで読んで頂いてくれていた読者の方々には大変申し訳ありません!! *毎日投稿実施中!投稿時間は夜11時~12時頃です。* ※本作は眷族の儀式と魔力の補給というストーリー上で不可欠な要素が発生します。性描写が苦手な方は注意(魔力の補給が含まれます)を読まないで下さい。また、ギリギリを攻めている為、BAN対策で必然的に同じ描写が多くなります。描写が単調だよ? 足りないよ?という場合は想像力で補って下さい。できる限り毎日更新する為、話数を切って千文字程度で更新します。※ 表紙はAIで作成しました。ヒロインのリアラのイメージです。ちょっと過激な感じなので、運営から言われたら消します!

神様に転生させてもらった元社畜はチート能力で異世界に革命をおこす。賢者の石の無限魔力と召喚術の組み合わせって最強では!?

不死じゃない不死鳥(ただのニワトリ)
ファンタジー
●あらすじ ブラック企業に勤め過労死してしまった、斉藤タクマ。36歳。彼は神様によってチート能力をもらい異世界に転生をさせてもらう。 賢者の石による魔力無限と、万能な召喚獣を呼べる召喚術。この二つのチートを使いつつ、危機に瀕した猫人族達の村を発展させていく物語。だんだんと村は発展していき他の町とも交易をはじめゆくゆくは大きな大国に!? フェンリルにスライム、猫耳少女、エルフにグータラ娘などいろいろ登場人物に振り回されながらも異世界を楽しんでいきたいと思います。 タイトル変えました。 旧題、賢者の石による無限魔力+最強召喚術による、異世界のんびりスローライフ。~猫人族の村はいずれ大国へと成り上がる~ ※R15は保険です。異世界転生、内政モノです。 あまりシリアスにするつもりもありません。 またタンタンと進みますのでよろしくお願いします。 感想、お気に入りをいただけると執筆の励みになります。 よろしくお願いします。 想像以上に多くの方に読んでいただけており、戸惑っております。本当にありがとうございます。 ※カクヨムさんでも連載はじめました。

[完結済み]男女比1対99の貞操観念が逆転した世界での日常が狂いまくっている件

森 拓也
キャラ文芸
俺、緒方 悟(おがた さとる)は意識を取り戻したら男女比1対99の貞操観念が逆転した世界にいた。そこでは男が稀少であり、何よりも尊重されていて、俺も例外ではなかった。 学校の中も、男子生徒が数人しかいないからまるで雰囲気が違う。廊下を歩いてても、女子たちの声だけが聞こえてくる。まるで別の世界みたいに。 そんな中でも俺の周りには優しいな女子たちがたくさんいる。特に、幼馴染の美羽はずっと俺のことを気にかけてくれているみたいで……

♀→♂への異世界転生~年上キラーの勝ち組人生、姉様はみんな僕の虜~

高嶺 蒼
ファンタジー
痴情のもつれ(?)であっさり29歳の命を散らした高遠瑞希(♀)は、これまたあっさりと異世界転生を果たす。生まれたばかりの超絶美形の赤ん坊・シュリ(♂)として。 チートらしきスキルをもらったはいいが、どうも様子がおかしい。 [年上キラー]という高威力&変てこなそのスキルは、彼女を助けてくれもするが厄介ごとも大いに運んでくれるスキルだった。 その名の通り、年上との縁を多大に結んでくれるスキルのおかげで、たくさんのお姉様方に過剰に愛される日々を送るシュリ。 変なスキルばかり手に入る日々にへこたれそうになりつつも、健全で平凡な生活を夢見る元女の非凡な少年が、持ち前の性格で毎日をのほほんと生きていく、そんなお話です。 どんなに変てこなお話か、それは読んでみてのお楽しみです。 感想・ブックマーク・評価などなど、気が向いたらぜひお願いします♪ 頂いた感想はいつも楽しみに読ませていただいています!!! ※ほんのりHな表現もあるので、一応R18とさせていただいてます。 ※前世の話に関しては少々百合百合しい内容も入ると思います。苦手な方はご注意下さい。 ※他に小説家になろう様、カクヨム様でも掲載しています。

嫌われ者の悪役令息に転生したのに、なぜか周りが放っておいてくれない

AteRa
ファンタジー
エロゲの太ったかませ役に転生した。 かませ役――クラウスには処刑される未来が待っている。 俺は死にたくないので、痩せて死亡フラグを回避する。 *書籍化に際してタイトルを変更いたしました!

異世界TS転生で新たな人生「俺が聖女になるなんて聞いてないよ!」

マロエ
ファンタジー
普通のサラリーマンだった三十歳の男性が、いつも通り残業をこなし帰宅途中に、異世界に転生してしまう。 目を覚ますと、何故か森の中に立っていて、身体も何か違うことに気づく。 近くの水面で姿を確認すると、男性の姿が20代前半~10代後半の美しい女性へと変わっていた。 さらに、異世界の住人たちから「聖女」と呼ばれる存在になってしまい、大混乱。 新たな人生に期待と不安が入り混じりながら、男性は女性として、しかも聖女として異世界を歩み始める。 ※表紙、挿絵はAIで作成したイラストを使用しています。 ※R15の章には☆マークを入れてます。

処理中です...