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第14話 読めない気持ち

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 スカーが前に出ると先生は手を空にかざした。


『火の粉が舞う夢をあなたに届けましょう』


 そう言ってさっきの魔法とは比べ物にならない火球を空に浮べる。 


「あっつ!!」

「せんせー! めちゃくちゃ暑いです!」


 その瞬間から周囲の温度が急激に上がり、汗が垂れる。


「あなたに無効化する力はありますか?」

「ないよ」

「はい?」

「ないのでやめてもらっていいですか、オレの後ろの人も死にますよ」

 それを聞いたアステル先生は安全の面も考えて火球を収めた。

「むう……」

「先生の魔法を無効化しやがった!」

「あれが噂の謙虚魔法なのか!」

 謙虚魔法ってなんだよ。



 それからは普通の魔法を放ってスカーの番は終わった。

 流れるようにみんながクリアしていき、カロンもいつの間にかクリアしていた。


『……さて、最後の方ですね』


 このまま終われば良かったのに。

 仕方なく、ラストの俺が前に立つ。

「がんばー」

 金髪の子が応援してくれてる!

 これは頑張るしかないな!

 ……でも、どうやって?

 スカーの方を見るが、肝心の俺の番だと言うのに空を眺めている。

 気づいて! 助けて!

「風の力を」

 俺を見てくれ! ヤバイぞ!

「これを無効化しなさい」

 くそっ、こうなったら適当に手を出して祈るしかねえ!


 魔法よ響けー! うおおおお!


 一直線に向かってくるつむじ風に火を祈る。

「ぎゃああ」

 何も出せなかった俺は、無効化できずに数メートル吹き飛ばされてしまう。

「ぐはっ」

 尻もちを着いてしまった。

「よそ見をしてましたか? もう一度しますね」

 マジで?

 そう言って指先を俺に向ける先生。

 ちらりとスカーを見る。

 まだ上の空だ。

 全然見てくれない、わざとなのか?

 まあいい。我は神に遣わされし鬼神……意味などないわ!

「甘く見るなよ!」

 しかし、何も出ない俺は吹き飛ばされざるをえなかった。

 超カッコ悪い。

「いってぇ」

 優しい魔法だから良かったけど、火とか飛ばされてたら死んでたかもしれない。

 そう考えると魔法って強力なのに、使えない俺はヤバい。

「……はい、次の研修まで休憩するように」

 そう言って黒い扉を近くに作るとアステル先生は空間を出ていった。

 ほかの生徒も続々と帰っていく中、一人だけ俺の所に来た。


『大丈夫?』


 金髪の子が俺に手を差し伸べてくれたのだ。

「ああ、助かる」

「火は得意じゃなかったの?」

 確かに風に対して有効なのは火だった。

「何故か出なかった」

 理由は知ってるけど。

「調子が悪かったんだね」

「どーんまい」そう言うと扉の中に消えていった。


 スカーの姿も、もう無い。


「どうしたんですか」

 代わりにカロンが話しかけてくれた。

「喧嘩しちまった」

「それは……」

「いや、自分でなんとかするよ」

 俺に詳しいのは俺だけだからな。


 空間を出た俺達は一先ず席に戻った。

 どうやら今日はこの教室をずっと使うらしく、みんながその場に留まっている。

 しかし、気まずい。

 何故なら俺は魔法が使えてない。

 めちゃくちゃ弱いヤベー奴という印象が広がってスクールカースト最下位もありえる。

「もしかしてあの人が魔力ない人?」

 ヒソヒソとそんな話が聞こえてくるような。

「はあ……」

「よしよし」

 ため息をついていると隣の席の金髪の子が俺の髪を優しく撫でてくれた。


 て、天使のようだっ!


「調子悪い時もあるのにねー」

「そ、そうだよな」

「一回のミスで決めちゃうなんて」



『ちょっとこい』



 スカーの声が聞こえて振り返る。

 いつもに増してキツい目をしていて怖い。

「あ、ああ」

「いってーらー」


 連れられて廊下に出る。

「魔法を撃ち込まれた時のお前の気持ちを当ててやろうか」

 そう言って俺を見ると「怖かったろ」って言って来た。

「怖いに決まってるだろ」

 痛い目に合うのを指くわえて待つ? そんな精神力はない。

 ざまあみろって言いたいのか?


『ごめん、さっきはやりすぎた』


 出てきた言葉は意外なものだった。


『こわかったよな』


 子供を見るような目で俺の髪に触れると、指を沈めてわしゃわしゃ撫で始めた。

「……」

 お前の考えてる事が分かんねえよ。

「許してくれないのか?」

「いや、許す」

「ありがとう」

 スカーはそう言うと俺の手を両手で包んだ。

「……」

 スカーが俺の手を離さない。

「もういいか?」

「このまま行かね?」

 彼氏気分も味わいたくなったのでそのまま教室に戻った。


 スカーを椅子に座らせて、俺も自分の席に戻ろうとする。

「まあ待て」

 しかし、握られた手にグイッと戻された。

「なんだよ」

「金髪の女、怪しいぞ」

「まさか俺を陥れて代わりにあの子と付き合う気か?」

 ガールズラブとはお前も女々しくなったな。

「それは絶対ありえん」

「どうだかな」

「とにかく、オレから見たらめちゃくちゃ怪しい」

 気にはしとくから。

「もういいだろ」

 そう言って離れようとするが、スカーの手がそれを許さない。

「なんだ、まだあるのか」

「あるよ」


 それから暫くスカーに拘束されてしまった。



 俺以外と話した方がもっと楽しかったろうに。








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