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第8話 変な奴ら

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『……二人で、辺りを見てきたらどうだ?』

 男が手早く紙をめくりながらそう言ってきた。

「どうして?」

「この手続きは長い、今のうちに建物の構造を知っておくべきだろう」

 確かに外から見た時はかなり大きい学園だと感じた。

 当日迷って遅れるなんてことになるなら、今のうちに迷っておくべきか?

「そうするか」

 スカーも迷子になる事は考えていたらしい。

『いってらっしゃいです!』

 カロンと男を残して俺達は教室を後にした。


 しかし、この辺に全体図を記しているようなポスター類はなかった。

「そもそも何処に行けばいいんだ?」

「来た道を引き返せばいいだろ」

「賢いな、俺は」

 通った廊下を思い出しながら時々人を避けて歩く。

 たまに動物の顔が付いた八頭身の人物とすれ違う。

「なんだあれは……」

「獣人的な? アニメで見た事あったよな」

 まだ慣れてなくてついつい二度見してしまう。

 キョロキョロしながら魔力を測った所に戻ってくると俺に気付いた誰かが指をさしてきた。

『おお! 言ってたら来たぞ!』

 えっ? 何が?


『やっぱり落ちたか! 魔力0!!』


 俺くらいの若い奴が取り巻きを引き連れて駆け寄ってくる。

「俺に用?」

「おめー、こんなに早いってことは落ちてんだよなぁ?」

 といい「魔力0だもんな」と呟いた。

 なんだこいつ。急に失礼すぎだろ!

 好きでなったわけじゃねえのに!

「いや、落ちてねえ」

「なんでもいいけどよ、俺様と競うことになったら死ぬだけじゃすまねえぜ」

『そうだそうだ!』

 そう言い残すと奴らはスタスタ視界から消えていった。

「なんだったんだ……」

「可哀想な奴だな」

「だろ! どうせ雑魚にしか言えねえ奴ら」

「いや、絡まれたお前が」

 はぁ?

「でも、リュウキの予想はあってるな。オレには一切目を合わせてなかったから」

「魔力控えめで一万の貴族には近づけないか」

「かもな」

 妙な奴に絡まれるのはこれが最後だと願いたい。

 興が削がれたし、もう戻るか!


「まあ、こんなことあったら仕方ねえよ」

 スカーから哀れみの言葉を貰いながらカロン達の所に戻った。

『楽しかったか?』

 男は俺達に気づくとペンを走らせながら言う。

「いや、そんなに」

「そうか」

 しばらく待っていると動いていたペン先が止まる。

「さて、ここにもう用はない」

「速すぎです! ワタクシまだ半分しか!」

「手伝おうか」

「お願いします!」

 そんなに早いのか?

 ふと思い返してみると男は俺とスカーの分をやっていた。

 でもカロンがようやく半分の時点で書き終えている。

 確かに速すぎ!

「書けばいい言葉を言え」

「アトリエ、ウィンド、裁縫」

「ほう? 次は」

「もう言っていいんですか!?」

 そんなこんなで気がついたらカロンの分も終わっていた。

「ありがとうございます!」

「気にするな」

 何もかもテキパキできるってかっこいい。

「部屋を見たら予定は終わりだ」

 その後からは自由時間ってことか!

 男は教室を出ると「ついてこい」と言って廊下を右に曲がる。

 俺達も右に曲がって後を追う。


『スカーさんと友達になれて嬉しいです』

「急だな」

 しかし、本人は満更でもないらしい。

 ……あれ? 俺は?

「実は一人でここまで来て……不安だったんです」

「どこから来たの?」

「ゲーテからです」

 ゲーテってどこだ?

 そう思っているとスカーは「ゲーテなんだ」と言った。

 絶対知らないだろ。

「こんな所に来れるのは一人が限界で」

「どうして?」

「ゲーテは闇の軍勢に占領されてて、資金も資源も何もかも」

「あぁ……」

 スカーは聞くべきじゃなかったと目を逸らした。

『でも、ここで強くなって闇の軍勢を追い払うんです!』

「その時は一緒に行くよ」

 それを聞いた男が「英雄が束になっても沈まない不滅の存在だ」と言い『迂闊な約束は自分の身を破ることになる』と警告する。


「でも気持ちは良くないだろ」

「強くなってから言うことだ」

「オレは絶対つよくなるしな!」

「そうか」

 スカーの意気込みを軽く流し、立ち止まる。

「ここが部屋だ」

 横を見てみると一定の間合いでドアがある。

 この辺は寮エリアって感じなのか。

 俺達の前にも例外なく木のドアがあり、ドアノブの上に穴がある。

「これが鍵だ」

 そう言って三本の鍵を取り出すとカロン、俺、スカーの順に一本ずつ手渡した。

「入っておくか?」

「そうしよう」

 スカーがドアノブを回し、鍵がかかっていることを確認する。

 鍵穴に凹凸がある方から差し込んで右に捻る。

 カチャンッ。何かが外れる音が響いた。

 ドアノブを回してゆっくり引くと部屋の香りが漂ってくる。

 甘いとかそんなんじゃない、部屋特有の落ち着く匂い。

「割と普通だな……」

「そうですね」

 中に入ってみると最低限の設備が揃っているのは分かった。

 ワンルームじゃなくて、俺の魔力0で考えるなら贅沢な部屋だった。



 設備を見終えた俺達は鍵を掛けて出た。

「これでするべきことは終わった」

 男は壁に背を預けると腕を組む。

『次の夜が明けるまで好きに過ごすといい』

「本当か!」

「ああ」

 じゃあアレ行きたいな。

「行こうぜ、屋台」

「奇遇……いや、必然か。オレもそう思ってた」


 お前は俺、楽しみたいモノは一緒だよな!




『わ、ワタクシも行きますー!』









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