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第3話 謁見

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 門の近くには衛兵が居るんだが、最初に通ったので顔パスになっていた。


『リュウキ殿だ、通らせろ』


 衛兵がそう言うと門が金属音を鳴らして動き始める。

「すげー」

 もう一人の俺が歯車のギミックに目を輝かせる。

「娘なんだから驚きすぎるなよ」

 開ききったことを確認した衛兵は「通れ」と言った。

 俺達は足早に通り抜け、城内の更なる階段を駆ける。

「広いなー」

「そうだな」

「フットサルくらいならあそこでできそうだよな!」


 この両扉の先で王が待っているはずだ。

 最初の男がしていたように、見様見真似で両手を扉に添える。

 押し開けるように足を進ませたがビクともしなかった。


『重いなら手伝うぞ』


 それに気づいた近くの騎士が横から手を添える。

「ありがとう」

「なに、役目を果たして戻ってきたのだろう? ならば王の謁見を手伝うのは当然である」

 そう言って扉を開いてかれた騎士は定位置に戻った。

 目の前に居たそっくりさんを連れてきただけっていうのが、めちゃくちゃ申し訳ない。

「はあ……」


 俺って力すらないのかよ!


「オレはどうしたらいいんだ?」

「静かについてきてくれ」

 カーペットの道を歩いて、俺は王を見据える。

 怯えを押し殺すように膝を着かせた。

『エオルア・スカー様を連れ戻して参りました』

 それを聞いた王は椅子から降りてスカーに近づくと。

 シワシワになった手で、愛娘の指を宝のように包む。

「娘よ……あの時は悪かった……」

 王は娘を見つめて言う。


『少し、見ない間に瞳が力強くなったか?』


「……」 

 スカーの中身はまだ王とあったことがない。

 俺がカバーするしかねえ!

「そうでしょうか? とても優しい目をしているように思いますが。優しい目をしているので、とても優しい目だと思います」

 俺は「優しい目」を三回繰り返した。

「それもそうか……リュウキよ、良くやってくれた」

 ゴリ押しに納得した王は、そう言って俺を労うとさらに言葉を続ける。

「褒美は何がいい?」

「要りません」

 簡単に見つけれた俺が受け取る資格はねえ。

「ならば、いつでも言うがいい」

 王は近くの人を呼び寄せると指示を出した。

「彼に安息の部屋を与えなさい」


 俺の前を横切った男は『ついてこい』それだけ言って歩き始めた。





 謁見の間を出てから別の階段を上がる。

 しばらく歩くと男は立ち止まった。

『この部屋でしばらく休むといい』

 そう言って去ろうとする男に声をかける。

「少し聞きたい」

「……なんだ」

「王はスカー様を大事にされているのか?」

 男は「なんだその事か」と言いながら腕を組むと話を続けた。


『とても寵愛ちょうあいしている事だろう、そうでなければ学び舎選びで喧嘩するなどありえない』

『まあ、さすがに今回は娘の意見を尊重するみたいだが』と付け加えた。


「娘の意見って?」

「国民に混じって寮内で寝泊まりがしたいらしい」

 そう言い残して男は背を向けて歩き始めた。





 部屋に入った俺は最速でベッドに飛び込む!

 モフモフツルツルで完璧!

 体を起こして、金色のテーブルに置かれた水差しの中身をコップに注いでみる。

 透明な液体が溜まっていく。匂いは特にない。

 飲んでみるとただの水だった。

 スカーの様子を見に行く事も考えたが、ベッドに心を奪われた俺はその身を委ねることを優先。

 どうせアイツなら俺を起こしたりしてくるだろ。そんな気がする。

 つらつらと目を閉じた。







 揺らされる感じがして、ゆっくり目を開く。

 ぼやけた視界に赤い色が映り込んだ。


『起きろ、起きろー!』


 もうちょっとだけ。揺らすな~。

 ユサユサ! ユサユサユサ!

 女の声とは思えない力強さ。嫌でも目が覚めてくる。

 あまりのウザさに俺は体を起こした。

「…………何か用か?」

「知らねえけど、なんか出発するみたいなんだ」

 高度な魔法研修とか王が言ってたしな。

「学校とかの試験だろ、それがどうかしたか?」

 スカーは深いため息をついた。

「オレってこんなに意地悪だったのか……なあ、オレなら分かるだろ?」

「言ってみろ」

「ああもう! 一緒に来てくれよ!」

 可愛い声で言われると仕方ない、中身俺だけど。

「分かった」

 部屋から引きずり出された俺は、スカーに手を引かれながら階段を駆け下りる。

 寝起きで頭が回らない。階段を踏み外しそうだ。

「そういや、昨日どうだった」

「オレ? 入念にマッサージとか魔法とか掛けられたよ。ファンタジーすぎて驚いた!」

「そうか」

 謁見の間に行くと、そこには忙しなく指示を出す王の姿があった。

 それでもスカーを認めるとその場を離れて歩み寄ってくる。

 娘の事が最優先らしい。

「準備は出来たのか?」

 スカーはどう答えるつもりなんだろう。


『……お願いがあります』


 かわいい声から飛び出たのは女の子らしい口調だった。

「なんだ? 申せ」

「この方と魔法研修に望みたいです」

 そう言ってスカーは俺の肩を叩く。

 えっ? 俺も研修に行くの?

「ほう……それは共に学びたいという事か?」

「はい、お願いしまぁす」

 なにその猫なで声。

「分かった、急いで手配させよう。リュウキもそれでいいのか?」


 黙って横の美少女を見てみると。

『良いだろ……?』

 俺にもその声使えよ!

 陰湿にも手の甲を摘んできやがる。

 めちゃくちゃ痛え。断ったら引きちぎられそうだ。


「構いません」

「そうか……先に褒美を与えておこう」

 王は服のポケットから指輪を取り出すと。

 俺を見て左手を出すように言った。

「僅かながら魔力が宿っておる、お守りにはなるだろう」

 そう言うと薬指に通してくれた。

 近づけて見てみる。赤い宝石が埋め込まれているようだ。

「ならば、あとは彼に任せるとしよう」

 王は男を呼び寄せた。

 その人は俺に部屋を案内してくれた人だった。

「我が娘達をアスタロト・アカデミーまで頼めるか?」


『御意』


 男は先に歩き始めると少しだけ振り返る。



『ついてこい』







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