上 下
5 / 7

切り株座りのフレア様

しおりを挟む
『では、参りましょう』

 フレア様の隣に並んで森に入っていく。

「……」

 草を踏んで進む音しか聞こえない。

 たまに生き物のさえずる声が聞こえる。

「この辺で、採取をします」

「はい」

「守って欲しいです」

「分かりました」

 しゃがんで木の近くで何かをするフレア様。

 俺はいつものように右手で剣を持つ。

 いつもと違う動きをすることが怖いと感じた。

「もう少しですので」

 ただ待つだけなのに、手汗で剣が錆びてしまう気がして。

「はい」


 不意にカサカサと草が揺れ――


『キシャア!』

 飛び出してきた獣の悪魔を俺から過ぎ去る前に剣で貫く。

『ギッ!?』

 それでも死なない悪魔には首根っこを掴んで脳天から剣で仕留める。

 ピクピク震えて動かなくなった悪魔は剣に刺さったまま黒い粒子となって空気に溶けていった。


「……さすが、父上が選んだ方です」

「小さな悪魔でした、大悪魔が来る前に採取を」

「集中します!」

 時々現れる悪魔からフレア様を守り通し、満足して貰えるまでの採取を待った。

「もう戻ります!」

「分かりました」

 周囲を見ながら確かな足取りで拠点に戻った。


『帰ってきましたか』


 大剣使いが迎えてくれる。

「はい、彼はとても頼もしいです」

「明日も頼ませましょうか」

「お願いします」

 な、なんだと!

「お願いしますね、騎士さん」

 フレア様がニカリと笑えば。

「……はい」

 俺の反論は笑顔に吸われていた。

「フレア様、食事の方は如何しましょう、肉のみですが……」

「新鮮なお野菜は馬車にあります、皆さんと一緒に」

「はっ」

 大剣使いはその場を去ると騎士を集めていた。

「これより食事の時間を迎える、準備だ!」

「おー!」

 俺はフレア様と馬車にあるという野菜を持ってきた。

 赤緑白。カラフルな野菜達。

 これを騎士達と仲良く分けるというのだから、フレア様は優しい。

「精一杯の準備をさせました」

 切り株で作られた椅子はフレア様の為に作られた。

 俺達は草の下で足を組んで食えたらそれでいい。

「これ、フレア様の野菜だ」

「なるほど、料理が得意な騎士に頼んでおこう」

 大剣使いのおかげで楽ができた。

 それから焼いた肉と野菜を切り分け、俺達は村に残っていた木の皿を軽く拭いて使うことにした。

 フレア様にはこのような事をして欲しくない。

『いえ、このままでも……』


 野菜をカットした騎士の提案で野菜で皿を作ればいいということになり。

 食べれる野菜の皮を綺麗に重ねて即席の皿を作ることに成功。


「あ、ありがとうございます……」

「いえいえ」

 切り株に座るフレア様を守るように胡座を組んで飯を頂く。

「いただきます」

 静かに手を合わせて右手で頂く。

 フォークやナイフなんて贅沢な物はフレア様にも出せなかった。

「申し訳ありません、フレア様」

 誰かの言葉に『良いのです』と深く許した。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

巻き込まれ召喚されたおっさん、無能だと追放され冒険者として無双する

高鉢 健太
ファンタジー
とある県立高校の最寄り駅で勇者召喚に巻き込まれたおっさん。 手違い鑑定でスキルを間違われて無能と追放されたが冒険者ギルドで間違いに気付いて無双を始める。

【完結】異世界で小料理屋さんを自由気ままに営業する〜おっかなびっくり魔物ジビエ料理の数々〜

櫛田こころ
ファンタジー
料理人の人生を絶たれた。 和食料理人である女性の秋吉宏香(あきよしひろか)は、ひき逃げ事故に遭ったのだ。 命には関わらなかったが、生き甲斐となっていた料理人にとって大事な利き腕の神経が切れてしまい、不随までの重傷を負う。 さすがに勤め先を続けるわけにもいかず、辞めて公園で途方に暮れていると……女神に請われ、異世界転移をすることに。 腕の障害をリセットされたため、新たな料理人としての人生をスタートさせようとした時に、尾が二又に別れた猫が……ジビエに似た魔物を狩っていたところに遭遇。 料理人としての再スタートの機会を得た女性と、猟りの腕前はプロ級の猫又ぽい魔物との飯テロスローライフが始まる!! おっかなびっくり料理の小料理屋さんの料理を召し上がれ?

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】

ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった 【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。 累計400万ポイント突破しました。 応援ありがとうございます。】 ツイッター始めました→ゼクト  @VEUu26CiB0OpjtL

猫王様の千年股旅

ma-no
ファンタジー
 神様のミスで森に住む白猫に転生させられた老人。  紆余曲折の末、猫の国の王となったけど、そこからが長い。  魔法チートで戦ったり技術チートしたり世界中を旅したりしても、まだまだ時間は有り余っている。  千年の寿命を与えられた猫は、幾千の出会いと別れを繰り返すのであった…… ☆注☆ この話は「アイムキャット!!? 異世界キャット漫遊記」の続編です。 できるだけ前情報なしで書いていますので、新しい読者様に出会えると幸いです。 初っ端からネタバレが含まれていますので、気になる人は元の話から読んでもらえたら有り難いですけど、超長いので覚悟が必要かも…… 「アルファポリス」「小説家になろう」「カクヨミ」で同時掲載中です。 R指定は念の為です。  毎週日曜、夕方ぐらいに更新しております。

異世界で買った奴隷が強すぎるので説明求む!

夜間救急事務受付
ファンタジー
仕事中、気がつくと知らない世界にいた 佐藤 惣一郎(サトウ ソウイチロウ) 安く買った、視力の悪い奴隷の少女に、瓶の底の様な分厚いメガネを与えると めちゃめちゃ強かった! 気軽に読めるので、暇つぶしに是非! 涙あり、笑いあり シリアスなおとぼけ冒険譚! 異世界ラブ冒険ファンタジー!

二度目の転生は傍若無人に~元勇者ですが二度目『も』クズ貴族に囲まれていてイラッとしたのでチート無双します~

K1-M
ファンタジー
元日本人の俺は転生勇者として異世界で魔王との戦闘の果てに仲間の裏切りにより命を落とす。 次に目を覚ますと再び赤ちゃんになり二度目の転生をしていた。 生まれた先は下級貴族の五男坊。周りは貴族至上主義、人間族至上主義のクズばかり。 …決めた。最悪、この国をぶっ壊す覚悟で元勇者の力を使おう…と。 ※『小説家になろう』様、『カクヨム』様にも掲載しています。

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

処理中です...