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第6話 パワースラッシュ

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「お、おう」

 俺は木でできたモンスターを前に、申し訳程度の剣を構える。不覚にも初めての本格戦闘に武器を持つ手が重さと緊張にプルプルと震えた。

「イイ? 合図するまで攻撃しちゃダメよ」

「分かってる」


 木がメキメキと背を伸ばし、俺に向かって細い枝を射出するように弾いた。それを剣でなんとか振り払う……

 つもりだった。


「ッ……!」

 枝が俺の胸を貫いたのだ。


 ゴフッと血が吹きこぼれ、膝から崩れ落ちた。起き上がろうにも爪で地面に傷を付けるだけ。

「あれ、あんた……」

「俺はもう、ダメみたい、だ」

 遅れて体がジンジン痛む。うずくまりたくなる痛さなのに体は動かない。


「あとは……任せたぞ」

「嘘? なんで?」

 俺の意識が溶けゆく中、ヴァイパーの一言が突き刺さる。

『あれを防げないって弱すぎ……』



 視点が切り替わり、見下ろす形となる。木の枝で貫かれた俺の脆い体はシャツを血に染めるだけの鮮血を蓄えていた。







 俺はエデンデマイズの噴水広場にリスポーンする事にした。死体を眺めるのはもうこりごり。

「はぁ」噴水の端に腰を下ろしながら、不意にため息を漏らす。

 かっこよく攻撃を弾いてパワースラッシュする予定だったのに。現実……いや、ゲームって上手くいかないもんだな。

 ふと死んだ時に例の女の子が出てこなかったことに気づく。

「チュートリアルをクリアしたから出てこなかったのか」

 声は好みだったからなあ、また会えるといいな。

 ちなみに、空に映し出されていた文字は未だに増えている。赤の割合は変わりそうにない。



 眺めている頃にヴァイパーが街に戻ってきた。

「あんた弱いわね」

 俺の隣に座るやいなや、すまし顔の陰口が傷を抉って塩を塗りたくった。

「気持ちがリスポーンしそう」

「……もう1回いくわよ」

「スルーか」

「今度は攻撃しようとか考えないでくれる?」

「はいすみませんでした」

 今度は死なないように、武具屋で最安値の鎧と盾を購入した。普通の街とはいえ、鎧一式で1万ガール、盾で3千ガールもした。

 かなり高いと言える、モンスターからお金が落ちないし稼ぐにはクエストと素材売買しか無さそうだ。

「またツケか……」

「そうよ」

 ヴァイパーは即答した。


 ゲームならではのいつでも存在するバスに乗り込み、特定のポイントでガラスを破って飛び降りる。

「……トラウマだ」

「盾構えてて」

 さっきの道のない森を進み、狼を彼女の刀が切り裂く。数体倒した後、俺の墓が立っているボスエリアに着いた。

「墓が立つのか」

「この墓を壊すと……経験値になるのよね」

「おいやめろ」

 蹴り壊したそうに俺の墓に足を乗せたヴァイパーを後ろから羽交い締めにして阻止していると、泉からのそのそ木の巨木が現れた。

 俺は盾を構えて以下にダメージを受けないかだけを考える事にする。



『モンスター、私の事だけを考えなさい』
 


 ヴァイパーは鞘から煌めく刀を引き抜き、人差し指で下唇を撫でる。その指が敵に向くと桜のエファクトが舞った。

「何やってんだあいつ」

「あんたの為にターゲット絞らせてんの」

 あんた呼ばわりの時は機嫌が悪いんだろうか。


 準備が完了したのか、ヴァイパーは刀で一方的に攻撃し始めていた。見るからに華はない、慣れた手つきで木のサンドバッグを相手に傷を入れていく。

 巨木は攻撃の波に押し返され、近づく事は出来なさそうだ。出来ても刀のリーチがそれを許さない、一方的な戦いである。


「もっとかっこよくやれ!」

「うっさいわね、盾構えて怯えてる奴に言われたくないわ」


 怯えてなんか!


 だが、貫かれる瞬間を思い出すと足が震えるのも確かだった。


「なにを……」

「それに連撃の方が細かく削れて瀕死にしやすいの」


 リンチ同然の攻撃が少し続き、巨木が可哀想なくらい皮を剥ぎ落とされた辺りで攻撃が収まった『頃合いね』。


 ヴァイパーは左手を相手に向け、手を開く。



『パワーロスト、ディフェンスロスト、マジックロスト、スピードロスト』



 様々な色の光が手の中で合わさり、ズタボロの巨木に吸収されるように吸い込まれる。

「なんの呪文だ」

「弱体化の魔法よ、ここから先はあんたの番」

「分かった」

 盾を捨て、剣に手を掛ける。引き抜いた辺りで、ヴァイパーはだるそうに俺の方向に足を向けて寝転がった。

 ……パンツ見えそうなのに見えねえ。

 今は気にしてもダメだ。



 走りながら、唯一の必殺技を唱える。
 

『パワースラッシュ』


 剣を振りかぶりながら、地面を踏みしめて飛び上がる。距離を見て一気に振り下ろした。

 普通に切りつけただけで特に大きなダメージはないらしく、特に傷もない。

「おかしいな」

「パワースラッシュって突き技よ」

「は?」

 スラッシュなのに突くの?

 試しに突く感じで剣を構える。


『パワースラッシュ』



 剣の先が敵に向くと。

 刃に青いオーラが灯された。



「ほんとだ」
 
 武器を下ろして力を抜いても、オーラが途切れることはない。このまま切り裂けばパワースラッシュになりそうだ。

 伝説の突き技? 溜め攻撃の間違いだろ。

「でしょ?」

 歩くことすらままならない蠢く木に剣を突き向ける。

『パワースラッシュ』

 閃光音の刹那、青いオーラに赤い稲妻が宿った。



 全速力で巨木に近づき、間合いを見て踵に力を入れながらステップを繰り出す。敵に背中を見せながら急接近していく状況を横目に距離を測り、右足で木の眼前に着地。


 勢いを殺さずに、切り払う要領で回転斬りを繰り出した。


 横に伸びた白の斬撃エファクト、青と赤の電撃が追うように走り抜ける。その直後、巨木のモンスターは下半身を残して上半身が崩れるように後ろへ倒れた。

「切り株みたいだな」

 派手な使い方に見合わない耐久度なのか、一気に刃が欠けた剣を鞘に収めるとヴァイパーが立ち上がった。

「なかなかやるわね」

 人は自慢しない方が栄えるという。

「それほどでもない」

「謙虚ね……経験値タイムよ」
 
 言われた通り、体に光が宿っていく。


【リュウキのレベルが3になりました! アタッカーポーション解放!】

【リュウキのレベルが4になりました! ソウルスレイヴを覚えた!】

【リュウキのレベルが5になりました! アタッカー特性解放!】


「あら、それ強いわよ」


 そうなのか……ってどれなんだ?








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