5 / 10
第5話 メンテナンス
しおりを挟む「まだメンテではないはずよ」
だが、連打しても【ログイン出来ません】という文字ばかりが残る。
「ヴァイパーはどうだ?」
聞いてみると急に上の空になった。まあ自分にしか見えないウィンドウを見てるんだ、その状態はわかる。
「……出来ないわ、どうやら運が悪かったようね」
「運?」
ヴァイパーは「こんなにも無知なの」と天を仰ぎながら俺を煽った。
ちょっとだけイラっときた。
「このアルマリーサル……略してアリオっていうこのゲームは、ログアウトシステムを停止させるメンテ対策を取ってる割に、臨時メンテが多いのよ」
「そのせいで俺の昼ドラが」
「早い時は30分で済むけれど……酷い時は5時間もあったわ」
「予告とかはないのか? さすがに数分後しますって言うだろ」
「無い」
ヴァイパーがすまし顔で宣告した辺りでギルド店員が戻ってきた。丁寧にギルドカードはプレートに乗せて、持ってきてくれている。
「出来ましたよ」
「ありがとう」
お礼は言う、この子は性癖を発表した子じゃないからだ。渡すのは別の人にさせてるのだろう、とても卑怯な店員だな。
ギルドカードを受け取り、ポケットにしまい込もうと手でポケットに指を引っ掛けて広げる。
あれ? 何も引っかからない、この辺にあるはず。
……もしかして。
ようやくポケットがない事に気づいた。
俺はどんだけ簡素な服を選んでしまったんだ!
「どう? 私に渡した方が楽よ」
「マジか……」
渋々だが渡す事にした。
「武器を買って軽くレベリングしたら、私のクエストを受けてもらうわね」
することも決められ、武器屋に立ち寄った俺達は鉄で出来た剣を購入。当然だが、ヴァイパーの前借りである。
「ヴァイパーもアタッカーだろ? おさがりとか無かった?」
「あんたが刀を使うとは思えなかったもの、それに今の強さならそれでいいわ」
「……刀使うんだな」
金色の装飾が施された朱色の鞘に、黒く光る剣を収めて武器屋を後にする。ふと空を見上げると、不思議な数字が映し出されていた。
「なあ、あれって最初からなかったよな」
俺が指さすとヴァイパーも「私も今気づいたわ」と言った。しかし、臨時メンテだ。緊急イベントを用意していて、今さっきアレが置かれたのかもしれない。
赤い数字が約25万、青い数字が2万、緑色の文字が約2万だ。今も尚、赤い数字を中心に増加し続けている。
いったいどんなイベントなんだろう。メンテが終わったらログアウトするからすぐには楽しめないが。
「さて、近くの森でレベリングするわよ」
「俺はレベル1だぞ? 普通の街の普通の森に勝てるわけがない」
「私が最大限に弱体化させてあげるから、後はあんたのセンス」
「まだ戦ったことすらないからな」
戦う前にドラゴンに食われたし。
街を出た俺達は、バスの中で揺られていた。行き先の森は徒歩で行くには遠く、バスで行くにも次の停車が結構先という不遇なポイントだった。
その代わり、経験値がほかよりも高い……らしい。ヴァイパーが言っていた。
「電話ボックスとかバスとか、現代的なモノ多いな」
「パソコンまであるわよ」
「変な魔法具とか出るよりマシだろうけどさ」
暫くすると。
「……さて、頃合ね。ちょっと失礼するわ」
ヴァイパーは俺の背中に手を回し、引き寄せた。微かに気持ちが安らぐ匂いが鼻をくすぐる。
まさかこんな事やあんな事を……。
パリーンッ!
そんな妄想は、窓ガラスがぶち破られた事で塵となって消えることになった。
ヴァイパーがガラスを肘で叩き壊したのだ!
「すげーな!」
「早く降りるわよ」
ぬいぐるみのようにヴァイパーに抱えられ、一緒にバスから飛び降りた。ひと足遅く地面を踏みしめた俺は、目の前に広がる木々の奥に目を細めた。
辺りは草原だが、他の生物を視認できる。牛とか猪みたいな自然動物だな。
「ここはレベリングスポットだけど、レベル1じゃキツいから、私から離れないようにね」
「分かった」
かと言って警戒しないのは馬鹿なので、俺は剣の柄に手を添えてめっちゃそれっぽく歩いた。ヴァイパーは綺麗な装飾が施された刀を引き抜いていつでも戦える状態になっている。
「なあ、なんで俺のレベリングまでしてそのクエストに行くんだ?」
時々遭遇する狼をヴァイパーが一撃で仕留めつつ、森を進んでいく。
「魔女集会の考えよ」
魔女集会とは、魔女が拾ってきた弱きものがいずれ魔女を守る事になるとかそういう感じである。
俺にやらせるって魂胆だな!
6体目の狼を仕留めた時、俺の体が微かに発光する。
「レベルアップね」
【リュウキのレベルが2になりました! リュウキはパワースラッシュを覚えた!】
「ほんとだ」
ステータスも上がるのか、少しだけ足の疲れがほぐれた。肝心の能力値は確認出来ない。
暫く歩くと、辺りを淡く照らす幻想的な泉が見え始める。
木々で太陽光が遮られていることもあり、輝いて見えた。
走って近付いてみると、不思議な事に小さな広場のように休める広さがある。キャンプ用品があれば、拠点に出来そうだ。
「ここって休憩ポイントか?」
「いいえ、ボスエリアよ」
その刹那、地面が大きく揺れた。反動で尻餅をついたが、泉を守る様に木の巨人が立ちふさがっている事に気づく。
『こいつの経験値、最高だから構えなさい』
0
お気に入りに追加
21
あなたにおすすめの小説
戦闘職をしたくてVRMMOを始めましたが、意図せずユニークテイマーという職業になったので全力でスローライフを目指します
地球
ファンタジー
「え?何この職業?」
初めてVRMMOを始めようとしていた主人公滝沢賢治。
やろうと決めた瞬間、戦闘職を選んでいた矢先に突然出てきた職業は【ユニークテイマー】だった。
そのゲームの名はFree Infinity Online
世界初であるフルダイブ型のVRゲームであり、AIがプレイヤーの様子や行動を把握しイベントなどを考えられるゲームであった。
そこで出会った職業【ユニークテイマー】
この職業で、戦闘ではなくてスローライフを!!
しかし、スローライフをすぐにはできるわけもなく…?
生産職から始まる初めてのVRMMO
結城楓
ファンタジー
最近流行りのVRMMO、興味がないわけではないが自分から手を出そうと思ってはいなかったふう。
そんな時、新しく発売された《アイディアル・オンライン》。
そしてその発売日、なぜかゲームに必要なハードとソフトを2つ抱えた高校の友達、彩華が家にいた。
そんなふうが彩華と半ば強制的にやることになったふうにとっては初めてのVRMMO。
最初のプレイヤー設定では『モンスターと戦うのが怖い』という理由から生産職などの能力を選択したところから物語は始まる。
最初はやらざるを得ない状況だったフウが、いつしか面白いと思うようになり自ら率先してゲームをするようになる。
そんなフウが贈るのんびりほのぼのと周りを巻き込み成長していく生産職から始まる初めてのVRMMOの物語。
パーティーを追放されるどころか殺されかけたので、俺はあらゆる物をスキルに変える能力でやり返す
名無し
ファンタジー
パーティー内で逆境に立たされていたセクトは、固有能力取得による逆転劇を信じていたが、信頼していた仲間に裏切られた上に崖から突き落とされてしまう。近隣で活動していたパーティーのおかげで奇跡的に一命をとりとめたセクトは、かつての仲間たちへの復讐とともに、助けてくれた者たちへの恩返しを誓うのだった。
婚約破棄されたので暗殺される前に国を出ます。
なつめ猫
ファンタジー
公爵家令嬢のアリーシャは、我儘で傲慢な妹のアンネに婚約者であるカイル王太子を寝取られ学院卒業パーティの席で婚約破棄されてしまう。
そして失意の内に王都を去ったアリーシャは行方不明になってしまう。
そんなアリーシャをラッセル王国は、総力を挙げて捜索するが何の成果も得られずに頓挫してしまうのであった。
彼女――、アリーシャには王国の重鎮しか知らない才能があった。
それは、世界でも稀な大魔導士と、世界で唯一の聖女としての力が備わっていた事であった。
ざまぁ対象の悪役令嬢は穏やかな日常を所望します
たぬきち25番
ファンタジー
*『第16回ファンタジー小説大賞【大賞】・【読者賞】W受賞』
*書籍化2024年9月下旬発売
※書籍化の関係で1章が近日中にレンタルに切り替わりますことをご報告いたします。
彼氏にフラれた直後に異世界転生。気が付くと、ラノベの中の悪役令嬢クローディアになっていた。すでに周りからの評判は最悪なのに、王太子の婚約者。しかも政略結婚なので婚約解消不可?!
王太子は主人公と熱愛中。私は結婚前からお飾りの王太子妃決定。さらに、私は王太子妃として鬼の公爵子息がお目付け役に……。
しかも、私……ざまぁ対象!!
ざまぁ回避のために、なんやかんや大忙しです!!
※【感想欄について】感想ありがとうございます。皆様にお知らせとお願いです。
感想欄は多くの方が読まれますので、過激または攻撃的な発言、乱暴な言葉遣い、ポジティブ・ネガティブに関わらず他の方のお名前を出した感想、またこの作品は成人指定ではありませんので卑猥だと思われる発言など、読んだ方がお心を痛めたり、不快だと感じるような内容は承認を控えさせて頂きたいと思います。トラブルに発展してしまうと、感想欄を閉じることも検討しなければならなくなりますので、どうかご理解いただければと思います。
美少女に転生して料理して生きてくことになりました。
ゆーぞー
ファンタジー
田中真理子32歳、独身、失業中。
飲めないお酒を飲んでぶったおれた。
気がついたらマリアンヌという12歳の美少女になっていた。
その世界は加護を受けた人間しか料理をすることができない世界だった
転生しても実家を追い出されたので、今度は自分の意志で生きていきます
藤なごみ
ファンタジー
※コミカライズスタートしました!
2023年9月21日に第一巻、2024年3月21日に第二巻が発売されました
2024年8月中旬第三巻刊行予定です
ある少年は、母親よりネグレクトを受けていた上に住んでいたアパートを追い出されてしまった。
高校進学も出来ずにいたとあるバイト帰りに、酔っ払いに駅のホームから突き飛ばされてしまい、電車にひかれて死んでしまった。
しかしながら再び目を覚ました少年は、見た事もない異世界で赤子として新たに生をうけていた。
だが、赤子ながらに周囲の話を聞く内に、この世界の自分も幼い内に追い出されてしまう事に気づいてしまった。
そんな中、突然見知らぬ金髪の幼女が連れてこられ、一緒に部屋で育てられる事に。
幼女の事を妹として接しながら、この子も一緒に追い出されてしまうことが分かった。
幼い二人で来たる追い出される日に備えます。
基本はお兄ちゃんと妹ちゃんを中心としたストーリーです
カクヨム様と小説家になろう様にも投稿しています
2023/08/30
題名を以下に変更しました
「転生しても実家を追い出されたので、今度は自分の意志で生きていきたいと思います」→「転生しても実家を追い出されたので、今度は自分の意志で生きていきます」
書籍化が決定しました
2023/09/01
アルファポリス社様より9月中旬に刊行予定となります
2023/09/06
アルファポリス様より、9月19日に出荷されます
呱々唄七つ先生の素晴らしいイラストとなっております
2024/3/21
アルファポリス様より第二巻が発売されました
2024/4/24
コミカライズスタートしました
2024/8/12
アルファポリス様から第三巻が八月中旬に刊行予定です
『異世界転生したらもう一人の俺がTSしてた』ってだけでもおかしいのに俺より異世界堪能してる件について
面白かったら「お気に入り」してください
ファンタジー
異世界転生したらTSしたオレ?(かわいい)が居た。
しかもソイツは俺より魔力が高くて見た目も完璧、魔力至上主義の学園で剣士の俺に勝ち目はない!
日常生活で魔力が必要なのに、俺の魔力はまさかの0!
色んなツテで入学する事はできたが、もう一人の俺にお風呂とか入れてもらってます。
『なあ、手を繋ごうぜ』
『お前と繋いだらみんなに嫌われちゃうだろ〜いいけどな!』
そんな日々を繰り返してると、さすがにカースト上位に目をつけられてしまった。
決闘を申し込まれた俺が勝つ方法は……
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる