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本編

3.KY男子もたまには真面目

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 休日明けの月曜日、学校である。
 いつものように家を出て歩いて学校へ向かう俺。ちなみに昨日はオールでセックスしたから腰がクソ痛いったらない。ちょっとは手加減しろっつーの。
 湊さんとも中途半端なとこで別れたから機嫌も悪い。貴重な休日だったし、当分会う機会はないだろうな。
 1ヶ月後に死ぬってのにしんどい。死ぬまでに全然会えなさそうで泣く。


「あ、おっはー」

「はよ」


 正門をくぐり生徒玄関へ入ると、茶髪の男子生徒に軽いタッチで挨拶された。唯一の話し相手、神楽かぐらである。友達ではない。


「えーなになに、昨日もヤったの?もう猿じゃん、お前セックス大好きかよー」

「それな」


 こいつが話すことは大体デリカシーを捨てたものなので聞き流すのが吉だ。とりあえず「それな」と「あーね」を言っとけば何とかなる。
 神楽は所謂空気読めない系男子だ。なので俺みたいなイジメの対象且つ嫌われ者にも余裕で話しかける。
 俺みたいなのと話したらこいつまで虐められるんじゃないか?と思うだろうが、その心配はない。神楽の親はすごい名家のお方らしく、いじめっ子も神楽には手を出せないのだ。
 なので、神楽が空気読めない系の人間になったのは一概にこいつのせいではない。空気を読まなくても生きていける環境で育ったからというだけだ。
 一応俺も金持ちの義父を持ってはいるが、そもそもそのこと自体知れ渡っていないので普通に虐められている。
 だが言ったところで脅しにもならない。その義父にも虐められてるもんで。


「昨日彼氏と家デートって言ってなかった?ついにセックスまでいったん?」

「してないしする予定も無い。俺みたいなの抱いたら湊さんが穢れる」

「ふはっ、ベタ惚れじゃーん。鉄仮面の雲雀きゅんにもかわゆいとこあったんだー」


 あははっ!と周囲への配慮なく大声で爆笑する神楽は、俺の言葉にツボったのか暫く腹を抱えたままだった。

 廊下を抜けて三学年の教室棟へ辿り着く。
 中庭の桜がいい感じに見頃なので、今日は花見をして過ごそうかなと考えながら席に着いた。眠くなるだけなので授業は聞いていない。
 ちなみに、さりげなく消えた神楽はA組なのでさっき別れた。俺はE組だから、教室自体めちゃくちゃ離れてて喋る機会はない。精々朝と放課後くらいに偶然会った時しか話さないのだ。


「あ、雲雀もう来てんじゃん」

「………」


 面倒くさいのが来たなぁ…と溜め息を零さなかった俺を誰か褒めて欲しい。これで「はぁ…」なんて言ってたらあとで死ぬほどぶん殴られてた。


「なに、そんなに俺に会うの楽しみだった?」


 ニヤニヤと口角を上げてそう言うのは、いじめっ子の一人、相模さがみである。顔はそんなに良くない。
 平凡って感じの顔だが、サッカー部という肩書きが辛うじてこいつを陽キャにしてるんだと思う。

 こいつは群れないと威張れないタイプなので、眠い俺は普通に無視することにした。どうせ全員集まったらいつもみたいにストレス発散の捌け口にされるだろうし、今のうちに休んでおきたい。
 俺がふいっと顔を逸らしてシカトすると、案の定相模は苛立ったように顔を真っ赤にしながらもそれ以上は何も言わなかった。一人だと何も出来ないのだ、寄生虫みたいでちょっと可愛いよね。

 そんなこんなで時間が経ち、やがてクラスメイトが皆集まった。なるべく息を殺して過ごしていると、無事にHRが始まって安堵の息を吐く。
 たまにHR前に奴らが殴ってくる時があるんだが、今日は皆機嫌いいらしい。晴れだからかな、雨の日って殴られる確立上がるんだよね。降水量と比例してるみたいでちょっと面白い。
 とかなんとか、クッソどうでもいいことを考えてボーッとしていると昼休みの時間がやって来た。学校来たってのに本当意味無いことしかしてないな、俺。午前中マジでボーッとしてただけじゃん。


「雲雀、飯食いに行こーぜ」

「……うん」


 弁当持ってトイレ行くか…と立ち上がりかけたその時、いじめっ子のリーダー格の男子生徒、尼崎あまさきが話しかけてきた。
 このセリフは合図みたいなもんだ。これからサンドバッグになるか、若しくはヤりに行こーぜの言い換え。日本語って難しいね。
 こいつは生粋の陽キャで、一人でも威張れるタイプの奴だ。なので大人しく言うことを聞くに限る。というか後ろに尼崎の取り巻き集団も控えてるし、どう足掻いても無視は出来ないか。

 参った、昼飯を食う時間くらいは残してくれるだろうかと悩みながらも奴らの後に着いていく。
 クラスメイトたちも俺らの異常な空気に気付いてるだろうけど、誰一人として話しかけてこようとする奴はいない。
 みんな自分が一番可愛いのだ。現実的でよろしい、こうやって見て見ぬふりを出来るやつが将来大成するって古事記にも書いてる、知らんけど。

 なんてまたもやクッソどうでもいいことを考えながら、いつものように空き教室へ連れてかれる。囲んでくるいじめっ子の数は五人。
 あぁちなみに、今日はサンドバッグじゃなくて乱交だった。




 * * *




「あ、やっぱここにいたー」

「…神楽。珍しいね、ここ来るとか」

「今日は静かな場所で食べたい気分だったんでー」


 にこにこ笑いながら隣に腰掛ける神楽。屋上に続く階段の踊り場で、黙々と弁当を食っていた時のことだった。

 運がいいことに今日はすぐ解放されたのだ。何やらサッカー部の昼練があったらしく、突っ込んで出して抜くとそのまま俺を置いて奴らは消えてった。せめて着替えくらい置いといてくれ。
 今の俺は制服も乱れてボタンも千切れてるので、流石に教室には戻れないから午後の授業は全部サボることにした。如何にも強姦後の格好で戻りたくはない。大事にはしたくないし。
 それにたぶん、誰も味方してくれないから。教師も俺のイジメを見て見ぬふりしてるみたいだし、何か言っても俺の証言なんか揉み消されて終わりだろう。

 まぁ別にいい。そんなもんだ。


「…今日は手荒くヤられてんねー。気持ちよかった?」

「あんまり。荒いって分かってたらローションで濡らしてきてたんだけど」

「ははっ!次からは濡らして来ればー?」

「そうするわ」


 どうせヤるのを断れないなら気持ちいい方がいい。それは当然の思考だ。今度からは濡らして学校に来よう。いつでも犯されていいように。
 なんかビッチみたいでアレだが、後ろが裂けるよりマシだろう。


「最近彼氏とどうよー?相変わらず甘々いちゃラブカップルなん?」

「全然。普通に浮気されてる」

「…。…まじで?」

「マジマジ。超綺麗な女の人だったよ、モデルみたいでさ」


 はえー…と何とも言えなさそうな反応をする神楽。流石の神楽も俺を哀れに感じたらしい。
 湊さんに対する俺の普段のベタ惚れっぷりを知ってるから余計に感じるだろうな、別に傷付いてるわけでもないから心配しなくて良いんだけど。
 さっき自販機で買ったりんごジュースを飲み干して、弁当に入ってる卵焼きを取ろうとしたその時、黙り込んでた神楽が口を開いた。


「お前はいいの?彼氏にまで裏切られたら流石にキツくねー?ヤバたんだって、俺なら死ぬわー」

「うん、だから死ぬ」

「………は?」

「死ぬよ、湊さん居ないなら生きてる意味ないし」

「…。…あー…そうなんだ」

「うん」


 神楽は別に友達じゃないが、こういう時余計な励ましをしてこないところは結構好きだ。
 俺の事情に干渉するわけでもなく虐めるわけでもなく、ただ話を聞いて話をして、それだけの関係。
 あぁそうか、と急に自覚した。俺は結構、神楽に救われてたんだな。ちゃんと学校に来てた理由に、たぶん神楽も含まれてたんだ。

 難しい顔で黙り込んだ神楽がちょっと可哀想になったから、俺は自分の計画を神楽には話すことにした。
 1ヶ月後の湊さんの誕生日、それを祝ってから死のうと思ってること。あとついでに、誕プレをどうするべきかも聞いてみた。


「大人の男の人って、何貰ったら喜ぶと思う?」

「いやお前その前に…、…まぁいいや。うーんそうだなー、俺もよく分かんないなー」

「ネックレスとか。アクセサリーとかは?」

「えぇー、浮気相手からのアクセは重くねー?」

「たしかに」


 財布、ネクタイ、ハンカチ…色々案が出たところで、神楽が突然話を変えてきた。


「っつーか、それより俺いいこと思いついちゃった」

「なに?」

「お前さ、甘えてみればー?彼氏に」

「…甘える?」

「うん。どうせろくに本音も素も出してなかったっしょ?最後くらいウザイほど甘えてもバチ当たんない気がするわー」

「…最後くらい、甘える…」


 復唱して俯いた俺の肩を、神楽が横からポンと叩いた。撫でた、と言った方が正しいだろうか。
 その仕草が神楽にしては珍しいものだったから、俺も思わず目を丸くして顔を上げる。視界に写ったその表情は、いつもの適当なへらへらした笑顔じゃなく、何やら複雑そうな微笑だった。

 らしくないな、浮かんだ感想はそれだけ。


「…俺さー、お前のこと結構気に入ってたよ」

「……。」

「まぁなんつーのー?要らんこと考えなくていいからさー、ベタ惚れの彼氏に存分に甘やかされてみろって、な?」


 続いた言葉に、何故か胸が痛くなった。まるで鋭利な刃が刺さったみたいに。


「ちょっとくらい、幸せなまま死んでもいいじゃん?」


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