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六章
191.王宮へ
しおりを挟む俺とロキの婚約は、大々的に報じられた。
どこの新聞社も揃って、一枚目の大きな見出しに婚約の件を報じたことで……俺は今まで以上に、国中からとてつもないほどの注目を浴びることとなった。
──王国の太陽と闇に見初められた天使!選ばれたのはまさかの悪魔!?
──悪魔、早くも天使にゾッコンか!
──二大ファミリーの結束強まる!王家の立場危ぶまれるか?
──関係者Gに独占取材!「主様はお昼寝中だ。邪魔をするなら殺す」
相も変わらずふざけた記事しか書かれていない新聞を流し読み、思わずおっきなため息を吐いた。
「なんじゃこりゃ」
お馴染みのツッコミを済ませながら、着替えの最後であるジャケットをふわっと羽織る。
新聞から気を逸らして姿見の方にとたとた向かい、くるりと一回転して全身を確認した。
ふむ、ふーむふむ。うむ、乱れなし、汚れなし。超絶クールに仕上がってよきよきである。
今日は大事な用事のために王宮へ出向く日。ガチガチの礼儀が必要な場なので、カラフルな服でおしゃれするわけでもなく、同行する父とお揃いの真っ黒スーツだ。
白シャツに黒いサスペンダー付きハーフパンツに、これまた黒いジャケット。うーむ黒尽くし。
ファンタジックな正装とかじゃなくていいのかな、とも思ったが、ベルナルディの正装というと黒スーツなのだとか。十四歳も目前、俺ってば自分ちの正装について初耳である。しょぼん。
「あ、さすがにサメさんピンは不敬かな。むん……」
姿見をぼーっと見つめて、ふと気が付いた。全身真っ黒の中に浮く、鮮やかな青色に。
少し逡巡して、結局サメさんポンパは諦めることにした。代わりに黒いピンでぱちっと留めて、正装スタイルであるポンパヘアー(クールver)が完成。
ふんふん。サメさんがいないのは悲しいけど、今日は仕方ないか。これでよしっと。
王宮に武装した護衛を連れていくことは出来ないから、今日はジャックとガウがどっちもお休み。
二人がいないと静かだなーとちょっぴり寂しく思いながら、玄関ロビーで待っているであろう父とアンドレアのもとへ急いだ。
***
父とアンドレア、二人に馬車の中で取り合いをされながらも、なんとか無事に王宮へついた。
ひょいひょいっと奪いっこされたせいで、まだ今日の本題を済ませていないってのに俺ってばもうヘトヘト。ぐでーんとなった俺を、アンドレアがむっふーと上機嫌に抱っこして王宮へと入った。
「お兄さま。抱っこで王さまに会うのは不敬なので、歩きます」
「なに?お前の行動に不敬など存在するものか。お前を不敬と訴える者こそが不敬だ。気にするな」
めちゃんこ気にするが……?と涙目になりながら、いつものアンドレア節をさらりと躱す。
うーむ、こういう時は諦めて大人しくした方が吉。これまでの経験でそう学んだんだぞ……。
偉い人たちに怒られても、全部アンドレアのせいにしよ。なんて思いつつそわそわと周囲を見渡して気が付いた。
父とアンドレアが道のど真ん中を歩く際、なぜか周りの人たちがみーんな揃って目を逸らしている。使用人から貴族から、いかにもって感じの偉そうな人まで、みんな。
そこで、賢い俺はすぐにははーんと察した。
なるへそなるへそ。これはたしかに不敬だなんて言ってくる人はいなさそうだ。なぜなら、ベルナルディの人間に説教をするような命知らずはここには存在しないから。
それならいっか。いつもなら何かしらのフォローを周りに入れているところだけれど、今回は二人の悪役オーラにあやかろう。この二人、原作的には主人公サイドなんだけどね。
「──おや?これは偶然だね」
てくてくと王宮内を進んでいると、ふいに後方……進行方向から聞き慣れた声がかけられた。
慌ててアンドレアの肩にぽすっと埋めていた顔を上げ、この声は!と振り返る。
ニコニコ笑顔の中で弧を描く赤い瞳とぱっちり視線が合い、咄嗟にぱたぱたとアンドレアの抱っこから抜け出して駆け寄った。とてとて、ひょいっ、むぎゅー。
「ロキ!ロキだっ!」
「ルカちゃんっ。えへへ、ロキだよ。奇遇だね。ルカちゃんも王宮に来てたんだ?」
「うむっ。チェレスと、王さまと、王子さまに会いにきたんだぞ」
「わぁ、たくさん用事があるんだね。そうだ、俺も一緒に行っていいかな?用事を済ませて、ちょうど暇だったんだ」
「む?そうなのか?もちろんおっけーだぞ!」
わーいありがとう!とはしゃぐロキを見上げてふふんと胸を張る。
ロキが嬉しそうで何より。よきよき。ふんふんと頷いていると、ふいに背後から真っ黒オーラを感じてビクッと肩を震わせた。
ま、まずい……二人がいるの忘れてたぞ……ロキに会えたのが嬉しくて浮かれちゃってたぞ……。
背後から両脇を鷲掴みされ、すぽっとロキの抱っこから抜き取られる。
むん?と振り返って確認する。俺を奪い取ってむぎゅむぎゅしてきたのはアンドレアだった。
「……クソ変態野郎。朝っぱらからこんなところまでストーカーとは、余程暇のようだな」
「やだな。言いがかりはやめてよ。本当に偶然だってば」
「ほう?では早朝から邸の正門付近を張っていた貴様の所の構成員は一体何だ?馬車を出すと同時に消え去ったようだが」
「うーん。なんのことやら」
おとぼけロキとピリピリアンドレア、恒例の口喧嘩が始まる気配を察知。
流石に王宮内で銃弾をぶっ放されるのはマズいので、今回は早々に仲裁に入ることにした。
二人ともメッ!とちょっぴりお説教しただけで、二人の好戦的なオーラがおずおずと消える。
それにうむうむと満足気に頷いたところで、安心安心の父が呆れ顔で間に入った。
「……致し方無い。この阿呆も同行させよう。どうせ意地でもルカから離れる気はないようだからな」
ふむ、よくわからないが、とりあえずロキと一緒に行くことを許されたみたいだ。
朝から会えてラッキーねーとルンルン気分でロキに話しかけている間、父とアンドレアはなぜか不機嫌そうに顔を顰めていた。
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