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五章
183.家族と再会
しおりを挟む体力も大分回復し、水を飲んだことで喉も復活した。
ようやくまともに動くことが出来そうだ、と安堵しながら準備を済ませたが、結局移動はロキの抱っこしか認められなかったので不服オーラを全開に放ってしまった。むぅ……。
曰く、見た目は回復していても疲れはどっと溜まっているだろうから、という理由らしい。
確かに昨夜あれだけアッハーンでウッフーンなチョメチョメを繰り広げたのだから、たぶん疲労はとんでもないくらい溜まっているだろうけど……それでも、流石にてくてく歩くくらいはできるぞ。
ふんすと拗ねながらも、大人しく抱っこされて向かった先は一階の客間。扉を開けた先には、何やらカオスな光景が広がっていた。
「──ど、どゆことぉ……?」
目の前に広がる光景を見てポカーンと目を見開く。中には思ったより多くの人がいた。
通常通りのニコニコ笑顔を浮かべるリカルド様と、そんなリカルド様に殺気を纏って銃口を突き付ける父。明らかに苛立った様子で机に踵を置きながら座るアンドレアや、壁際で真っ黒どんよりな空気を纏い項垂れるジャックとガウ、などなど。
何というか、この世の物騒な絶望詰め合わせみたいな、そんな空気感だ。
ちょっぴり発言を誤った瞬間に人生を退場させられちゃいそうな、ド級の地雷オーラをひしひしと感じる。特にアレだ、この中で一番ヤバそうな空気を醸し出している父がラスボスに違いない。
「ロキ、ロキ、おろしてくれ。歩いてくぞ」
「むぅ……大丈夫?身体痛くない?歩ける?」
「だいじょぶだぞ。ちょっぴり歩くくらい平気だぞ」
ぱたぱたと手足を動かし、心配そうに眉尻を下げるロキの抱っこからうにゅっと脱出する。
とたとたーっと中に入る俺に一早く気が付いたのは、イライラオーラを纏うアンドレアだった。
「……ッ!?ルカッッ!!」
アンドレアはめちゃんこ綺麗な二度見を決めてガタッと立ち上がり、光の速さで駆け寄ってきて俺をぎゅうっと抱き上げた。
まるで生き別れの家族にでも会ったかのような謎のクライマックス感。なんだかよくわからんが、とりあえず俺もむぎゅーっと抱き締め返してみる。むぎゅむぎゅ。
するとアンドレアは、なぜかお得意の無表情をへにゃあっと崩して眉尻を下げた。
な、なんなんだ、この感極まったような反応は……ちょっぴり大袈裟すぎて怖いぞ……。
むぅ?いやでも、考えてみれば俺、夜会で拉致されたあと一回も家族に会ってなかったんだよな?
となるとアンドレア達から見た俺は『拉致監禁されて少なくとも丸一日行方不明になっていた家族』ってことか?なにそれ、普通に感動の再会モノだぞ。
「お、おにーさま」
「ルカ、ルカ、ルカルカ……俺のルカ、ルカルカルカ」
どどっ、どうしよう。なぜかアンドレアが暴走している……!ショートしたロボットみたいにとち狂っちゃってる……!
むぎゅぅっととんでもない力で抱き締められ、片方の腕で腰を強く抱かれ、もう片方で後頭部をぐぐっ……と抱き寄せられるというこの状況。
とりあえず、後頭部は普通に痛いから力を弱めてほしいんだぞ……なんてシクシク嘆くものの、アンドレアは俺の泣き言なんて一切聞こえていない様子で抱っこの力を強めた。ふえぇ。
「おち、もち、おちついて、お兄さま。おれ、だいじょぶだぞ?」
「俺のルカ、俺のルカ……俺のルカが……」
だめだ、全然聞こえていないみたい。
この世の終わりみたいな顔で絶望するアンドレア。それを見てどうしたもんかと息を吐く。
さっきからブツブツと俺のルカだの何だの呟いているけれど、それが一体どうしたというのか。俺はちゃんとアンドレアの弟のルカだぞ。何かダメなことでもあるのかね。
ぱちくり瞬く俺をぎゅっと抱えたまま、アンドレアはふらりと頽れて地面に膝をついた。
絶望に染まった蒼白顔をしながら、アンドレアは涙ながらにぽつりと嘆く。
「俺のルカが……クソ野郎に食われた……初めては兄として俺が貰う筈だったのに……」
「聞き捨てならないね」
シクシクと悲痛を訴えるアンドレアを見てあわわと慌てる。
何やらとんでもない発言をかましたアンドレアの腕の中から、ロキがサッと俺を抜き取ってむぎゅっと抱き締めた。ロキの抱っこに元通りである。
「ふざけるな!ルカを返せ変態クソ野郎!」
「二秒前の発言を思い返してよ。変態クソ野郎はブーメランだよ」
俺を奪われてムッキーッとお怒りのアンドレアに、ロキが「えぇ……」と困惑顔を浮かべる。
確かに、言っていることはぶっちゃけどっちも同じかもしれない。共通しているのは悪びれもなくぶっ飛んだ発言をするってところだろうか。どっちもどっちね、うむ。
俺は一体どうすればいいんじゃ……と困り顔を浮かべていると、ふいにアンドレアの背後から今度は父がドタドタと近寄ってきた。
こっちも言わずもがな、目が血走っていてちょっぴり怖いぞ。
「ルカ」
「お、おとうさま……」
ロキの抱っこからひょいっと俺を奪い、むぎゅーっと強く抱き締める父。
さっきからひょいひょい奪われてばかりで俺の視界がぐるぐるしちゃいそうだ。ひとまず父にむぎゅむぎゅ抱きつき、落ちないようにぺたんと全身でくっつく。
鬼の形相はともかく、やっと父に会えてうれしいなー。なんてむふむふ頬を緩める俺を抱き締めながら、父は無表情を柔らかいものに変えて呟いた。
「あぁルカ……怪我が無くて本当によかった。お前を拉致したクソ共は粗方処理したから安心しろ。どうやら面倒な陰謀が一枚絡んでいるようだが直ぐに全員消し炭にするから心配するな」
「む、むん……?」
「よし、次はこのクソガキだな。ルカの初めてを奪った大罪は死に値する。今ここでぶっ殺してやるから心配するな」
「んまっ、まってお父さまっ!それだめっ!それはだめぇっ!」
流れるように物騒発言をかまし、そしてこれまた流れるようにロキへ銃口を向けた父を慌てて制止させた。判断に躊躇がなさすぎてびっくり仰天だぞ。
あわわっと取り乱しながら、父の構える拳銃をていっ!と押しのける。ふぅ、おーけーおーけー。
「お父さま、メッ!ロキはおれを助けてくれたのですっ!悪いことしちゃダメですっ!」
「なに……助けた、だと……?」
父が俺の手から引き離すみたいに、拳銃を内ポケットに仕舞いこむ。
俺のセリフを聞いた瞬間にバッと視線を向けてきて、訝し気にふむ……?と首を傾げる姿にうむうむと頷いた。
そのとーり、俺はロキにお助けしてもらったのだ。断じて無理やり襲われたわけじゃない。
「そうです!おれ、なんでか身体がとっても熱くて、熱くて熱くてもうだめだーってところを、ロキがお助けしてくれたのです!」
「身体が熱い……助け……?」
「うむっ!ロキはしっかりお助けしてくれましたっ!お尻におちんちんいれて、どちゅどちゅってして、“なかだし”してお助けしてくれたのですっ!なかだししないと、毒が消えなかったのですっ!」
「なぁッッ……──!?」
あれれ、おかしいな。
ロキのクールなお助け劇をしっかり説明してあげたのに、なぜか父が絶望顔でグハッ!と吐血しながらばたんきゅーしてしまった。
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