137 / 240
五章
136.恋は命懸け
しおりを挟む「ひ、ひぇ、ひぅっ──」
ぴえぇぇっ!!と大きな泣き声が邸中に響き渡る。
真っ赤な顔で号泣する俺を見て、ぽわぽわと熱っぽい瞳をしていたロキがハッとしたように我に返った。何やら『やっちまった!』とでも言いたげな顔だ。
サーッと青褪めたロキに抱き起こされ、ぎゅっと包み込まれながらも絶えず泣き声を響き渡らせる。
「ご、ごめんねルカちゃんっ!今のは違うんだ、泣かせたくてしたわけじゃ……っ」
「うえぇぇっ!うわぁぁん!ロキのえっちぃぃ!せきにんとれえぇぇっ!」
「責任?もちろん責任取るよ!ぐへへ、責任取るから許して?ほんとにごめんねルカちゃん……!」
オイ今ぐへへって聞こえたぞ。絶対なんか笑っただろ、ぐへへって笑っただろ。
ぽろぽろと溢れる涙をそのままに、ロキの胸元をぽかぽかぶん殴って抗議する。いくらお友達のロキだからって、急にちゅーするのはダメだ。びっくりしちゃうだろ。
ぐすぐすメソメソと泣き喚く俺を慌てた様子で宥めるロキが、ふいに眉尻を下げて語った。
「でもルカちゃん、ルカちゃんも悪いよ。あんなにエロい顔しといて、ルカちゃんには何の問題もなかったって言える?すごくエロかったよ?完全にキス待ちのエロ顔だったよ?」
「んなッ!え、えろっていうな!えろい顔なんてしてないじょっ!ふつーの顔だじょぉっ!」
「嘘だ。あんな瞳うるうるさせちゃって、リンゴみたいに真っ赤な顔して、あれが普通の顔ならルカちゃんとすれ違う雄は今頃みんな発情してるよ。道行く先々で乱交が起こっているはずだよ」
「んななっ、なにをいうとるんじゃおばかっ!ばかばかッ!」
はれんち!ひじょーにはれんちであるっ!
ロキの言葉でひじょーに卑猥な想像をしてしまい、更にかぁーっと真っ赤っかに顔を染めつつぶん殴る拳の力を強めた。
ぽかぽか攻撃を難なく手のひらで受け止められ、更にムッスーッとムカムカが募る。ほっぺぷくーする俺を、ロキが眉尻を下げて抱き上げた。
「ルカちゃん、機嫌直して……キスまでするつもりなかったんだ。ちょっと、ほんのちょっとだけね?チュッてするだけのつもりだったんだよ?」
「ちゅーはちゅーでしかないだろおばかっ!おれの舌はむはむってしたくせにっ!なにがちゅーだけだっ!お口のなかもれろれろってしてたじょっ!」
「れろれろ?何それ可愛いっ。じゃなくて………本当にごめんなさいルカちゃん。ルカちゃんの舌があんまりにもちっちゃくて可愛くて、食べたくなっちゃったんだ、ごめんね」
ふぁーすとちっすだったのにぃ、とむぅむぅ拗ねる俺をむぎゅむぎゅ抱き締めるロキ。
何やら「えへへ初めてもらっちゃったぐへへ」と呟いている様子だ。おいこら、反省してないだろ。
「こーぎする……こーぎするぞっ!リカルドさまにこーぎするんだぞっ!」
「え?あぁうん、一緒に行こうか結婚報告。きっと父上すごく喜ぶと思う。今日はご馳走だね」
「んんぅちがあぁぁうっ!そーじゃないじょぉっ!」
必殺『おまえのパパにチクっちゃうんだからな!』攻撃を発動したものの、どうしてかロキには微塵も効いていない模様。
むしろワクワクッとやる気を出してしまった様子で、ロキは俺を抱っこしたままそそくさ立ち上がった。まてまてぃ、軽快な足取りで部屋を出ようとするんじゃない。
高揚しているのか浮かれているのか知らんが、突如ぴょこんっとロキの頭に生えたケモ耳をふんすっと鷲掴みする。
もみもみモフモフッ!と掴んで待て待てアピールをするも、無念なことにロキは一切屈した様子もなく歩みを止めなかった。むむっ、むねん……。
「こらルカちゃん、性感帯なんか触って軽率に誘わないの。初夜は式を挙げてからね?」
「だからっ!けっこんしないって!いってるじゃろぉがぁっ!」
理不尽にメッと叱られてピキッてしまう。なんで俺が困ったさんみたいになっているんだ。
流石の俺もぷんすか激おこしてしまい、ムゥッと顰め眉でロキのケモ耳をはむはむ咥えてやった。はむはむ、はむはむ……どうだ擽ったいだろう、反省したまえふんすふんす。
「ん……ふふっ。ルカちゃんったら、そんなにシたいの?欲しがりさんだね」
どうやらはむはむ攻撃すらも難なく躱されてしまった様子。
ちげーよぉっ!と肩を落とし諦めムードの俺をルンルンと抱えて歩き出すロキ……このままでは本当に結婚報告してしまう、と青褪めた直後、ロキが手を伸ばすよりも先に扉がふと開かれた。
「おい若!なんかデケェ声聞こえたが何かあったのか……って、あ?」
俵担ぎされてぐでーんとなっているので、状況がいまいちよく分からない。
とりあえず誰かが現れたのは確かなので頑張ってよっこらせと振り向くと、何やら見慣れない男性が俺とロキを交互に見据えて眉を顰めていた。
「なんだコレ、どういう状況だ?オイオイ、流石にガキの処理は胸糞悪いからやらねぇぞ」
「この子は処理予定のガキじゃなくて俺の大事なお嫁さんだよ。出会って早々無礼なこと言わないで。殺すよ」
「あっ、ワリ」
ロキのニコニコ笑顔に隠された静かな激おこを察したらしい。男性は光の速さで謝罪を口にしてぺこぺこと頭を下げた。ふむ、この反射神経は……ペコペコし慣れている者の動きだ。
何やら処理だとかいう物騒な単語は華麗にスルーしてロキをツンツン突っつく。この人だぁれ?と首を傾げると、ロキはニッコリ笑顔で答えた。
「あぁ、これはシド。ヴァレンティノが抱えている医者だよ。例の獣人の腕をくっつけた奴」
「ふむふむ……ふむっ!?」
人に対してコレ呼ばわりとは何事か、とプチお説教をする前にナヌーッ!と目を開く。
この人がガウの腕をくっつけてくれた天才ドクターさんだって!?これはいかん、しっかりご挨拶してありがとうを言わなければ!
ぱたぱたと手足を動かして抵抗し、ロキの抱っこからすぽっと抜け出す。
銀の長髪に尖った耳というやけに個性的で神秘的な美人さんの前に立ち、どーもどーもと会釈した。
「こんにちは。その節はどーもありがとーごじゃいました。おれ、ルカです。もうすぐじゅっさいです」
「おお、ご丁寧にどうも。君が例の嫁か。俺はシド、医者兼こいつの側近だ。よろしくな」
「うむ。よろしくおねがいしましゅ。む……む?よめ?およめさん?」
何やら聞き捨てならないセリフが聞こえてぱちくり瞬く。誰が誰のお嫁さんだって?
カッ!と目を見開いて振り返る。視線の先に堂々と立つのは、微塵も反省の色が見えないニコニコ笑顔のロキだ。
「あぁ、俺達の“深い関係”についてはほぼ周知の事実だからね。ルカちゃんが今更何を訴えたところで、世間は俺達の関係を確固たるものと認識しているから痴話喧嘩としか思われないよ」
「うんぬぅ、そとぼりぃ……」
知らない間にせっせと外堀が埋められていたようで草も生えない。
こう聞くと更に不思議な感覚が湧き上がる。ロキってば一体いつから俺に目を付けて、原作完全無視のロキルカルートに入ってしまったのだろうか。
「うぅん……なぁロキ」
「うん?なぁに?キス?ちゅーする?」
「しないぞおばか。ちがくてだな、ロキはそのぉ、あのぅ……」
ちょっぴり気になってしまったので面と向かって聞いてみることに。
ロキのきょとんとした顔を前にうぅむとしばらく唸り、やがて覚悟を決めてふんぬっと問い掛けた。
「ろ、ろきは、お兄さまのことは好きじゃないのか?ちゅー、したくならないか?」
「え?急にどうしたの……そういう冗談はあんまり面白くないかな……」
「あ、そ、そか。ごめんよ。ごめん……」
思ったより『KY発言をかましたことで普段温厚な陽キャからガチのドン引きされる陰キャ』みたいな感じになっちゃって泣いちゃいそうである。
いたたまれなくてぷるぷる震える俺と困惑顔のロキを交互に見据え、何やらはわわ……と更なる困惑顔を見せる天才ドクター・シド。
なんだかちょっぴり謎の空気が流れる中、俺はとぼとぼと二人の間を縫って扉を出た。
「えっと、じゃあ、きょうはもうかえるぞ……ばいばい……」
とぼとぼ、てくてく。
しょんぼり歩き出した直後、ふいに腕をグイッと掴まれ強引に身体を引き寄せられた。
ぐるんっ!と身体が半回転して目を回す。唇にさっきとまんま同じふにゅっとした感触が押し付けられ、思わずピタァッと固まった。
「もう帰っちゃうの?それなら邸まで送るよ。今のはまたねのキスね」
「あぇ……」
「もうルカちゃんの貞操奪っちゃったも同然だし、これからは遠慮ナシでいくから。本当に嫌だって思うなら、ヴァレンティノを潰すくらいの意思持って、俺を殺しに来て」
「はぇぇ……?」
「逃げるって選択肢はないってこと。ルカちゃんは俺を受け入れるか、俺を殺すか。どっちかしか選べないからね。逃げたいならちゃんと殺すんだよ?」
マフィアの恋の駆け引きって、命がけなんだなぁ……。
なんて……セリフとは裏腹にルンルン楽しげな笑顔のロキを前にして、現実逃避みたいな感想が浮かんでしまった。
349
お気に入りに追加
7,903
あなたにおすすめの小説
【完結】最強公爵様に拾われた孤児、俺
福の島
BL
ゴリゴリに前世の記憶がある少年シオンは戸惑う。
目の前にいる男が、この世界最強の公爵様であり、ましてやシオンを養子にしたいとまで言ったのだから。
でも…まぁ…いっか…ご飯美味しいし、風呂は暖かい…
……あれ…?
…やばい…俺めちゃくちゃ公爵様が好きだ…
前置きが長いですがすぐくっつくのでシリアスのシの字もありません。
1万2000字前後です。
攻めのキャラがブレるし若干変態です。
無表情系クール最強公爵様×のんき転生主人公(無自覚美形)
おまけ完結済み
異世界で8歳児になった僕は半獣さん達と仲良くスローライフを目ざします。……やっぱり狙われちゃう感じ?
み馬
BL
※ 完結しました。お読みくださった方々、誠にありがとうございました!
志望校に合格した春、桜の樹の下で意識を失った主人公・斗馬 亮介(とうま りょうすけ)は、気がついたとき、異世界で8歳児の姿にもどっていた。
わけもわからず放心していると、いきなり巨大な黒蛇に襲われるが、水の精霊〈ミュオン・リヒテル・リノアース〉と、半獣属の大熊〈ハイロ〉があらわれて……!?
これは、とある加護を受けた8歳児が、しゃべる動物たちとスローライフ?を目ざす、ファンタジーBLです。
おとなサイド(半獣×精霊)のカプありにつき、R15にしておきました。
※ 独自設定、造語、下ネタあり。出産描写あり。幕開け(前置き)長め。第21話に登場人物紹介を載せましたので、ご参考ください。
★お試し読みは、第1部(第22〜27話あたり)がオススメです。物語の傾向がわかりやすいかと思います★
★第11回BL小説大賞エントリー作品★最終結果2773作品中/414位★応援ありがとうございました★
侯爵令息セドリックの憂鬱な日
めちゅう
BL
第二王子の婚約者候補侯爵令息セドリック・グランツはある日王子の婚約者が決定した事を聞いてしまう。しかし先に王子からお呼びがかかったのはもう一人の候補だった。候補落ちを確信し泣き腫らした次の日は憂鬱な気分で幕を開ける———
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
初投稿で拙い文章ですが楽しんでいただけますと幸いです。
【完結】異世界転生して美形になれたんだから全力で好きな事するけど
福の島
BL
もうバンドマンは嫌だ…顔だけで選ぶのやめよう…友達に諭されて戻れるうちに戻った寺内陸はその日のうちに車にひかれて死んだ。
生まれ変わったのは多分どこかの悪役令息
悪役になったのはちょっとガッカリだけど、金も権力もあって、その上、顔…髪…身長…せっかく美形に産まれたなら俺は全力で好きな事をしたい!!!!
とりあえず目指すはクソ婚約者との婚約破棄!!そしてとっとと学園卒業して冒険者になる!!!
平民だけど色々強いクーデレ✖️メンタル強のこの世で1番の美人
強い主人公が友達とかと頑張るお話です
短編なのでパッパと進みます
勢いで書いてるので誤字脱字等ありましたら申し訳ないです…
エロゲ世界のモブに転生したオレの一生のお願い!
たまむし
BL
大学受験に失敗して引きこもりニートになっていた湯島秋央は、二階の自室から転落して死んだ……はずが、直前までプレイしていたR18ゲームの世界に転移してしまった!
せっかくの異世界なのに、アキオは主人公のイケメン騎士でもヒロインでもなく、ゲーム序盤で退場するモブになっていて、いきなり投獄されてしまう。
失意の中、アキオは自分の身体から大事なもの(ち●ちん)がなくなっていることに気付く。
「オレは大事なものを取り戻して、エロゲの世界で女の子とエッチなことをする!」
アキオは固い決意を胸に、獄中で知り合った男と協力して牢を抜け出し、冒険の旅に出る。
でも、なぜかお色気イベントは全部男相手に発生するし、モブのはずが世界の命運を変えるアイテムを手にしてしまう。
ちん●んと世界、男と女、どっちを選ぶ? どうする、アキオ!?
完結済み番外編、連載中続編があります。「ファタリタ物語」でタグ検索していただければ出てきますので、そちらもどうぞ!
※同一内容をムーンライトノベルズにも投稿しています※
pixivリクエストボックスでイメージイラストを依頼して描いていただきました。
https://www.pixiv.net/artworks/105819552
やめて抱っこしないで!過保護なメンズに囲まれる!?〜異世界転生した俺は死にそうな最弱プリンスだけど最強冒険者〜
ゆきぶた
BL
異世界転生したからハーレムだ!と、思ったら男のハーレムが出来上がるBLです。主人公総受ですがエロなしのギャグ寄りです。
短編用に登場人物紹介を追加します。
✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎
あらすじ
前世を思い出した第5王子のイルレイン(通称イル)はある日、謎の呪いで倒れてしまう。
20歳までに死ぬと言われたイルは禁呪に手を出し、呪いを解く素材を集めるため、セイと名乗り冒険者になる。
そして気がつけば、最強の冒険者の一人になっていた。
普段は病弱ながらも執事(スライム)に甘やかされ、冒険者として仲間達に甘やかされ、たまに兄達にも甘やかされる。
そして思ったハーレムとは違うハーレムを作りつつも、最強冒険者なのにいつも抱っこされてしまうイルは、自分の呪いを解くことが出来るのか??
✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎
お相手は人外(人型スライム)、冒険者(鍛冶屋)、錬金術師、兄王子達など。なにより皆、過保護です。
前半はギャグ多め、後半は恋愛思考が始まりラストはシリアスになります。
文章能力が低いので読みにくかったらすみません。
※一瞬でもhotランキング10位まで行けたのは皆様のおかげでございます。お気に入り1000嬉しいです。ありがとうございました!
本編は完結しましたが、暫く不定期ですがオマケを更新します!
転移したらなぜかコワモテ騎士団長に俺だけ子供扱いされてる
塩チーズ
BL
平々凡々が似合うちょっと中性的で童顔なだけの成人男性。転移して拾ってもらった家の息子がコワモテ騎士団長だった!
特に何も無く平凡な日常を過ごすが、騎士団長の妙な噂を耳にしてある悩みが出来てしまう。
期待外れの後妻だったはずですが、なぜか溺愛されています
ぽんちゃん
BL
病弱な義弟がいじめられている現場を目撃したフラヴィオは、カッとなって手を出していた。
謹慎することになったが、なぜかそれから調子が悪くなり、ベッドの住人に……。
五年ほどで体調が回復したものの、その間にとんでもない噂を流されていた。
剣の腕を磨いていた異母弟ミゲルが、学園の剣術大会で優勝。
加えて筋肉隆々のマッチョになっていたことにより、フラヴィオはさらに屈強な大男だと勘違いされていたのだ。
そしてフラヴィオが殴った相手は、ミゲルが一度も勝てたことのない相手。
次期騎士団長として注目を浴びているため、そんな強者を倒したフラヴィオは、手に負えない野蛮な男だと思われていた。
一方、偽りの噂を耳にした強面公爵の母親。
妻に強さを求める息子にぴったりの相手だと、後妻にならないかと持ちかけていた。
我が子に爵位を継いで欲しいフラヴィオの義母は快諾し、冷遇確定の地へと前妻の子を送り出す。
こうして青春を謳歌することもできず、引きこもりになっていたフラヴィオは、国民から恐れられている戦場の鬼神の後妻として嫁ぐことになるのだが――。
同性婚が当たり前の世界。
女性も登場しますが、恋愛には発展しません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる