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四章
124.救世主
しおりを挟む「うぅむ……おれは、チェレスの仲間になったらなにをすればいいんだ……?」
よし、ここはとりあえずロキから学んだ詐欺話術を活用させてもらおう。
名付けて『え?お話を聞いただけで承諾はしてませんよ?作戦』である。とりあえず回答を濁しておいて情報を全部聞き出す。けどそもそも話に納得はしていないよ、というあまりに姑息な話術だ。
散々ロキに騙されながら、最近ようやく理解した詐欺的なアレである。
おどおどとした返答に乗ってくれるか正直微妙だったけれど、意外にもチェレスは特に脅しをかけてくることなく話を続けてくれた。
「何も難題を課すつもりは無い。其方はただ、我々が同士にと求める者と言葉を交わし、その者の警戒を解いてくれればそれで良い」
なるほどなるほど、つまり俺にプロのセールスみたいな仲間集めをしてほしいと。
『いやぁちょっと遠慮しておきますー』と渋る相手に『そこを何とか!今ならなんと加入無料!タダで反乱軍に入れちゃいます!』とか言いまくるお仕事ってことか。
うむうむ、なるへそ。んなことできるかーい。
「いや、たぶんムリだとおもうぞ。おれ、シャイボーイのコミュ障だし……」
倫理観とか信念とか敵さんに従うわけなかろうが!とか、そういうものを色々脇に置いといてガチの返答をしてしまった。
いやだって、絶対無理じゃん。初対面の相手を前にした挨拶が『るか、九さい。はじめてのお友だちはサメしゃんでしゅ。よろしくおねがいしましゅ』な俺だぞ?
そういう詐欺的な勧誘はロキじゃないんだから出来るわけない。そもそも人選ミスにも程がある。どうして俺に人事的なお仕事を与えようと思ったのか。謎である。
「そうか?其方以上に適した人材など居ないと思う程には期待しているのだが」
「えぇ……それはちょっぴり見る目なさすぎだぞ。考えなおしたほうがいいぞ」
「ふむ……そうか……」
そうだぞ、うんうん、と言葉を交わし、沈黙が流れること数秒。
スンとした表情で何やら考えを巡らせたらしいチェレスは、やがて結論に辿り着いたのかうむと頷いて顔を上げた。
「いや、其方に拒否権は無いぞ。側近を守りたいのなら大人しく身を差し出せ」
「いままでの平和な話しあいなんだったんだよぅ」
想定外の突然すぎる圧に思わず泣いちゃった。ふえぇ。
人質のガウがずっと視界の端にインしていたけれど、そういう不穏な箇所はスルーしてとりあえずは平和に話していたじゃんか。なんで急にスンってなるんだよぅ。
突然の切り替えにびっくりして泣いちゃう俺を冷淡な目で見据えるチェレス。
穏便に進めて俺の身も心も手篭めにするつもりが、意外とその過程が面倒くさくて飽きちゃった、といったところだろうか。
暴君によく見られる特性に既視感がありすぎて更に泣いちゃいそうである。まんま原作のアンドレアじゃないか。この人もかなりの支配者気質なんだろうな。
って、まぁそれもそうか。支配者気質じゃない人間は、反乱なんてそもそも考えもしないだろうし。
「私に逆らってみろ。大事な側近に其方を殺害させ、その後に自害させてやるからな」
「急にわるものすぎないか?おれ、ちょっぴりついていけないぞ」
あまりに突然の悪の親玉ムーブに流石の俺も大混乱である。こんなのどうしようもないだろ、どうやって避けろっていうんだ。
涙目になりながら見を縮こませていると、ふいに部屋の扉が焦燥を滲ませた音を立てて開かれた。
「主君!先程裏口から妙な気配が……!」
慌ただしく駆け込んできたのは弓矢の男。
ダグラスは無事に追い出したのかな?と呑気に考えた瞬間、ふと背後から伸びてきた腕にひょいっと抱き上げられた。
あまりの驚きに悲鳴を上げることも出来ずピシィッと固まる。そんな俺を、背後の誰かがぎゅうっと抱き締めた。
その温もりに既視感があって、まさかと思いながら振り返った先は。
「お兄さま!……と、らすかる!」
「ついでみてェに呼ぶんじゃねェ」
俺をぎゅっとしていたのはアンドレア。その後ろには、追い出されたはずのダグラスもいた。
見たところ窓が開いている様子はないし、さっきまでなんの気配もなかった。姿だって一切見えなかったのに、二人はどうやって部屋に忍び込んだんだ?
ぱちくりする俺の頭を撫でたアンドレアが、いつもと変わらない冷静な声音でネタ晴らしを始めた。
「お前と一緒に居たダグラスは分身。俺とダグラスは、お前と別れた後に透明化して裏口から忍び込んでいた」
明かされた怒涛の衝撃事実にハテナが募り、湧き上がる疑問のままに問い掛ける。
「ぶんしん?お兄さまが透明に……?いやいやなにをいっちょるのか。らすかるはおれと一緒だったし、自分以外にまじゅつはかけれないって言って」
「あぁアレ、普通に嘘だわ。俺はベルナルディの専属魔術師なんだぞ、そんな低レベルな訳ねェだろが。分身なんか余裕で作れっし、他人を透明化させることくらい朝飯前に決まってんだろ」
徐々にガガーンと絶望が募っていく。ちょい待ち、それってまさか俺、味方にもサラッと騙されていたってことか?信用されていないってことなのか?
あまりの絶望で青褪める俺を見下ろしたアンドレアは、フォローのつもりなのかオドオドと困り顔を浮かべて弁明を始めた。
それが更に傷を抉るものだとは微塵も自覚していない様子で。
「す、すまない。ルカはアホだから、演技なんて出来る筈もないだろ?どうせ自ら墓穴を掘ったりボロを出してしまうだろうと思ったから、ルカ自体を騙してしまおうと思っただけなんだ」
「オイ若、お前トドメ刺してェのかフォローしてェのかどっちなんだよ」
きゅうー……と萎む俺を抱き締めてアワアワ瞳を揺らすアンドレア。
不器用なアンドレアなりのフォローだったのだろうけれど、効果はこの通り今一つだ。見事に俺の傷口にクリーンヒットのトドメを一太刀浴びせた結果となっただけである。
「──……愉快に騒ぎ立てているところ申し訳ないが、そう呑気に笑い合っている場合か?」
ザシュッ!という嫌な音が聞こえてハッと振り返る。
その瞬間、視界に広がった“赤”を見て息を呑んだ。突如として散ったその血飛沫は、確かにガウの身体から吹き出したものだったから。
「ガウ!」
ガウの左肩に刺さったナイフを見てサーッと青褪める。
刃を突き刺したのはガウ自身。その行動の意味がすぐに分かったから、俺はビクビクと震えながらチェレスに視線を向けた。
これは、だめだ。下手な言動をした瞬間、ガウの命が一瞬で消し飛んでしまう。
「ルカ、こちらに戻れ。見たところ、彼らの登場は其方にとっても想定外だったのだろう。ならば今回限りは見逃すが、今から先は無いぞ」
「っ……」
「ここからは其方の選択だ。逆らうのなら、今度は側近の左腕が吹き飛ぶことになる」
声を発することが出来ない。身体の外側だけじゃなく、内側も全部小刻みに震えてまともに動かせないみたいな、そんな感覚だ。
その震えを察したからか、いつもなら絶対に俺を離そうとしないアンドレアが、今は大人しく俺を下ろした。俺にとっての優先順位を、アンドレアも確かに理解してくれている証拠だ。
無言で足を一歩踏み出した俺を見据えて、チェレスは満足気に口角を上げた。
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