108 / 240
四章
108.その後の裏
しおりを挟む王宮の端っこにある客間。
そこに我が物顔で入室したアンドレアは、ソファに深く腰掛けて溜め息を吐いた。どうやらお疲れのようだ。ふむ、疲れているなら俺を膝から下ろした方が休めるのではないかね。
「……ルカ、よく頑張った。お前のお陰で全てがこちらの狙い通りに終わりそうだ」
「そ、そんな!おれはなにもしてませんっ!ぜんぶお兄さまががんばったことですっ!」
うん、いやこれは本当に。謙遜とかじゃなくて、ガチでね。ガチでそう思ってる。
だって俺、ほんとに棒読み号泣を披露しただけだし。アンドレアはしっかりと脅し……議論を白熱させていたし、それと比べれば俺なんて偉い偉いと褒められる資格もない。
アンドレアってばなんて謙虚なの、と眉尻を下げていると、ふいに客間の扉がノックもなく開かれた。どうして俺の周りはノックをしない人たちばかりなのだろう……。
「ルーカちゃんっ!お疲れさま!よく頑張ったねぇ!」
入ってきたのは案の定のロキだった。後ろにはふにゃり笑顔のリカルド様もいる。
ロキはぱたぱたっと駆け寄ってきて、アンドレアの膝の上から俺をひょいっと奪い取った。
むぎゅーっと抱き締められてぽかぽかぬくぬく。でも、背後から感じるアンドレアの殺気が怖くて動けない。ロキってばまた一発撃ち込まれちゃうよう。
離せ、やだ、死ね、と恒例の言い争いを流れ作業でこなす二人。最終的にリカルド様の仲裁が入ったことで、今回は銃撃にまでは至らなかった。
「まぁまぁ二人とも、まずは座りなさい。ルカちゃんがお疲れ気味だから休ませてあげよう」
号泣演技で疲弊気味の俺をリカルド様だけはしっかりと察してくれたらしい。すき。
二人がその言葉を聞いてハッとしたように腰掛ける。ちなみに俺はロキの膝の上だ。なんでだよ。
俺を膝にのせないと何かしらの災厄が起こるのか?ってくらい座面に座らせようとしないなコイツら……。
ジト目の視線を華麗にスルーして、ロキがアンドレアに話しかけた。
「堅物な君にしては中々上手い立ち回りだったじゃないか。ようやく俺の助言を素直に聞く気になったのかな?」
「貴様の助言通りに動いた訳ではない。あの立ち回りが有利だと、俺が、己で判断しただけだ」
やけに“俺が”を強調するアンドレア。そんなにロキを参考にしたって認めたくないのね……。
アンドレアの言葉にロキが苦笑を浮かべる。そんな二人のやり取りをぽけーっと眺めて、ふいにとある疑問を抱いたのでそろりと声を発した。
「あ、あのぅ、お兄さま。真犯人って、ほんとにいるんですか……?」
恐る恐る手を挙げて尋ねると、アンドレアがぱちくり瞬いて頷いた。
「ん?あぁ。父上が殺っていないのは真実だ。真犯人も別にいる。だから嘘ではない」
何やら含みのある答えに首を傾げる。えぇっとつまり、さっきの主張には何の嘘もないから全然大丈夫ってこと?でいいのかな。
むむぅ?と尖らせた唇をロキがむにゅっと指先で突っつきながら、アンドレアの言葉にうんうんとニコニコで同調した。
「そうだね、嘘ではないね。まだ真犯人見つかってないし、捕まえてもいないけど。真犯人が存在するのは事実だもんね」
「犯人は一応でっち上げておいたけど、まだ本物は見つかってないんだっけ。うーん、でも最悪でっち上げた犯人は用意しているし、何の問題もないね」
ヴァレンティノファミリーのフォローになってないフォローを聞いてあんぐり間抜け面をしてしまう。それ、つまり嘘ついたってことじゃ……げふんげふん。
ま、まぁいっか。そうだよね、父が犯人じゃないってことは事実だし、なんの問題もないね、うむ。
でっち上げに利用されてしまった犯人さんとやらは不憫だけれど、アンドレアに容赦なく利用されちゃうくらいだからきっとその人も悪党さんなのだろう。
この世界でいちいち正義やら同情やらを掲げていては生き残れないので、ここら辺で闇を感じる話題は終わりにすることにした。
「既に犯人はミケに命じて警備隊へ引き渡した上に、記事も順調に国民へ出回っている。父上が解放されるまでもう間も無くだろう」
「今回の件はばっちり解決だね!無能な国王にも一泡吹かせることが出来たし、結果オーライだ」
サラッと不敬を働くロキにメッをする。確かに有能っぽくは見えなかったけれど、仮にも王様にそんなこと言っちゃダメだぞ。不敬罪で首ちょんぱだぞ。
「それじゃあベルナルディの子供達、お父様を迎えに行こうか」
優雅に足を組んで寛いでいたリカルド様がふと声を上げる。
その言葉にぱぁっと瞳を輝かせて、ロキの膝からぴょんっと飛び降りた。とたとたーっと駆け寄るとリカルド様が手を差し出してくれたので、素直にふにゅっと手を繋ぐ。
「あは、ルカちゃんおててちっちゃいね。ふにふにで可愛い。よーしよしパパと一緒に行こうねぇ」
「ちっちゃくないしふにふにじゃないですっ!失礼な!ふんすっ」
リカルド様は優しくて大人っぽいから大好きだけれど、たまにこうして失礼なことを言うから油断できない。まったく、俺をバブ扱いするなんてひどいぞ、ふんすふんす。
「んはっ!ふんすだって!かわいすぎ、なでなでしちゃうっ!」
「んむ、むみゅっ、やめ、やめんかっ!」
俺の激おこ!にも一切怯えることなくほっぺにムニュムニュ攻撃を仕掛けてくるリカルド様。
むぅ、やっぱりこの人は強敵だな……と悔しさを滲ませながら、もう知らん!と手を離してとたとた駆け出した。
そう、クールな俺は別に手を繋がなくたって、しっかりとたとた歩けるのである。ふんす。
***
「クソッ!あのガキ共、計画の邪魔をしおって……!」
議会が終わって直ぐ、公爵家の邸に戻り新聞を確認する。
あの腹の黒い小僧が語っていた通り、確かに記事には大々的に親権に関する法や冤罪事案、更にはジェルマーノ公爵家の地位を脅かすような密告記事が書き連ねられていた。
これでは信頼が失墜しただけでなく、私の立場そのものが危うくなってしまう。下手をして警備隊の強制捜査を受けてしまえば、最悪“あの方”との繋がりが明かされてしまうやもしれない。
そうなれば、私の命は……──
「ッ、駄目だ、何とかしなければ……何とか挽回せねば……!」
「──もう手遅れですよ」
ふと右頬を何かが高速で掠める。
数拍遅れてその軌道を辿ると、そこには鋭利な矢が突き刺さっていた。
まさか、と嫌な鼓動を立てる心臓をそのままに振り返る。
蒼白顔で対峙した先に立っていたのは、何度か“あの方”との対面で目にした弓矢の男だった。
「き、貴様は……い、一体何の用だ!何を……ッ」
「分かっているでしょう。主君の命令で使えない“捨て駒”を処分しに来たのです」
無情に言葉を遮り、男が淡白な足音を立てて近付いてくる。
確かに忍び寄る死の気配。逃げられない。そう分かっていても、本能が足を震わせ、何とかこの場から逃れよと絶えず警鐘を鳴らす。
背後は執務机。可能な限り背を押しつけ無様に仰け反る私に、男は躊躇なく弓を構えて矢を向ける。
「貴方は主君の正体を知っている。我々の計画も全て。残念ですが、生かすことは出来ない」
矢の先が微かに煌めく。
その瞬間、これまでの行いの全てが走馬灯の如く蘇った。
始まりは“あの方”との出会いだった。
その後は実の娘をマフィアに売り、優秀な血を継ぐ道具が欲しかった為に非道な行為を繰り返し、あまつさえ娘を手に掛け、幼子を懐に閉じ込め、残虐な教育を施そうとした。
一体どこから道を踏み外してしまったのか、今となってはもう分からない。
「“お前は端から我らの同士に含まれていない”。主君が貴方に捧げる最期のお言葉です」
男が指を弾く。鋭利な矢先が眉間を貫く。
視界全体に赤い海が散って広がった直後、全ては暗闇に包まれた。
260
お気に入りに追加
7,903
あなたにおすすめの小説
BLゲームの世界でモブになったが、主人公とキャラのイベントがおきないバグに見舞われている
青緑三月
BL
主人公は、BLが好きな腐男子
ただ自分は、関わらずに見ているのが好きなだけ
そんな主人公が、BLゲームの世界で
モブになり主人公とキャラのイベントが起こるのを
楽しみにしていた。
だが攻略キャラはいるのに、かんじんの主人公があらわれない……
そんな中、主人公があらわれるのを、まちながら日々を送っているはなし
BL要素は、軽めです。
遠回りのしあわせ〜You're my only〜
水無瀬 蒼
BL
新羽悠(にいはゆう) 26歳 可愛い系ゲイ
瀬名立樹(せなたつき)28歳 イケメンノンケ
◇◇◇◇◇◇
ある日、悠は職場の女性にセクハラだと騒ぎ立てられ、上司のパワハラにあう。 そして、ふらりと立ち寄ったバーで立樹に一目惚れする。 2人は毎週一緒に呑むほどに仲良くなり、アルコールが入るとキスをするようになるが、立樹は付き合っている彼女にせっつかれて結婚してしまうーー
甥っ子と異世界に召喚された俺、元の世界へ戻るために奮闘してたら何故か王子に捕らわれました?
秋野 なずな
BL
ある日突然、甥っ子の蒼葉と異世界に召喚されてしまった冬斗。
蒼葉は精霊の愛し子であり、精霊を回復できる力があると告げられその力でこの国を助けて欲しいと頼まれる。しかし同時に役目を終えても元の世界には帰すことが出来ないと言われてしまう。
絶対に帰れる方法はあるはずだと協力を断り、せめて蒼葉だけでも元の世界に帰すための方法を探して孤軍奮闘するも、誰が敵で誰が味方かも分からない見知らぬ地で、1人の限界を感じていたときその手は差し出された
「僕と手を組まない?」
その手をとったことがすべての始まり。
気づいた頃にはもう、その手を離すことが出来なくなっていた。
王子×大学生
―――――――――
※男性も妊娠できる世界となっています
俺は北国の王子の失脚を狙う悪の側近に転生したらしいが、寒いのは苦手なのでトンズラします
椿谷あずる
BL
ここはとある北の国。綺麗な金髪碧眼のイケメン王子様の側近に転生した俺は、どうやら彼を失脚させようと陰謀を張り巡らせていたらしい……。いやいや一切興味がないし!寒いところ嫌いだし!よし、やめよう!
こうして俺は逃亡することに決めた。
【完結】ぎゅって抱っこして
かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。
でも、頼れる者は誰もいない。
自分で頑張らなきゃ。
本気なら何でもできるはず。
でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。
誰よりも愛してるあなたのために
R(アール)
BL
公爵家の3男であるフィルは体にある痣のせいで生まれたときから家族に疎まれていた…。
ある日突然そんなフィルに騎士副団長ギルとの結婚話が舞い込む。
前に一度だけ会ったことがあり、彼だけが自分に優しくしてくれた。そのためフィルは嬉しく思っていた。
だが、彼との結婚生活初日に言われてしまったのだ。
「君と結婚したのは断れなかったからだ。好きにしていろ。俺には構うな」
それでも彼から愛される日を夢見ていたが、最後には殺害されてしまう。しかし、起きたら時間が巻き戻っていた!
すれ違いBLです。
ハッピーエンド保証!
初めて話を書くので、至らない点もあるとは思いますがよろしくお願いします。
(誤字脱字や話にズレがあってもまあ初心者だからなと温かい目で見ていただけると助かります)
11月9日~毎日21時更新。ストックが溜まったら毎日2話更新していきたいと思います。
※…このマークは少しでもエッチなシーンがあるときにつけます。
自衛お願いします。
転生令息の、のんびりまったりな日々
かもめ みい
BL
3歳の時に前世の記憶を思い出した僕の、まったりした日々のお話。
※ふんわり、緩やか設定な世界観です。男性が女性より多い世界となっております。なので同性愛は普通の世界です。不思議パワーで男性妊娠もあります。R15は保険です。
痛いのや暗いのはなるべく避けています。全体的にR15展開がある事すらお約束できません。男性妊娠のある世界観の為、ボーイズラブ作品とさせて頂いております。こちらはムーンライトノベル様にも投稿しておりますが、一部加筆修正しております。更新速度はまったりです。
※無断転載はおやめください。Repost is prohibited.
乙女ゲームのモブに転生したようですが、何故かBLの世界になってます~逆ハーなんて狙ってないのに攻略対象達が僕を溺愛してきます
syouki
BL
学校の階段から落ちていく瞬間、走馬灯のように僕の知らない記憶が流れ込んできた。そして、ここが乙女ゲーム「ハイスクールメモリー~あなたと過ごすスクールライフ」通称「ハイメモ」の世界だということに気が付いた。前世の僕は、色々なゲームの攻略を紹介する会社に勤めていてこの「ハイメモ」を攻略中だったが、帰宅途中で事故に遇い、はやりの異世界転生をしてしまったようだ。と言っても、僕は攻略対象でもなければ、対象者とは何の接点も無い一般人。いわゆるモブキャラだ。なので、ヒロインと攻略対象の恋愛を見届けようとしていたのだが、何故か攻略対象が僕に絡んでくる。待って!ここって乙女ゲームの世界ですよね???
※設定はゆるゆるです。
※主人公は流されやすいです。
※R15は念のため
※不定期更新です。
※BL小説大賞エントリーしてます。よろしくお願いしますm(_ _)m
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる