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二章
34.チャカとおもらし
しおりを挟むきゅーんとめちゃんこ可愛い鳴き声を上げながらとことこ歩み寄ってくるロキ。
ふわもこの真っ白な身体をむぎゅーっと抱きとめると、ロキは俺の腕の中でもきゅもきゅと丸まりながら擦り寄ってきた。うーむかわいい、はむはむ。
……って、はっ!ちがうちがう、はむはむなんてしている場合じゃないだろう。
「おばかっ!心配したんだぞ!急に飛び出しちゃだめだろ、メッ!」
「きゅーん」
いい子いい子―となでなでしてあげたいのは山々だが、流石に今回は危険を冒したということでムスッと怒りを示す。心を鬼にするのだ。
ぷくーっとぷんすか説教をすると、そんな俺を見上げたロキはうるうると瞳を潤ませて耳をぺたんと伏せた。「きゅぅーん」と儚い雰囲気を纏って擦り寄ってくる姿に怒りが怯む。
む、むぅ……なんてあざとい……。
「し、仕方ないなぁ。今回だけだぞ!次はおこだからなっ!」
頬を染めてかわいいかわいいと頬擦りする俺を見上げ「きゅーん!」と嬉しそうに鳴くロキ。
むぅ、なんだか上手く丸め込まれてしまった気もするが……いや、ただのわんこがそんな腹黒い胸中をしているわけもない。ただ俺がわんこの愛らしさに勝手に屈服してしまったというだけの話だ。
ロキはただのかわいいわんこ。悪いのはそんなロキを迷子にさせてしまった俺だけだ。
ごめんよー!と改めて涙目で謝ると、ロキは『よかろうよかろう』といった感じで寛容に頷いてくれた。まったく俺のわんこはいつでも最高にかわいいなー。
「──……それが、お前の犬なのか?」
周囲のことを完全に忘れてロキと戯れていた時、ふいに背後から低い声が聞こえてハッと我に返った。そうだ、今はアンドレアも一緒なんだった!
ロキを一緒に探してくれたお礼と、ついでにロキを俺の大事なわんことして紹介しようじゃないかとルンルン気分で振り返る。
むっふー!とドヤ顔でロキを見せびらかそうとした瞬間、ふいに腕の中に大人しく収まっていたはずのロキが突如慌ただしく暴れだした。
「きゅーん!きゅぅーん!」
「わ、わっ!ロキ?急にどうしたんだ!?」
ばたばた、ばたばた。俺の腕の中に深く潜り込もうとしているのか、かわいいぷりぷりのお尻ともふもふな尻尾を晒して俺に擦り寄るロキ。
突然どうしたのか……と数秒浮かべた困惑の表情をすぐにハッ!と見開く。そうか、ロキはかわいくてか弱いわんこだから、アンドレアの鬼のようなオーラに怯んでしまったのか。
わかるわかる、こわいよねーと眉尻を下げて頷きつつ、ぷるぷる震えるロキを抱え込んで体を捻る。アンドレアから一歩離れながら、にへらぁっと誤魔化しの笑顔を浮かべた。
「ご、ごめんなさいお兄さま……ロキは人見知りが激しいのです……たぶん」
俺ってば肝心な時に嘘をつけない子。おずおずとめちゃんこ怪しく瞳を揺らしながら語尾に「たぶん」を追加してしまい、すぐにあわわーっと後悔した。
もはや怪しすぎて信頼できる要素が一つもないくらいの動揺具合だ。これがもし前世なら、一日一回は職務質問されてその疲弊が死因になっていたレベルだろう。
「……そんなことはどうでもいい。その犬をよこせ」
この多様性の時代に人見知りを“どうでもいい”と片付けるとは。世が世ならとっくにパワハラ案件でしょっぴかれているところである。
くれぐれも気を付けてねにぃに……と憐みの視線を向けたところでハッとする。考えてみればこの物騒なマフィアの世界、パワハラなんて常識と化していること間違いない。元日本人の思考は当然通用しないだろう。
むーん……なんて俺にとって生きづらい世界なんだ……。
俺はただ平凡に幼少期を生き抜き、平凡にそれなりの企業に勤めて税金を払い、老後はサラリーマン時代にコツコツ貯めたお金で良い老人ホームに入りたいだけなのに。
しょぼん、と思わず前世の思考に戻ってぐるぐる考え込んでいると、どんくさい俺にイライラゲージが満タンになってしまったらしいアンドレアがふいにムスッと表情を歪めた。
その歪んだ顔のまま、それはもう地を這うような低い声で催促してくる。
「……おい、聞こえなかったのか?その犬擬きをよこせ。それとも……まさかソレの正体を知っておきながら庇っているのか」
「ふぇ?ふぇ、ふぇぇっ!?」
苛立った様子のアンドレアがふと胸ポケットから取り出したのは、黒く輝く拳銃だった。
……って、ぎょえぇぇっ!チャカきたぁぁ!こんな“それっぽい”代物でてきたの、転生してから初めてじゃないかっ!?
「は、はわっ、はわわっ……!」
拳銃の知識は本やら写真やらで見たことがあるから知っているとはいえ、こんなマニアックな現代の利器は生では一度もお目にかかったことがない。
超絶最強の主人公から銃口を向けられているというこの状況。
当然平和ボケした元日本人の俺ではクールに「ふっ、撃てるものなら撃ってみろよ」なんて虚勢でも言えるわけもなく。
途端に力の抜けた身体が後ろに倒れ込み、ロキをぎゅうっと抱いたままぺたんと力無く尻餅をついてしまった。
「お、お兄さま……そんなぁ……っ」
涙がぽろぽろ、全身もぷるぷる……いや、ぶるぶると震える。
あ、たいへん。怖すぎておしっこも漏らしてしまいそう。いや、流石に人としてのプライドが許さないからしないけども。膀胱がちょっぴり悲鳴を上げている。
なんてこったい。俺ってばここで、こうも突然ザマァエンドを迎えてしまうのか……。
それも死因が銃殺って。あの世に行ったら前世のおばあちゃんとおじいちゃんに自慢しよう。おばあちゃんとおじいちゃん、俺が死んだ時はまだまだ現役でとっても元気だったけれど。
なんて現実逃避で場違いなことを考えながら放心していると、やがてアンドレアが更にふかーく顔を顰めて呟いた。
「……おい、あまり苛立たせるな。死にたくなければ今直ぐ──……ルカから離れろ」
「うぅっ!殺すなら一思いにぃ!……って、へ?」
「……は?」
いまなんて?ときょとん顔を浮かべる俺と、ぽかん顔を浮かべるアンドレアとの間におかしな空気が流れ始めた。
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