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フェリアル・エーデルス
357.すれ違い
しおりを挟むわーんわーんと衝動のままに泣きわめく。まるでちっちゃな子供みたいに。
それをシモンがぎゅっと抱き締めて背中ぽんぽん。よしよしなでなで。ライネスにも頭をさらさら撫でられて、やがてほんのちょっぴりだけれど落ち着きを取り戻した。
それにしても、またクールに対処できなかった……これじゃあいつまで経っても子供みたいじゃないか。しゅん……。
「少し落ち着きましたか?って、あぁ……!フェリアル様の可愛いおめめが真っ赤に……!」
「ふくふくな頬も更にふっくらしているね。なんてことだ」
なんてことだ、と言いつつライネスの頬は嬉しそうに緩んでいる。泣いてしまったせいでふっくらしている頬をふくふくつんつんと触りたい放題だ。なにをする、ぷんすか。
頬を伝う、拭いきれなかった小さな雫。それをシモンが大きな手できゅっと拭おうとする気配を感じ大人しく動きを止める。すると、隣に膝をついていたライネスが不意に顔を寄せてきた。
「む……?」
ちゅっ、と突然響く音。頬の雫を吸い取るようにちゅっちゅと唇を押し当てるライネスに気付いた途端、顔がぽぽっと真っ赤に染まる。
かちんこちんに固まる僕の目の前では、上げた手をそのままの状態にしたシモンが目を丸くして硬直していた。うぅっ、シモンの前なのに……恥ずかしい……。
「ライネス、やめてっ。めっ!」
「うん……?あ、ごめんね。嫌だった?涙を拭ってあげようと思ったんだけれど……」
しゅんと眉を下げるライネス。落ち込んでいる様子にあわあわして、拭ってくれたのは嬉しいのよと宥めて力説。嬉しいんだけれど、ちゅっちゅはしなくても良いと思うの。
ライネスの頭をよしよしして機嫌をとると、不意に正面から感じるシモンが動いた気配。はっと視線を戻すと、シモンは俯きがちに瞳を暗くしてしょんぼりオーラを纏っていた。
異変に気が付いたのか流石のライネスもちゅっちゅをやめてスンと姿勢を正す。
二人でシモンを囲ってあわあわ大丈夫かねと慌てていると、やがてシモンがボソッと声を上げた。
「俺が涙を拭わなくても……公子が吸い取ってしまうんですもんね……俺がいなくても……」
ぶつぶつ、ぶつぶつ。低くちっちゃく呟くシモン。聞こえにくい言葉に頑張って耳を澄ませるけれど、本当にちっちゃな声で呟いているからかやっぱり聞こえない。むぅ。
とりあえずシモンの背中なでなで。正面に回って顔を覗き込んだ瞬間、つい数秒前まで全然動く気配のなかったシモンが突然俊敏に動き出した。
むぎゅっ!と強く抱き締められぴゃあっとびっくり。視界の端に映るライネスもぱちくりしている。
「シ、シモン?どうしたの?どっか痛い痛いなの……?」
言いながら顔を上げた途端、顔にぽたぽた降ってくる大粒の雫。一瞬なんだこれは?と瞬いて、その正体を悟った直後びっくり仰天と目を見開いた。
「シ、シッ、シモン……!?もん、もん……!?」
なにゆえー!とおめめ真ん丸。上からぽたぽた降ってきた雫の正体はシモンの涙だった。
泣き真似はあっても、本当に泣くシモンなんて片手で数える程しか見たことがない。たった今目の前にあるのは、シモンの本気の泣き顔だ。唇を引き結んで、堪えるようにぐすぐすって。
「これからは……フェリアル様の涙は公子が吸い取ることになるんですね……おやすみの前のねんねんころりも、公子が歌うし……おはようのちゅーを一日の初めにするのも、公子だし……」
ぐすぐす、めそめそ。愚痴を言うようにそう語るシモンに呆然とする。
反対に、さっきまで呆然としていたライネスは今、何やら申し訳なさそうにしょんぼりとしていた。眉を下げて、暗い雰囲気を纏って、そしておもむろにシモンの傍に近付いて小さく呟く。
「……シモン。やっぱり君は、フェリのことが……それなのに……」
む?なにごと?と状況に付いていけてないのは僕だけみたいだ。シモンはぐすぐす泣いているし、ライネスは暗い表情で眉を下げている。不穏な空気にあわあわそわそわ。
シモンはライネスの言葉に反応して僕をぎゅうっと抱き締め、やがてうぅっという呻き声とともに声を上げた。
「親離れした子を見送る心境って、こんな感じなんですね……うぅっ」
「…………ん?」
「うん?」
何かに引っかかった様子のライネスときょとん顔のシモン。なんだかすれ違いが起きている様子に一番きょとんとする僕。
ちょっぴりカオスというか、拍子抜けしたような空気の中。やがてライネスがぱちぱちっと瞬いてさーっと顔面蒼白。まさか……というような顔で呟いた。
「え、あの……どちらかと言うと、失恋ではなく……?」
「え?どちらかと言うと、親離れした子への複雑な心境ですが……」
「さっきの存在価値が云々かんぬんというのは……?」
「恋人が出来た子は親に構ってくれなくなるでしょう?あれです」
うん?と二人の頭の上に浮かぶはてな。たぶん、この中で一番はてなを多く浮かべているのは僕だろう。だって僕だけ、一ミリも二人の会話についていけていないのだから。むぅ。
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