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【聖者の薔薇園-開幕】

271.ぜうす

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 雅様の話によると、ここは神界でその中でも中心部に位置する宮殿。天帝と呼ばれる神様の王様がいる場所なんだって。ひょえー…。
 神界は文字通り神様の世界。神様しか介入を許されない世界だけれど、今回は異例の許可が下りて僕を神界に入れることが出来たらしい。
 それらは全てリベラ様の図り事みたいだけれど…そこは本人に聞いてみるしかない。

 僕はどうやらマーテルの封印に巻き込まれたみたいで、予想通りマーテルと一緒に球体の中に封じられてしまったのだとか。それを迎えに来てくれたのがねむくんという訳。
 本当はリベラ様が直々に来るはずだったけれど、マーテルを封印したことによって力尽きてしまい、今は眠りについているらしい。
 邪神に堕ちた時みたいに力を奪われたわけじゃないから、ちゃんと徐々に回復するみたいだ。よかったよかった。

 それにしても…ここまで聞いてもまだまだ疑問がたくさん残る。
 流石に全てを一気に聞くことは出来ないので、一番理解しやすいリベラ様について聞いてみることにした。神界の仕組みとかを聞いても難しくて分からないだろうし…。


「リベラ様は神界から追放されたって言ってた。ここにいてもいいの?」


 僕の問いに雅様は困ったように微笑んだ。
 名の通りとっても優美な仕草をする人だ。表情も基本無表情だけれど、それ以外は穏やかで気品がある。


「お前とリベラの勇姿、マーテルの大罪を目にした神達が神界の対応に不信を抱き始めてな…上の連中も重い腰を上げざるを得なかったのだ」


 僕とリベラ様の決死の勇姿、マーテルの罪…神達は全て見ていたのに、それでも救ってはくれなかったのか。
 話を聞いて安堵するどころか更に神界への印象が下がっていってしまう。やっぱり僕は神界に見捨てられていたんじゃないか。
 リベラ様だって、神界に追放されて発揮出来る力が限られている中必死に頑張ってくれたのに。それすら神々の心には大して響かなかったというのだろうか。だと言うのにリベラ様がマーテルの封印に成功した途端、何も無かったみたいに動き出して…。


「お前の気持ちは理解出来る。問題視されていたマーテルが封印され、最強と謳われていたリベラが力を取り戻し復活した。それによって神々は責務を果たさなかった事実から目を逸らし、掌返しをしているのだからな」

「……」

「……かく言う我も、神々を説得し切れなかった罪がある。申し訳なかった」


 雅様はリベラ様の追放を支持したことは一度もなく、寧ろ反対派に回っていたらしい。けれどリベラ様の力を手にしたマーテルの影響力は凄まじく、結局は追放を止めることが出来なかった。
 そもそも邪神に堕ちた神の追放は神界での原則。それを持ちだされてしまえば、反対派は反論することが出来なかったのだ。

 だから雅様は悪くない。雅様が謝る必要なんてない。というか、リベラ様の代弁者でも何でもない僕に謝る必要なんて一切ないのに。
 それでも素直に頷けないのは一体どうしてなのだろう。


「……リベラさまに…僕じゃなくて、リベラ様に謝って」


 か細い声でそう紡ぐと、雅さまは一瞬驚いたように目を見開いて、やがて穏やかに微笑んで「そうであったな」と頷いた。




 * * *




 それからは人通りも多くなってきたので、雅さまの腕の中にぽすっと隠れるようにしてじっとしていた。

 強い視線を向けてくる全ての人が神様だと思うとがくがく震えてくる。改めて考えると、今の状況ってとっても珍しいどころじゃないのでは…。
 視線から逃れるように肩に顔を埋める僕を見下ろし何を思ったのか、雅様は不意に声を上げて何でもないように話を始めた。緊張を解そうとしてくれているのだろうか。


「そういえば、今向かっている場所について伝えておらんかったな」


 そういえば、と僕も首を傾げる。
 普通に雅様に抱っこされてここまで連れてこられたけれど、何処に行くのかを聞いていなかった。

 きょとんとしつつ行き先を伺うと、雅さまは「ふむ」と頷いてさらーっと答えた。


「天帝の元に向かっておるのだ。そこにリベラもおる」


 ほうほう、天帝のもとに…そこにリベラ様も……って、むむむ…?
 ふむ、とこくこく頷いていた頭が徐々にはてと傾く。やがてさーっと蒼白し、ばっと顔を上げて雅さまに縋るような視線を向けた。
 いまなんと…天帝…?神様の王様?その人に会いに行くって…?


「あ、あわ、あわわ…」

「む。如何した。そう緊張せずとも良い。ゼウス様は噂と異なりただの気の良いおじさんだ」

「ぜぜぜ、ぜうす!!」


 なんだか強そうな名前がでてきた。
 ぴゃーっとふわふわ髪が逆立ち、ネコみたいにみゃーっと伸びて丸まってしまう。なんたるこっちゃ、生きている間にぜうす様にお会いすることになるとは…。


「此度の事、ゼウス様も自らの過ちを深く反省なさっておるらしい。人の子のお前を神界で処理すべき事情に巻き込んだ罪の詫びがしたいと」

「はわっ、はわわっ」

「元は我々の不手際で失われた魂の寿命。ゼウス様が責任を持って、フェリアルの魂を修繕して下さることだろう」

「はわわ…はわ?」


 魂の修繕……?

 なんだかいま、とっても重要な事を聞いたような気が…。
 もう一度聞かせてくれーと頼もうとしたけれど、その前に雅様が発した「そろそろ着くぞ」という言葉にお口チャックしてしまった。もうすぐゼウス様に会うことになるなんて、こわい。

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