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【聖者の薔薇園-開幕】
閑話.わくわくかくれんぼ(終)
しおりを挟むふふんっとどやぁしながら扉を開く。たんっ!と軽快に。
応接室をきょろきょろ見渡して、怪しいところがないかじーっと確認。テーブルの下、ソファの裏、カーテンの裏。
探しものはずばり、ディラン兄様だ。
さっきの怪奇現象の犯人は恐らくディラン兄様。隠れていた場所に僕が近付いてきたものだから、慌てて場所を移そうと動き出した。
その時開かれた扉が思いがけず僕の視界に映ってしまい、今こんな状況になっている、というわけだ。
つまり、ディラン兄様は今この部屋のどこかにいるのである。ふふん。
「ふむ…」
元々応接室ということで物も少ないので、探せるような場所も限られる。ひょいひょいっと全ての場所を確認し終えてうーむと首を傾げた。
誰もいない。怪しい場所はあらかた探したはずだけれど、まだ何かあるかな。
もう一度きょろきょろ。うーむ、やっぱりいない…。しょぼぼんして踵を返し、三人の元へとたとた戻る。
「いない…ここじゃないみたい…他のところさがす…」
しゅんと眉を下げて部屋を出ようとすると、三人があわあわ冷や汗を掻きながら大袈裟に語り始めた。
「待ってフェリ。本当にきちんと探した?きっとこの部屋のどこかに隠れているはずだよ。私の勘がそう言っているよ」
「あ、あー…そういやアレ、すげぇでけぇ植木鉢だよな。なんの草なんだろうな、気になるな」
「ち、近くで見てみれば分かるかもしれませんね!あれが一体何の草なのか、もうちょっと近寄って見れば分かるかもしれませんね!」
あわあわっとそれぞれ語る三人。
適当探偵ライネス、棒読みガイゼル兄様、大袈裟シモン。三人ともどこか怪しい気がするのは気のせいだろうか。
きょとんとしつつ振り返る。そこまで言われてしまえば気になるじゃないかと思い視線を移すと、そこには確かに大きな植木鉢があった。
大きな葉っぱが密接に生える何かの植物。温室でも庭園でも見たことがないけれど、あれは一体何なのだろうと首を傾げる。
ガイゼル兄様の言う通り、少し気になるかも。
「ふむふむ。草の正体、つきとめる!」
ぴしぃっと植木鉢を指さしてとたとた駆け寄る。
わしゃわしゃと生える植物をじーっと眺めてふむふむ。うーむ、わからない…本当になんなのだろうこの草は…。
謎でござる…と困惑していると、背後から再び三人の声が。
「綺麗な草だね。でも正面からだけじゃ、魅力が少し分かりにくいかもね」
「例えば裏に回るとかだな。例えばな」
「やっぱり植物というのはあらゆる角度から眺めてこそ美しさを理解出来ますもんね!」
ふむ、なるへそなるへそ。裏から見ればこの草の正体を掴めるかもしれない。一理ある。
うむと頷いてそろりそろり裏側へ。覗き込むようにして植木鉢のウラ側…壁際に回った瞬間、視界に映ったそれを見てぴたりと硬直した。
壁に寄りかかるようにスンとしゃがみこむ一人の男性。無表情の彼は、僕とぱちりと目が合ってもスンと無言無表情を貫いたままだった。
「……」
「……ディラン兄さま?」
「……」
スッと立ち上がるディラン兄様。
肩や頭に乗っていた葉っぱをぺっと払い、至って真面目な表情で植木鉢の裏から出てきた。
少し乱れた髪を冷静にさらりと直す姿にぱちくりする。硬直する僕を見下ろし何を思ったのか、ディラン兄様が無表情のまま僕をひょいっと抱き上げた。
「なんという事だ、見つかってしまった。絶対に見つからない自信があったのに。フェリはすごい。天才だ」
「……!」
淡々と告げられた言葉が嬉しくて、とてつもない棒読みもあまり気になることはなかった。
ぱあっと表情を輝かせてディラン兄様にむぎゅー。うりうりすんすんするディラン兄様にえへへと頬を緩め、ふんすと宣言した。
「ディラン兄さま見つけた!つかまえた!」
わーいわーいと万歳する。
ディラン兄様にひょいっと床に下ろされた後も、嬉しさを堪えきれずに部屋中をとことこぱたぱた走り回ってぴょんぴょん跳ねた。うれしいうれしい。やったやった。
「みんな見つけた!僕、名探偵!とってもかしこい!」
みんながうんうん頷いてぱちぱち拍手してくれる。
「すごいねフェリ。みんな見つけちゃうなんて、とっても賢いねフェリ」
「すげーぞチビ。全員見つけるなんて鬼の才能ありまくりだな。かっけーぞチビ」
「流石フェリアル様!すごいです天才です!」
「フェリすごいぞ。賢いぞフェリ」
ぱちぱちぱちぱち。
部屋中に響くお祝いの声と音にむふふと頬が緩む。
えっへんどどどやぁしてふんすした。僕の手にかかれば、かくれんぼなんてちょちょいのちょいのお茶の子さいさいなのである。えっへん。どどどやぁ。
次のかくれんぼも、僕が無双すること間違いなしなのである!ふふん。
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