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【聖者の薔薇園-プロローグ】
211.さぷらいずまで
しおりを挟む「ライネス!」
「やぁフェリ。気になって来ちゃったよ」
ふと孤児院にひょこっと顔を出したのは、先日ぶりのライネスだった。
にこにこしながら入って来たライネスを、グリードともふもふしていた子供たちがじーっと見つめる。柔らかいものじゃなく攻撃的な視線ばかりだけれど、ライネスはそういう視線には慣れているのか特に気にしている様子はない。寧ろここまで露骨な視線を向けられて尚飄々と笑みを浮かべているライネスに、子供たちはぞわぞわっとした何かを感じたようでそろりと視線を外していた。
「こんにちは。シュタイン伯爵の友人のライネスです。伯爵から皆のことはよく聞いているよ。とっても元気で、愛おしい子たちだって」
室内の全てに聞こえるように語ったライネス。その言葉に子供たちの耳がピクリと動いて、気まずそうに揺れていた瞳もキラーンと輝いた。
そわそわ、もじもじ。何も聞いてないですよ?別に気にしてないですよ?と言わんばかりにそそくさと飾り付けを再開しながらも、みんなの注目がライネスに向けられていることはすぐに分かった。
ライネスは当然それに気が付いているのか、にこにこ笑顔を保ったままもう一度口を開く。
「ボールとか遊具とか。トラードが勝手に仕入れてくるって言っているみたいだけど、実際は伯爵がみんなの為に、こっそり買っていたんだってね。ふふっ、本当に照れ屋な人だよね」
キラキラッ、キラーン。
みんなの瞳が更に輝く。とっても嬉しそうに頬をかぁっと紅潮させて。
ローズは表向きはクールで、何に対しても関心が無いように見える。けれど実際は家族想いで、分かりにくいところで優しさを発揮している人だ。身近にクールなディラン兄様がいるから、ローズの不器用な優しさについては何となく理解出来る。
ローズがここの子供たちを大切に想っていることは間違いない。ライネスの言葉は、あながち間違いでは無いのかも。流石にライネスに面と向かって『愛おしい子』だとは説明していないだろうけれど…それでも、見ていれば本音には直ぐに気が付くはず。
「ローズさんが俺らを…?」
「ボールも全部、私達のためにローズさんが…?」
ひそひそ、こそこそ。至る所で始まる内緒話。かなり大きな声で聞こえているから、内緒にはなっていないけれど。
子供たちは紅潮させた頬を更に緩ませて、もっと大きい飾りをつけようぜと室内を駆け回り始めた。ライネスが来てローズについてを語ってくれたおかげで、雰囲気がもっともっと活発になったみたいだ。
やっぱりライネスはすごいなぁ…と思いつつ振り返る。改めてライネスと向き直り、ふにゃりと緩んだ頬で声を掛けた。
「ライネス。ライネスも、ローズのお誕生日お祝いにきた?」
「うん。ローズ…というより、シュタイン伯爵とは縁があるからね。きっとあっちも拒めないよ。ほら、お花も用意したんだ」
どこに隠し持っていたのか、ライネスが大輪の花束をわさっと取り出して見せてくれた。
色とりどりの薔薇が使われた、とってもきれいな花束。リボンの色はローズマダーで、ローズの独特で綺麗な瞳の色を思い出す色合いになっていた。
「ローズが来たら、フェリがこれを渡すと良いよ」
「む…でも、ライネスが用意した…」
「私は本当に用意しただけ。フェリが渡した方が、きっとローズも喜ぶから」
大輪の花束を目前に差し出されてしまえば、拒否することも出来ず。反射的に受け取ってしまうと、ライネスはにこーっと笑って立ち上がった。あわわっと花束を掲げても知らないふりを貫いていることから、どうやら返却は受け付けないらしいとがっくし諦める。
けれど…花束は本当に素敵だ。もしも僕がこういう花束を渡されたら、感動してふにゃりと泣いてしまうかもしれない。綺麗なお花は、見ているだけでも心がぽかぽかするから好き。
ローズ、喜んでくれるかな。渡したらちゃんと、これはライネスの友情の証なんだよと伝えないと。ローズはともかく、シュタイン伯爵ならライネスとの縁を大切にしているかもしれないから。
「ライネス。アップルパイある。あとで、ライネスも一緒にね」
「私もいいの?嬉しいな。ぜひ一緒に」
ありがとう、と紡いで笑顔を浮かべるライネス。えへへともじもじしていると、不意に背後から「あのぅ…」と控えめな声が聞こえてきた。
はっとして振り返る。そこには照れくさそうな表情でライネスを見上げる、数人の子供たちがいた。みんなそわそわひそひそと何やら話して、やがてそろっと顔を上げる。
ライネスを見つめる瞳には、もう憎悪やらの極端な感情は籠っていなかった。まだ疑心とか不安とか、負の感情を視線に宿した子も少なからずいる。けれどさっきよりは…というより、話しかけてくる辺り、ライネス自体を嫌っているわけではなさそうだ。
「ロ、ローズさんの友達って…。その、もっとなにか、ありませんか…?俺達のこと、話してたこととか…っ」
勇気をもって声を上げた男の子。真っ赤な顔で問う姿を見て、ライネスはぱちくりと瞬いて微笑ましそうにふふっと笑った。
こくりと頷いてしゃがみこむと、男の子に視線を合わせてにこっと答える。
「たくさんあるから、聞かせてあげる。私も準備手伝うから、一緒に飾りをつけながら話そうか」
浮かんだ優しい微笑みを見て、ライネスに敵意が無いことを完全に悟ったのか。
子供たちはゆっくりと警戒心を全て解き、明るい表情でこくこく頷いた。こっちこっちとライネスの手を引いて駆け出すくらいには、ライネスを貴族としてではなく個人として受け入れて懐いたみたいだ。
よきよき、と頷いてシモンに花束を預ける。崩れないようにきれいにね、と念を押すと、シモンはふふんと得意げに笑って「お任せください」と答えた。保存に最適な影に絶対的な自信を持っているみたいだ。よきよき。
「フェリアル様!こっち手伝ってくれ!」
「む…!」
なぬ、と振り返る。視線の先には、こっちこっちと手招くリアムの姿が。
リアムにもそろそろ友達らしく、名前だけで呼んでもらいたいな。そんなことを思いながら急いで駆け寄った。
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