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攻略対象file4:最恐の暗殺者

103.友達だから

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 メリット。

 殿下といるよりも、レオといる方がメリットがある。だから殿下はいらない。
 殿下といてもメリットがないから。僕はもうレオと友達だから。だから……。


 どうして?


「僕、殿下とお友達になるお話してる。なのに、どうしてレオがでてくるの?」

「そっ、それは、だから!メリットが……っ」

「お友達になることに、メリット、必要なの?」

「は……?」


 ぽかん、と虚をつかれたような顔。
 そんなセリフは思ってもみなかったとでも言わんばかりの、驚愕の顔。おかしいな、僕はこれ以外の感想が思い浮かばなかったけれど。
 殿下は本当の本当に、友達になる理由にメリットが必要だと思っているんだ。

 友達といっても、たぶん人によって基準や価値観が違う。僕にとっての友達と、殿下にとっての友達の基準は大きく違うのだろう。
 それなら、それは無視しちゃいけない。だって自分に置き換えて、メリットはいらないと思う僕の基準を無視されるのは、少し悲しい。
 でも、それは殿下も同じ。殿下はメリットが必要だと思ってるなら、それを頭ごなしに否定されて無視されるのは、すごく悲しいことなのかも。

 殿下が悲しいのは、嫌だな。


「うぅん…それなら、メリットつくる?」

「え……つ、作るって……」

「僕は、殿下といるとメリットある。今ね、とっておきを思いついたの」


 ふにゃ、と笑んでコップを握り締める。ミルクが楽しそうにゆらゆらと揺れた。


「殿下といると、たのしい。うれしい。これがメリット。だめ?」


 殿下が息を呑む。
 楽しくて嬉しいのは本当だ。これなら嘘にならない。メリットはいらないと思っているけれど、楽しいと思っているのは本当だから。
 殿下も、メリットを明確に提示されて安心出来る。これじゃあ駄目だろうか。

 そわそわと反応を窺う僕に、殿下はぽかんとしていた顔をやがてふにゃりと崩してみせた。


「……なにそれ。変なの」


 変なの、なんて言いながら。
 その声には何処か温かみがあって、優しさに塗れているような気がした。


「会ったばかりなのに、何で楽しいと思えるの?君、単純過ぎない?嘘じゃないよね?」

「嘘じゃない。たのしいって、ほんとに思った。楽しくなかったら、もっと嫌な顔する。殿下みたいに」


 いーっと頬を摘んで『嫌な顔』をして見せると、殿下はまた「なにそれ」と言いながらおかしそうに笑った。


「殿下は……」

「アラン」

「……?」

「アランでいい。友達って名前で呼び合うものなんでしょ、違うの?」


 殿下は僕のこと、友達だと思えない?
 そう零れそうになった問いを遮られる。きょとんとする僕に殿下が告げたのは、ツンと冷たいながらも赤面した顔から飛び出した温かい言葉だった。

 アランでいい。そのセリフに胸がぽかぽかと暖まって。


「うん……うん、アラン。僕のこと、フェリアルってよんで。よろしくね、アラン」


 ふにゃりと緩んだ頬で語ると殿下は……アランは照れ隠しするみたいにそっぽを向いた。


「……フェリアル」


 短く紡がれた僕の名前。聞き慣れているはずなのに、何だかとっても嬉しくて。

 ふわふわと笑みが溢れて、僕も照れを隠すようにミルクをこくこくと飲み込んだ。コップの影で、少しでも赤い頬を隠すことが出来ればと思ったから。
 飲み干したそれをそっと置くと、アランに近付いてみようと一歩立ち上がる。向かいに回り込もうとした直後、不意に部屋の外に気配を感じた。

 シモンによる『血の誓約』の影響を受けているからだろうか。最近、影から伝わる気配を何となくだけれど察知出来るようになった。


「……」

「フェリアル?」


 立ち上がった状態で硬直した僕を怪訝に思ったのか、アランが眉を寄せて小さく見上げる。その姿にハッとして、慌ててアランの元に回り込んだ。


「アラン」

「な、なに…急に」

「アラン。たって。ここ離れる」

「は?なに、ほんとに急にどうしたの」


 僕が警戒し過ぎているだけかも。気を張りすぎているだけかも。
 流石のローズだって、皇族と共にいる時に襲っては来ない。そう思っていた。今だって、あのローズがそんな無謀な事をするとは思えない。
 けれど、ほんの少しでも可能性があるのなら。



「……失礼。会話の途中に申し訳ありません」



 アランを立ち上がらせた瞬間、部屋の扉が静かに開かれた。それにピクッと怯んで、アランを背後に隠しながら恐る恐る振り返る。
 と言っても、身長差があってアランの姿は丸見えだけれど。

 同い年だけれど、心は僕の方がお兄さんなのだ。もうほとんど霞んでいる前世の記憶と合わせても、僕の方がお兄さん。
 お兄さんとして、友達として。アランのことは絶対に守らないと。


「ちょっと、誰?第二皇子の名でここ周辺は封鎖していたはずだけど。騎士に止められなかった?」


 眉を顰めたアランが肩越しに言い放つ。
 お腹に回された片腕が微かに震えていることから、アランがこの状況の違和感を正確に読み取っていることに気が付いた。
 アランも分かっているのだ、突然入ってきたの危険さに。


「……」


 使用人の服装…変装しているけれど、彼はローズで間違いないだろう。
 やっぱり強行突破を選んだのか。舞踏会の会場にさえ忍び込めれば、あとは正面からのお粗末な襲撃で構わなかったということだ。

 そうなると、ますます彼の"事情"が気になる。ローズをここまで焦らせる事情というのは一体。


「あぁ……騎士ですか。やけに多くて面倒だったので、全員倒しましたよ。……殺しの任務に邪魔なので」

「なっ……!!」


 ローズが後ろ手に取り出したのは短くも鋭いナイフ。それを僕たちに…いや、僕に向けて、ローズは無表情で声を上げた。


「第二皇子、目的はお前じゃない。だが皇族に助けを呼ばれては面倒だ。全て終わるまで隅で大人しくしていろ、そうすればお前に手は出さない」


 そっと離れようとした体を、不意にアランにぎゅっと抱き締められる。



「離れるなバカ…ッ!絶対離さないからな……!」



 耳元で響いた上擦った叫び声に、視界が微かに潤むのを感じた。

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