呪いと祝福のオリア使い

ハンマ

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1-3 いまだ町中

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「わかりました。スズシロさん、俺は亡者の拳でゲネシスをプレイします」
 スズシロさんは更に笑みを深くする。
「よろしい。それでは君に少しばかりの手助けをしよう」
 スズシロさんはお茶を出したときと同じように人差し指を空中で動かす。
「メニューを開けてみろ」
 言われたとおりにメニューを開くと、明らかに変わっている箇所に目が止まる。
 所有額が190ゼニから10,190ゼニとなっていた。
「お金が増えています」
「私が出来るのはこれくらいだ。そのお金を使い切るまでに君独自の成長を見せてみろ」
 感謝を伝えようとメニュー画面から顔を上げるとスズシロさんは既に影も形もなかった。伝えることを全て伝えたので仕事に戻ったのだろう。もう少し愛想があればいいのに、と思う反面あの人に常識は似合わないな、とも感じた。
 することも特にないので家から出る。試しにドアノブを捻ってみても木製のドアをびくともしない。どうやらGM権限でしか開くことができないみたいだ。
「ふ~、とりあえず中央広場に戻るか」
 早く亡者の拳をどうにかしないと本当に詰んじゃうもん。



 中央広場に戻り、NPCショップから順に覗いていく。
 まずは武器屋で武器の詳細を確認していく。
「やっぱり武器屋には武器しかないよな~」
 武器の詳細を確認すると必ずメイン武器かサブ武器が記載されていた。しかし、これは予測していたことなので特に問題はない。
 俺が期待しているのは防具屋、次点で道具屋だ。俺はすぐ近くの防具屋のNPCに
防具見せてもらう。
「う~~~ん。やっぱり最初の町にはないか……」
 探していたものは魔法発動体が付いている防具だ。βテストでは魔法発動体が付いた指輪があったらしい。利点は短杖・長杖を装備しなくても魔法が使えるため前衛職でありながら魔法を使用できるということだ。
「ないものは仕方ない。次だ」
 道具屋で探すのはダメージを発生させるアイテムだ。例を挙げるなら爆弾や罠など。しかし、あるのは薬草や初心者用ポーション、生産職のための最小限のアイテムだけだ。
「仕方ない。こっからは手当たり次第だ」
 各生産職のためのNPCの売店を片っ端から覗き、次にプレイヤーの露店を確認していく。中央広場には数多くの生産プレイヤーが露店で自慢の品々を出品している。
 しかし、始まりの町であり、ゲネシスというゲームが開始されてからさほど時間が経っていないいないこともあり、どの露店も初心者用装備より少しマシ、というものしかない。
 俺は中央広場から離れ町の裏路地にある露店を確認していく。
「おにーさん、おにーさん。よかったら私がつくった武器を見てくれませんか?」
 俺に声をかけてきたのはドワーフ族の女性アバターでプレイヤーネームにはコネコの文字。ドワーフ族の低身長に燃えるような赤い長髪が露店に広がっている。顔もかわいらしい感じで、元気な小学校高学年という感じだ。
 コネコさんがオススメする武器を見ると、それはクナイだった。それ以外にも刀や鞭、中には大きな鈴も転がっていたりして、一見武器かどうか判断に迷うものも置いてある。おそらく上位スキルで使用できる武器がほとんどなのだろう。
「すごい……。けど、これって売れます?」
 俺の質問にコネコさんは苦笑する。
「いや~、これっぽっちも売れないね。てっきり、みんなランダムスキルで上位スキルを狙うと思ったんだげど案外堅実な人が多くて……。せめて課金がもう少し安ければよかったんだけどな~」
 コネコさんが言っている課金とはキャラのリメイクのことだ。このゲームではスキル選択時にランダムを選択することで上位スキルや加護付きのスキルを取得できる可能性がある。ただ、安易にキャラのリメイクが可能となると最初から上位スキルや加護付きのスキルが溢れてしまうため、一回のリメイクで結構な額の課金がかかる上にリメイクの回数を重ねるたびに課金額が増加する仕組みとなっているらしい。
 コネコさんはそれでも上位スキル獲得者が一定数いるだろうと予想して上位スキル専用装備を作成したみたいだが、残念なことに未だ売れたアイテムはないとのこと。
「一応、今日までに3人ほど上位スキル持ちのお客さんが見に来てくれたんだけどね~、まさかの『上位スキルでも下位スキルの武器の一部が装備できる』なんて知らなかったからね~、本当に予想外だよ~」
 なるほど。例えばこのクナイは確かに上位スキルである忍刃専用の武器ではあるがAtkの数値は2であり、忍刃の下位スキルである片手剣の初期装備のダガーもAtkは2。なのにクナイの販売金額は5,000ゼニとなっていれば購入意欲も無くなるわけだ。ちなみに木刀の購入価格は80ゼニである。
「上位スキル専用武器を作成するためにアレコレ試しすぎて原価が上がっちゃってね~、もちろん生産における技術的な分もあるからできるだけ値下げもしたくないんだよね~」
 現状では上位スキルの専用武器の需要と供給が釣り合っていない。もし下位スキルの武器が装備不可能であったならコネコさんの武器も少しは売れていただろう。
 しかし、上位スキルの専用武器を作成できるコネコさんの技術は現在の生産プレイヤーでも上位に入るのではないだろうか?
「コネコさん、魔法発動体の指輪ってないですか?」
「ああ~、あれか。申し訳ないけど今はまだ作成できないかな。β時代であれば作れたんだけど、さすがに今は必要な材料が全然足りないよ~」
「コネコさんはβプレイヤーだったんですか?」
「そうだよ~。そのときは獣人のアバターだったんだけど今回の本番稼動からドワーフに変更したんだよ~」
「プレイヤーネームのコネコはそのときから?」
「うん。本当は名前も変えたかったんだけど~、β時代のフレンドが来てくれるかもしれないから変えずにそのまま使ってるの」
 うへへ~、と嬉しそうにコネコさんは笑う。おそらくβ時代に楽しい思い出が多いのだろう。
「でもどうして?あの指輪は適正レベルで言えば20前後の鉱山地帯のレア鉱石で生産できるものだから、ゲネシスの攻略がもう少し進めば作れる人も増えてくると思うけど~開始早々必要な装備ではないと思うんだけど~?」
 オープンβ時代にあった魔法発動体が付いた指輪の主な使用者は中間職の魔法剣士や聖騎士などが使用していたらしい。魔法剣士は近接の長剣スキルと遠距離の魔法スキルを、聖騎士はタンクスキルと回復・補助魔法で下位職ではできない物理スキルと魔法スキルの組み合わせで活躍したとのこと。だからコネコさんはゲネシスを開始したばかりのニュービーである俺が魔法発動体の指輪を欲しがる理由がないと思っているのだろう。
 ちなみにゲネシスに職業制はなく、一定のスキルレベルとその組み合わせにより職業名の称号が取得できるようになっている。
「ちょっと長い話になりそうですけど……コネコさん、時間あります?」
「ありまくり~。本当、閑古鳥が鳴いてるよ~、よいしょっと」
 コネコさんが腰を浮かせて少し横に寄る。もう一人座れるスペースができるとぺしぺしと地面を手で叩く。ここに座れということだろう。
 失礼します、と一声かけてコネコさんの横に腰を下ろしてメニュー画面を開く。設定画面から所持スキルを非公開から公開へと設定し、ステータス画面の六角形をコネコさんに見えるように角度を変える。
「実はですね……」


 俺は自分の呪われたスキルを説明し、運営のスズシロさんから届いたメールを見せてスズシロさんとの会話を話した。
「うへ~~~、そんなことになってたの~。しかも運営公認のダメスキルなんてあるのね~」
「そうなんです。おかげで町の外に出れないわ、生産もできないわで、もう踏んだり蹴ったりですよ」
「たしかに魔法発動体の指輪は防具だからロウくんも装備できるし~、そうすれば火属性魔法があるからブルースライムは倒せるから攻略はできるよね~。後は一定のダメージを与えるアイテムもあるけど~、あれは錬金術の人たちのスキルがもう少し成長しないと多分生産できないし、値段が高い割りにダメージが低いからβ時代では需要が少なかったんだよね~」
 どうやら俺が求めているものはゲーム開始早々では手に入らないものらしい。
「コネコさん、売っているものってここにあるので全部ですか?」
「ちがうよ~。ここにあるのは自信作だけ~。気にいらなかったものや多分うれなさそうな品はインベントリにいれてるの~」
 ほら~、といってコネコさんが自分のインベントリ一覧の画面を見せてくれた。生産者だけあって、インベントリは限界までアイテムの名前で埋まっている。大半は武器だが少量ながら防具や道具も入っている。
「コネコさん、このアイテムは何ですか?」
 気になったアイテム欄を指差すと、コネコさんは微妙な顔をする。
「『オリジナルアーツの巻物』はね~、名前のとおり自分だけのスキルを作成できるアイテムなんだけど~、すごく中途半端なアイテムなの~」
 詳しく聞いいてみると、この『オリジナルアーツの巻物』はオリジナルコンボ作成のためのアイテムだった。
 このアイテムを使うと5秒間の記録時間が設けられ、その時間内の動作をMP(マジックポイント)を消費して再現するものらしい。
 アクティブスキルは動作に必ずエフェクトが付随する。攻撃スキルなら赤色、回避などの補助スキルは黄色のエフェクトが光り、『オリジナルアーツの巻物』で記録した動作は青色のエフェクトとなるそうだ。
 そしてこのアイテムが微妙と評価されたのには2つ原因がある。
 1つ目は単純に威力の増加がほとんどないのに消費MPが大きいから。2つ目は記録された動作のキャンセルが発生しないこと。
 通常のスキルはスキル動作中に敵から攻撃を受けるとその時点でスキルが中断される。これはスキルの発動失敗を意味するが、敵の連撃を回避する可能性を残してくれる。また、他のアクティブスキルを使うことで使用中のスキルを中断し、強制的に他のスキルに繋げることもできる。
 つまりオリジナルアーツは敵に囲まれたり、狙いがそれたりしたきに中止するすべがなく、敵の反撃をもろに受けることとなる。
 また記録時間が問題で、威力上昇の恩恵が少ないために必然的に5秒間をフルに使って手数をかせぐことでDPSを多くかせぐ検討もされた。
 しかし、5秒もの間回避もできず、かといって手数を重視するプレイスタイルでタンクのような防御力が成立しないことからこれらの方法もすぐに廃れてしまった。逆に記録時間を短くしたらオリジナルアーツを使用する旨みが薄れてしまう。
 このような理由から本格的に攻略を目標とするプレイヤーからはネタスキル扱いとなり、また、なぜか貴重品扱いゆえにNPCへの売却ができないため、生産プレイヤーへ二束三文で売却されインベントリを埋める一品となってしまった。
「これってどうやったら手に入るんですか?」
「課金かログインボーナスだね~。ログインボーナスでは割と早い時期に配られるし、何回かもらえるから長くプレイしている人ほど在庫数も多いよ~」
 たしかにコネコさんの『オリジナルアーツの巻物』のアイテム数はなんと50個を越えており、このアイテムが実用品でないことが見て取れる。
「……うん。この『オリジナルアーツの巻物』を10個売ってもらえますか?」
「本当にいいの?名前のとおりスキルじゃなくてアーツって書いてるように、威力はスキルの劣化版だよ?ブルースライムに素手でダメージがとおるとは思えないけど……」
 自分が作ったものに自身がある、言い換えれば生産に対して誇りを持っているコネコさんにとっては、自分が微妙と判断したものは、例え自分が作ったものではなくても売ることに抵抗があるようだ。
 どうやらコネコさんは商人というより生産者としての意識が強いのだろう。
「ものは試しですよ。といっても何か思いついたわけじゃありませんけど」
 苦笑しながらお金を渡して『オリジナルアーツの巻物』を10個購入する。
「まいどあり~。それにしても残念だな~、ロウくんが亡者の拳じゃなくて上位スキルをとっていてくれたらお得意さまになれたかもしれないのにな~」
 コネコさんのところにきて30分くらいたっただろうか。コネコさんの愚痴にすみません、と返しながら立ち上がる。今からこの『オリジナルアーツの巻物』を試しに行こうとすると、服をくいくいっとコネコさんに引っ張られる。
「ロウくん、フレンド登録しとこっか」
「いいんですか?俺は武器を装備できないからお得意さまにはなれませんよ?」
「いいよ~、何かあったらまた相談にのってあげるから、進展があったら私にも知らせて~」
 えへへ~、と笑うコネコさんがかわいい。お礼を言ってフレンド登録を行って、コネコさんとは別れた。
 そしてオリジナルアーツを習得するため町の外へ向けて足を伸ばした。

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