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転校生襲来編

27話 逃げませんが脈ありでしょうか?

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「本当に久しぶりだな、向日葵ちゃん?」

「……」

 軽薄そうに言ってくる竹中さん。
 車の中は、運転席に竹中さん、助手席に山中さんと拘束されている楓さん、後部座席に私と紫陽花さんが座っています。
 今ここにいるだけでも、吐き気が止まりません。体が震えて、悪寒もします。
 紫陽花さんが、抱きしめてくれているから、なんとか保てているというのに、どういう神経で話しかけれるのですかこの人は!

「ありっ?返事が聞こえないなぁ?」

「がっ……離せ!」

 楓さんの苦しい声が聞こえる。
 多分、首を締められているんでしょうか。
 返事をしなくちゃ、楓さんが苦しんでるだから。

「なにが久しぶりですか、よく私の目の前に出てきましたね」

「自分の立場、分かってないの?」

「山中、久しぶりの会話だ、ちょっとくらい許してやれ」

「竹中がそう言うならいいけど」

「そんな連れない事は言うなよ?俺達、付き合ってるんだから」

「おえっ!!」

 彼の言葉に、吐き気が止まらない。
 こいつ、意味わかんないだけど!
 あんな、あんな事しといてよく言うわよ!

「はぁ……はぁ……」

「大丈夫、大丈夫」

 紫陽花さんは、そうずっと元気付けて私を抱きしめてくれている。
 この状況で、彼女も何がなんだかわからないのに、私を心配してくれている。
 駄目だ。このままじゃ依存する対象が変わるだけだ。蓮華様から紫陽花さんに変わってしまうだけだ。
 それじゃいけない。
 それは、私の望む私じゃない。

「……無免許運転なんてして良いと思ってるの?」

「バレなきゃいいんだよ、お前こそそんな状況なのに、余裕だな」

「痛い目見ないとわかんない?」

「痛い目ならとうに見慣れてるわよ、あんたらみたいな馬鹿は、私達を何処に誘拐するのかしら?」

「誘拐なんて人聞きが悪いなぁ、なぁに近くに俺達の溜まり場があるから、そこに招待するだけだよ」

「俺らのダチもいっぱいいるから、仲良くしような」

「……類は友を呼ぶなんて言うけど、あんたらはゴミはゴミを呼ぶって言ったほうがいいかしら?」

「なんだと、このクソガキ!」

「やめとけ、挑発して騒ぎを大きくしようって魂胆だ、ここで暴れでもしたら怪しまれるぞ」

「チッ……意外と賢いわね」

「まぁな」

 それから5分程走らせ、人気のない倉庫にたどり着いた。そこには、中学生くらいの男の子が入り口で見張っている。

「誰だ?あの中坊?」

「人の場所に勝手に入りやがって」

「正確には、あんた達も一緒じゃない」

「なんだと!」

「やめとけ、そいつの口車に乗る方が面倒だ、後でたっぷり痛い目あわしてやれ」

「……分かった」

「俺は、外に出てあいつらに話かけてくる、お前らは大人しくしとけよ?」

 竹中は、適当な近場に駐車して、運転席から外に出た。今がチャンスだ。

「あんたらっていつもこんな犯罪犯してるの?」

「なにが犯罪だ?ただ仲良くドライブしてるだけじゃないか?」

「はぁ……やっぱり貴方みたいなサイコパスって、話が通じなくて嫌だわ」

「なんだっ……もうその手にはのらねぇぞ?」

「へぇ~蛆虫でも学習できるんだ、偉いね」

「ぶっこ……ぐっがっ……なにする!」

「楓さん、ナイスです」

 楓さんが、山中さんの注意を引きている間に、バレないように静かに腕を回して、彼の首を締めることに成功しました。そのまま力で締め上げ、山中さんを気絶しました。

「ふぅ~やっと解放されたよ、一応こいつガムテープで、す巻きにしよう」

「楓さん、そんな物までもっているんですね」

「まぁあって困らないしね、ほら2人も手伝って」

「そうだね、早くしなくちゃ」

 山中さんをガムテームでグルグル巻きにした後、車から降りて近くの茂みに、3人とも身を潜めました。このまま逃げても、車で追いかけられては逃げられません。
 とりあえず、竹中からケータイを取り返さないといけません。
 遠くから彼を見ると、どうやら先程の中学生と喧嘩しているみたいでした。
 中学生は、3人に増えていましたが、流石に高校生に勝てないようで、ボコボコにされていました。

「どうする?やっぱり逃げた方がいいんじゃない?」

「そうね、どこかのコンビニで店員さんとかに電話を貸してもらうって手もあるし」

「……2人は、逃げてください」

「え?」

「私は、逃げる訳にはいきません」

 2人が、本当に心配してくれているのが、表情で伝わってくる。あの頃の薄っぺらなクラスメイトの表情とは全く違う。蓮華様の様な暖かみを感じる。でも、駄目なんです。
 その暖かさに、頼ってばかりだから。
 こんな私を蓮華様は、望んでいないかもしれません。
 でも、決めたんだ。
 もう逃げないって。
 もう4年間も逃げ続けた。
 だから。

「2人とも、お願いします」

「絶対だっ……」

 紫陽花さんの言葉を楓さんが、口を塞いで遮った。

「私達は、なるべく早く応援を呼べるように頑張る、向日葵ちゃん、それまで絶対に持ち堪えてね」

「はい、ありがとうございます」

 楓さんが、背中を押してくれた。
 紫陽花さんには悪いけど、それでも私は決めたんだ。私は、一歩一歩と竹中に近づいていく。
 辺りには、投げ飛ばされた中学生が横たわっている。

「なんで、ここにいるのかな?俺の勇姿を見たくて、来ちゃったのか?」

「この中学生は、帰してあげてください」

「なんで俺の質問に答えてくれないのかな?」

「帰してあげてください」

「チッ……てめぇらさっさとどっかいけ!」

 私は、怪我をした中学生の肩を持ち、もう1人の動ける中学生にその子を渡した。

「お大事に」

「は......はい」

 3人の中学生が、その場を去った。
 錆びれた倉庫の前に、私と彼だけが残った。
 竹中は、ニヤニヤと気持ち悪い笑みを浮かべ、私を見ている。

「やっと、2人っきりになれたな、デートでもしようぜ?」

「その減らず口、今すぐ閉じろ」

「!?」

「昔は、よくもやってくれたな、何も知らない私に、この学校での挨拶はハグだの、友達なら普通にスキンシップするってセクハラしたり、挙げ句の果てには、おめぇの告白断った腹いせに、チマチマチマチマ教科書破ったり、上靴に画鋲仕込んだりなぁ!」

「ひ、向日葵?」

「別にてめぇの女々しい、くだらねぇいじめなんて、蓮華様が全て帳消しにするくらいの幸せを私にくれたからどうでもいいんだかな」

「......なら」

「でもな!また、私や友達の幸せを奪う気なら、てめぇを私の手でボコボコにしてやるよ!」

 私は、戦う人になる。
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