164 / 220
【共犯者たちの企み(No.16)】
しおりを挟む「おかえりなさい」
神の座に立つ柱へと、彼女の魔力が入ってくる。
熱く燃え上がる炎が瞑世の魔法をさらに進行させていく。
結局私には彼女をコントロール出来なかった。魔力だけはあげると言う約束だけは守ってくれたので、それだけでも僥倖というべきなのだろう。
「どうしたの、何かあったみたいだけど」
心配そうな顔をしたナツが現れる。
異変を察知したのか、パトレシアがこっちに向かってきている様子も見えた。
「火神がやられました。世界から完全に去ったようです」
「やられたって……相手はアンク?」
「はい、アンクさまとリタさんも一緒です」
「そっか、ていうことはアンクは記憶を取り戻しつつあるんだね」
「はい、『死者の檻』を看破する方法も見つけてしまいました。正直に言うと、大ピンチです」
どれもこれもユーニアのせいであることは間違いない。
ぴょんとひとっ飛びで私の隣に立ったパトレシアは、私を見下ろして言った。
「ユーニアならやりかねないね。あの人なら考えを変えて、アンクに味方することも余裕でする」
「パトレシア、アンクと同じ先生だったんだっけ」
「うん。本当に変な人だった。捉えどころがないっていうのは、あの人に使う言葉だね」
「そうですか、最初は私に協力してくれるとは言ってくれたんですが……」
私の言葉にチッチッチと舌打ちして、パトレシアは言った。
「あまい、あまい。あの人の性格上、自分が面白いと思った方向に簡単に転がる。あの人をコントロールしようなんて、この世の誰にも無理だろね」
「面白い……とは、どういう意味でしょうか」
「自分が納得出来る方というか、情にほだされたというか……ともかく裏切ったという訳ではないと思うよ。ユーニアは嘘は付かないけれど、自分が決めたことに純粋だから」
「それは身勝手というのではないですか」
「まさしくそう」
その言葉に思わず深いため息が出る。
どっちに取っても最強の味方であり敵、という風に諦めるしかなさそうだ。
「すると……これからの対策を考えなければなりませんね」
この状況になると、最悪ドミノ倒しのようにナツやパトレシアの『死者の檻』も崩されてしまう。
女神の封印もどうなるか分からない。覚醒した女神が何をするか、考えるまでもない。
嫌な想像に頭を巡らせていると、ナツが私の顔を覗き込みながら言った。
「ねぇ、どうして私たちを洗脳しようとか思わなかったの?」
「……洗脳?」
「うん、レイナちゃんほどの魔力があれば『催眠』の魔法を使って、私たちの思考を縛ることなんて出来ないことじゃなかったでしょ。そうすれば、ユーニアさんだって大人しくしていたんじゃないかな」
「ナツ、あんた顔に似合わず恐ろしいこと言うわね」
パトレシアが顔を引きつらせて言った。
「え、パトレシアだって思ったでしょ。わざわざ裏切られるリスクを取ることもないじゃん」
「…………それは思ってみませんでした。断られたら1人でやろうと思っていましから」
「せっかく呼び出したのに?」
ナツの言葉に頷く。
彼女の言うことはもっともだったが、それは『死者の檻』を使おうと思った時から、頭の中にはどうやって彼女たちを説得するかしかなかった。
「私は自分がやっていることを完全に正しいと思ってはいません。ベターな方法ではありますが、ベストな方法ではないことも知っています。わざわざ同意を取ったのは罪悪感なのかもしれません。死者を使った上、洗脳までして世界を乗っ取る……私には荷が重すぎる話です」
「あー、それはそうだね」
「はい。それから、私は別にユーニアさんに怒ってはいません。あなたたちを犠牲にしてまで、この計画に巻き込むのは正直、今でも後悔しています」
『柱』として彼女たちを召喚したのは、必要に迫られたからだった。
女神を取り込む際に必要とする魔力は膨大で、身体の負担に耐え切れる保証はなかった。そうなれば全てが台無しだ。
「サティの器は私とは比べ物にならないほど大きいのです」
火、空、土、水、風、5大元素全ての膨大な魔力を女神は保有している。
瞑世の魔法を使って新しい次元を作るには、その力が不可欠だった。力を取り込むための器として彼女たちの協力は必須だった。
私1人だったら、この身体はすでに溢れ出る魔力を捉えきれずに崩壊していた。もちろん、彼女たちが協力してくれなければ、その道を選ぶ覚悟はあったが、それは本当に最後の手段だ。
「不本意ねぇ……」
私の言葉を聞いたパトレシアは大きくため息をついた。
「それは私たちに逃げても良いって言ってるってこと?」
「はい、もちろんです。ですから、わたし1人でも……」
「バカ、レイナちゃん。バカねー」
私の言葉を遮って、ナツが頬の方をぎゅーっと引っ張ってきた。私を見る彼女の表情は、かなり怒っていた。
「私たちがあなたの想いを知っていて見捨てて逃げると思っているの。そんなことする訳ないでしょ」
「ですが、このままですと間違いなくアンクさまと対立することになります。2人ともそれで良いのですか」
「良いって言っているじゃない。アンクだろうが、誰だろうが戦ってやるわよ」
私の隣に腰掛けてパトレシアは言った。
「それにアンクを救いたいっていう気持ちは私たちも同じ。自分1人が何でもかんでも背負っていると思わないでね。そういうの身勝手って言うのよ」
「そうそう」
「ナツさん……パトレシアさん……」
彼女たちは笑いながら、私のことを見た。ナツに引っ張られている頬がジンジンと痛かったが、心の奥もまた同時に温かくなっていた。
「2人ともありがとうございます。私のわがままに付き合ってもらって」
彼女たちの言葉に、私は少しだけ自分が許されたような気さえした。例えそれが、一時の幻想に過ぎなくても。
0
お気に入りに追加
369
あなたにおすすめの小説
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件
美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…?
最新章の第五章も夕方18時に更新予定です!
☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。
※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます!
※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。
※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!
【書籍化】パーティー追放から始まる収納無双!~姪っ子パーティといく最強ハーレム成り上がり~
くーねるでぶる(戒め)
ファンタジー
【24年11月5日発売】
その攻撃、収納する――――ッ!
【収納】のギフトを賜り、冒険者として活躍していたアベルは、ある日、一方的にパーティから追放されてしまう。
理由は、マジックバッグを手に入れたから。
マジックバッグの性能は、全てにおいてアベルの【収納】のギフトを上回っていたのだ。
これは、3度にも及ぶパーティ追放で、すっかり自信を見失った男の再生譚である。
男女比1:10。男子の立場が弱い学園で美少女たちをわからせるためにヒロインと手を組んで攻略を始めてみたんだけど…チョロいんなのはどうして?
悠
ファンタジー
貞操逆転世界に転生してきた日浦大晴(ひうらたいせい)の通う学園には"独特の校風"がある。
それは——男子は女子より立場が弱い
学園で一番立場が上なのは女子5人のメンバーからなる生徒会。
拾ってくれた九空鹿波(くそらかなみ)と手を組み、まずは生徒会を攻略しようとするが……。
「既に攻略済みの女の子をさらに落とすなんて……面白いじゃない」
協力者の鹿波だけは知っている。
大晴が既に女の子を"攻略済み"だと。
勝利200%ラブコメ!?
既に攻略済みの美少女を本気で''分からせ"たら……さて、どうなるんでしょうねぇ?
勇者一行から追放された二刀流使い~仲間から捜索願いを出されるが、もう遅い!~新たな仲間と共に魔王を討伐ス
R666
ファンタジー
アマチュアニートの【二龍隆史】こと36歳のおっさんは、ある日を境に実の両親達の手によって包丁で腹部を何度も刺されて地獄のような痛みを味わい死亡。
そして彼の魂はそのまま天界へ向かう筈であったが女神を自称する危ない女に呼び止められると、ギフトと呼ばれる最強の特典を一つだけ選んで、異世界で勇者達が魔王を討伐できるように手助けをして欲しいと頼み込まれた。
最初こそ余り乗り気ではない隆史ではあったが第二の人生を始めるのも悪くないとして、ギフトを一つ選び女神に言われた通りに勇者一行の手助けをするべく異世界へと乗り込む。
そして異世界にて真面目に勇者達の手助けをしていたらチキン野郎の役立たずという烙印を押されてしまい隆史は勇者一行から追放されてしまう。
※これは勇者一行から追放された最凶の二刀流使いの隆史が新たな仲間を自ら探して、自分達が新たな勇者一行となり魔王を討伐するまでの物語である※
欲張ってチートスキル貰いすぎたらステータスを全部0にされてしまったので最弱から最強&ハーレム目指します
ゆさま
ファンタジー
チートスキルを授けてくれる女神様が出てくるまで最短最速です。(多分) HP1 全ステータス0から這い上がる! 可愛い女の子の挿絵多めです!!
カクヨムにて公開したものを手直しして投稿しています。
男女貞操逆転世界で、自己肯定感低めのお人好し男が、自分も周りも幸せにするお話
カムラ
ファンタジー
※下の方に感想を送る際の注意事項などがございます!
お気に入り登録は積極的にしていただけると嬉しいです!
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
あらすじ
学生時代、冤罪によってセクハラの罪を着せられ、肩身の狭い人生を送ってきた30歳の男、大野真人(おおのまさと)。
ある日仕事を終え、1人暮らしのアパートに戻り眠りについた。
そこで不思議な夢を見たと思ったら、目を覚ますと全く知らない場所だった。
混乱していると部屋の扉が開き、そこには目を見張るほどの美女がいて…!?
これは自己肯定感が低いお人好し男が、転生した男女貞操逆転世界で幸せになるお話。
※本番はまぁまぁ先ですが、#6くらいから結構Hな描写が増えます。
割とガッツリ性描写は書いてますので、苦手な方は気をつけて!
♡つきの話は性描写ありです!
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
誤字報告、明らかな矛盾点、良かったよ!、続きが気になる! みたいな感想は大歓迎です!
どんどん送ってください!
逆に、否定的な感想は書かないようにお願いします。
受け取り手によって変わりそうな箇所などは報告しなくて大丈夫です!(言い回しとか、言葉の意味の違いとか)
作者のモチベを上げてくれるような感想お待ちしております!
男女比の狂った世界で愛を振りまく
キョウキョウ
恋愛
男女比が1:10という、男性の数が少ない世界に転生した主人公の七沢直人(ななさわなおと)。
その世界の男性は無気力な人が多くて、異性その恋愛にも消極的。逆に、女性たちは恋愛に飢え続けていた。どうにかして男性と仲良くなりたい。イチャイチャしたい。
直人は他の男性たちと違って、欲求を強く感じていた。女性とイチャイチャしたいし、楽しく過ごしたい。
生まれた瞬間から愛され続けてきた七沢直人は、その愛を周りの女性に返そうと思った。
デートしたり、手料理を振る舞ったり、一緒に趣味を楽しんだりする。その他にも、色々と。
本作品は、男女比の異なる世界の女性たちと積極的に触れ合っていく様子を描く物語です。
※カクヨムにも掲載中の作品です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる