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【終わらない日々(No.02.1)】
しおりを挟むあれから何日? 何週間?
……どれくらいたったのだろう。私の日々は終わることが無かった。3日に1度、牢屋から出されて、私は血の儀式を受ける。
「ぁ……ぅあぁあ!!」
嬉々として血を受け入れる078とは対照的に、私は必死に拒み続けた。流れこんでくる思考を身体の中から追い出そうと、耐え続けた。苦痛を苦痛として感じるように、死に物狂いで叫び続けた。
「ど、どうして……受け入れないの? 辛いだ、けじゃない?」
078は不思議そうに問いかけてきた。
「じ、自分の心を空っぽ、にして、しまえば良いのに。そう、すれば、難なく受け入れるこ、とができ、るよ。もうすぐ『かんさ』だし、017も外に出たいでしょ。良い子にして、れば……出られるよ」
「……外には出たいけど、受け入れるのはいや」
「へ、変なの。頑固な、のね。どう、せ誰も助けに来てくれ、ないのに」
「…………」
078の言うことはもっともだった。こんな地下の奥深くまで、私たちのような孤児を助けに来てくれるような人は存在しない。
私たちはもともと人々の目に止まることはなく、きっとこれからも誰にも見つかることはない。
「でも、私には弟が待っているから」
私にはこの世でたった1人の家族がいる。私の助けを待っている大切な人がいる。078はそれを聞くと、心配そうに言った。
「お、弟がいる、のね……そっか、死んでいないと良いね」
「死ぬ? ここで人が死ぬの?」
「死ぬ、よ。当然、じゃない?」
078は当たり前のことのように言った。
「あぁ、そっか……017はま、だここで死んだ人を見たことがないんだね」
「子どもが死ぬの?」
「そう、血の儀式の過程でね。教祖さまの魔力、を受け入れられない子は、壊れちゃうんだって。あなたの前の017は、そうやって死んじゃったよ。身体がな、くなっちゃったんだ」
「そんな、どうして……」
「分、からないけれど、ここでは、子どもが良く死ぬよ。だから、あなたも早く血の儀式に慣れた方が良いよ。そっちの方が長く生き、られるからね」
彼女の言葉にゾッとするような寒気が襲ってくる。
死ぬ?
私が? 弟が?
弟とは最初の血の儀式以来、会えていない。
血の儀式に臨む時は、ラサラとバイシェ、他の黒頭巾、そして078と教祖以外の人間は見たことがない。
他の牢獄の子どもたちはたまに「うぅ」とか「あぁ」とか、呻り声を発するばかり。ひょっとしたら、その中の1つが弟かもしれないと思うと、私は気が気ではなかった。
あの子は無事だろうか。
「別に人が死ぬ、なんて、不思議……ではないよ」
彼女が言っていた通り、叫び声は減っては増えて、増えては減っていた。
教祖たちはそのたびに、新しい子どもたちをさらってくるようだった。イザーブ周辺のみならず、他の国々からも孤児たちを買ったり、奪ったりしていると078は言っていた。
「あなたの前は……買われてきた奴隷だったね。その前は、イザーブの孤児、その前の前はダイス皇国……の生き残り……って言っていたわ」
「みんなどこに行ったの?」
「一人残らず、死んだ……よ。儀式に耐えきれなかったみたい……」
なんてことはないという風に078は言った。まるで死ぬ方が悪い、とでも言いたげな顔だった。
「そんなことをして、ここの人たちは一体何が目的なの?」
「教祖さまも、ラサラ、さんもバイシェさんも、異端者だって言っていたよ。『異端の王』とか言、っていたけれど……あの人たちは自、分の仲間を増やしたいんだと思うよ。ほら私も徐々に魔力炉が違うように変わっていったの……」
そう言って彼女はドス黒く染まりつつある自分の下腹部を見せた。
078の魔力は血の儀式を経るたびに、徐々に黒いものへと変質していっているのが分かった。教祖の血を食べるたびに、黒い魔力が彼女を侵食していた。
「ラサラさんが言っていたん、だけれど、私も特別な魔法が使えるようになるかもしれないんだって。そうしたら、こ、こから出して、もらえるんだって」
ラサラはそう言うと、自分の後ろ髪を指さすと、手を触れずに動かしてみせた。髪の毛には魔力がまとわれている。
「ほら、見て。わ、私も少し使えるようになったの、異端魔法」
彼女の言う通り、自在に髪の毛を動かす魔法は5大魔法とは違うものだ。彼女は血の儀式を経て、この魔法に覚醒したと言っていた。
「これが、あの人たちの目的ってこと?」
「知らない。でも1年、に2回じゃなくて、毎日、外に出られるんだって、それって素敵じゃない?」
078は次も、その次も教祖の血を受け入れていた。
「は、早く、ください」
「おね、がいです」
「もっと、もっと、血を、ください」
様子がおかしいと感じたのは血の儀式の回数が10を超えた辺りだった。078の瞳はぽっかりと空いた穴のようになり、焦点すら合わなくなっていった。
「血、を、人が」
彼女の身体を使って、違う誰かが喋っている。そんな不気味な感じだった。最初に私と会った時はまともに話せていたはずの彼女は、だんだんと壊れた人形のようになっていった。
「に、くい。あつ、い。ころし、たい」
私が牢獄の中で吐き気をこらえてうずくまっていると、078の牢獄からそんな声が聞こえるようになった。
おかしい。
彼女が壊れ始めている。
さらに幾つかの血の儀式が終わった時には、078はもはや話すことすら出来なくなってしまっていた。
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