上 下
43 / 220

第38話 一応、密室ではある

しおりを挟む
 身体の熱は呼吸を繰り返すごとに強くなっていく。だんだんと正常な思考が働かなくなっていくのは分かっていたが、肝心の身体が言うことを聞いてくれない。
 パトレシアが作った強烈な媚薬びやくは、この狭い土の空間の中に充満仕切っている。倉庫の時よりもスペースがせまくなったおかげか、濃度が高い媚薬が宙を舞っているようだ。

「ナツ……」

 高ぶる魔力が抑えきれない。心臓が鼓動を早めるに連れて、魔力炉もだんだんと活性化していた。
 
「来て……」

 物欲しげに俺のことを見るナツの魔力炉に手を置く。優しく撫でると、ほんのりとオレンジ色に光るナツの魔力が湧き上がった。

「あ、う……」

 魔力炉に触れ続けると、彼女の魔力はまばゆく輝いた。宙に浮かんだ自分の魔力を見ながら、ナツは気持ち良さそうに身体をよがらせた。

「や、う……きもち、良い」

 急に魔力が回り始めて、感覚が鋭敏びんかんになっている。媚薬の効果も相まって、ナツの反応の仕方は尋常じんじょうではなかった。

 耐えきれずに床に崩れ落ちたナツは、びっしょりと汗をかいていた。指を肌に這わせるごとに、ピクリピクリと小刻みに身体を震わせるナツは、ストーブのように熱かった。

「熱いな」

「うん……アンクも……」

 ナツが手を伸ばして、俺の服に触れる。シャツのボタンを外して、彼女は俺の衣服を取り払った。

 小さな彼女の手が、俺の魔力炉に触れた。
 
「すごい、こんなに強い魔力を見たの始めて……。アンクの魔力ってやっぱりこんなに白いんだ」

「……特別性だからな」

「純白で……汚れのない……」

 うわごとのように言って、ナツは魔力炉に置いた手を動かした。肌静かに上下に動かされると、肌の方からじわじわと快感が魔力炉に向かって流し込まれているように感じた。

 張り詰めた糸をゆるめるように、ナツの手は俺の魔力炉を丹念に撫でていた。

「ナ……ツ……」

 せり上がってきた快楽が、意識をさらっていく。互いの2人でその快感を共有するように、手を動かし身体を温める。

 ナツの身体を抱きしめて、首の近くを優しく噛む。

「あ、ぁ……」

 狭い空間の中でエコーする彼女のあえぎは、湿った土の壁に静かに吸い込まれていた。ナツが作り出した土の球体は、隙間の1つもなく外界の音すらも通さなかった。

 ……今、少なくともこの空間には俺たちしかいなかった。
 得体のしれない何かに突き動かされながらも、結局のところそれを望んでいるのは自分自身でしかなかった。媚薬なんか無くても、最初からこうしていたのかもしれない。そんな風に思えるほど、強い感情の高ぶりが意識を覆っていた。

「も、っと……」

「あぁ」

「頭が熱くて、どうしようも……なくて。何かが違っているのは分かっているけれど……」

 止められなくて。
 ナツが喉の奥で呑み下したその言葉を、舌で絡め取る。唇と唇と触れ合わせて、彼女の中に侵入する。呼吸と呼吸が触れ合う。

 ナツの唇は柔らかくて、心地が良かった。互いに手を動かすたびに、荒く呼吸が弾んで、肺の中身が入れ替わっていくように思えた。

「ねぇ……」

 俺の腕の中でナツはささやくように言った。

「大丈夫……、ねぇ、お願い」

 火照った顔で彼女は俺のことを見た。もう1度「お願い」とでも言うように、俺に向かって身体を捧げていた。

「…………あぁ、そうだな」

 彼女の求めに頷く。
 ピリピリと肌の内側を走る感覚。これを本能と呼ぶのなら、俺はそれに従うしかなかった。肉体でもって、誰かと繋がることは決して悪なんかではないはずだ。

「あ……」

 それはほんのちょっとのタッチの差だった。
 彼女の身体を抱くことで頭がいっぱいで、覆っていた土の殻がパラパラと崩れていることに気がついていなかった。ハッと後ろを振り返った時には、すでに土の球体に穴が空き、俺たちのいる空間に大量の光が入り込んできた。

「や」

「ば」

 フッと我に帰って、俺たちは同じ言葉を呟いた。土の球体がガラガラと崩れていく。

 2つの影がゆっくりと近づいてくる。外にナーガの気配はすでになく、天の魔法によって放たれた煌々こうこうとした光に納屋の中が照らされていた。

 冷や汗がドッとあふれ出てくる。

「あっちゃー……間違った。悪い悪い、私ともあろうものが。邪魔しちゃったね」

 そこには俺たちの姿を見てペロッと舌を出して謝るサティと、抗議の叫びをあげるチャリがいた。
 球体の中で情事を繰り広げていた俺たちを発見して、サティはその場によっこいしょと座り込んで横になった。

「良いよ、続けて。ここで待ってるからさ」

「…………いや」

「そう? 良いのに」
 
 こっちが良くない。
 気がつくとナツの方は、恥ずかしさからか顔をリンゴのように真っ赤にして、喉の奥で「キュウ」と変な音を出すとそのまま気を失ってしまった。

 俺はパンツをあげて、ナツに服を着せて、納屋の外へと降り立った。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

ヒューマンテイム ~人間を奴隷化するスキルを使って、俺は王妃の体を手に入れる~

三浦裕
ファンタジー
【ヒューマンテイム】 人間を洗脳し、意のままに操るスキル。 非常に希少なスキルで、使い手は史上3人程度しか存在しない。 「ヒューマンテイムの力を使えば、俺はどんな人間だって意のままに操れる。あの美しい王妃に、ベッドで腰を振らせる事だって」 禁断のスキル【ヒューマンテイム】の力に目覚めた少年リュートは、その力を立身出世のために悪用する。 商人を操って富を得たり、 領主を操って権力を手にしたり、 貴族の女を操って、次々子を産ませたり。 リュートの最終目標は『王妃の胎に子種を仕込み、自らの子孫を王にする事』 王家に近づくためには、出世を重ねて国の英雄にまで上り詰める必要がある。 邪悪なスキルで王家乗っ取りを目指すリュートの、ダーク成り上がり譚!

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

俺の性癖は間違っていない!~巨乳エルフに挟まれて俺はもう我慢の限界です!~

一ノ瀬 彩音
ファンタジー
ある日突然、見知らぬ世界へと転移してしまった主人公。 元の世界に戻る方法を探していると、とある森で偶然にも美女なエルフと出会う。 だが彼女はとんでもない爆弾を抱えていた……そう、それは彼女の胸だ。 どうやらこの世界では大きな胸に魅力を感じる人間が 少ないらしく(主人公は大好物)彼女達はコンプレックスを抱えている様子だった。 果たして主人公の運命とは!? ※この物語はフィクションです。 R18作品ですので性描写などが苦手なお方や未成年のお方はご遠慮下さい。

男女比の狂った世界で愛を振りまく

キョウキョウ
恋愛
男女比が1:10という、男性の数が少ない世界に転生した主人公の七沢直人(ななさわなおと)。 その世界の男性は無気力な人が多くて、異性その恋愛にも消極的。逆に、女性たちは恋愛に飢え続けていた。どうにかして男性と仲良くなりたい。イチャイチャしたい。 直人は他の男性たちと違って、欲求を強く感じていた。女性とイチャイチャしたいし、楽しく過ごしたい。 生まれた瞬間から愛され続けてきた七沢直人は、その愛を周りの女性に返そうと思った。 デートしたり、手料理を振る舞ったり、一緒に趣味を楽しんだりする。その他にも、色々と。 本作品は、男女比の異なる世界の女性たちと積極的に触れ合っていく様子を描く物語です。 ※カクヨムにも掲載中の作品です。

【全話挿絵】発情✕転生 〜何あれ……誘ってるのかしら?〜

墨笑
ファンタジー
『エロ×ギャグ×バトル+雑学』をテーマにした異世界ファンタジー小説です。 主人公はごく普通(?)の『むっつりすけべ』な女の子。 異世界転生に伴って召喚士としての才能を強化されたまでは良かったのですが、なぜか発情体質まで付与されていて……? 召喚士として様々な依頼をこなしながら、無駄にドキドキムラムラハァハァしてしまう日々を描きます。 明るく、楽しく読んでいただけることを目指して書きました。

分析スキルで美少女たちの恥ずかしい秘密が見えちゃう異世界生活

SenY
ファンタジー
"分析"スキルを持って異世界に転生した主人公は、相手の力量を正確に見極めて勝てる相手にだけ確実に勝つスタイルで短期間に一財を為すことに成功する。 クエスト報酬で豪邸を手に入れたはいいものの一人で暮らすには広すぎると悩んでいた主人公。そんな彼が友人の勧めで奴隷市場を訪れ、記憶喪失の美少女奴隷ルナを購入したことから、物語は動き始める。 これまで危ない敵から逃げたり弱そうな敵をボコるのにばかり"分析"を活用していた主人公が、そのスキルを美少女の恥ずかしい秘密を覗くことにも使い始めるちょっとエッチなハーレム系ラブコメ。

もし学園のアイドルが俺のメイドになったら

みずがめ
恋愛
もしも、憧れの女子が絶対服従のメイドになったら……。そんなの普通の男子ならやることは決まっているよな? これは不幸な陰キャが、学園一の美少女をメイドという名の性奴隷として扱い、欲望の限りを尽くしまくるお話である。 ※【挿絵あり】にはいただいたイラストを載せています。 「小説家になろう」ノクターンノベルズにも掲載しています。表紙はあっきコタロウさんに描いていただきました。

催眠アプリで恋人を寝取られて「労働奴隷」にされたけど、仕事の才能が開花したことで成り上がり、人生逆転しました

フーラー
ファンタジー
「催眠アプリで女性を寝取り、ハーレムを形成するクソ野郎」が ざまぁ展開に陥る、異色の異世界ファンタジー。 舞台は異世界。 売れないイラストレーターをやっている獣人の男性「イグニス」はある日、 チートスキル「催眠アプリ」を持つ異世界転移者「リマ」に恋人を寝取られる。 もともとイグニスは収入が少なく、ほぼ恋人に養ってもらっていたヒモ状態だったのだが、 リマに「これからはボクらを養うための労働奴隷になれ」と催眠をかけられ、 彼らを養うために働くことになる。 しかし、今のイグニスの収入を差し出してもらっても、生活が出来ないと感じたリマは、 イグニスに「仕事が楽しくてたまらなくなる」ように催眠をかける。 これによってイグニスは仕事にまじめに取り組むようになる。 そして努力を重ねたことでイラストレーターとしての才能が開花、 大劇団のパンフレット作製など、大きな仕事が舞い込むようになっていく。 更にリマはほかの男からも催眠で妻や片思いの相手を寝取っていくが、 その「寝取られ男」達も皆、その時にかけられた催眠が良い方に作用する。 これによって彼ら「寝取られ男」達は、 ・ゲーム会社を立ち上げる ・シナリオライターになる ・営業で大きな成績を上げる など次々に大成功を収めていき、その中で精神的にも大きな成長を遂げていく。 リマは、そんな『労働奴隷』達の成長を目の当たりにする一方で、 自身は自堕落に生活し、なにも人間的に成長できていないことに焦りを感じるようになる。 そして、ついにリマは嫉妬と焦りによって、 「ボクをお前の会社の社長にしろ」 と『労働奴隷』に催眠をかけて社長に就任する。 そして「現代のゲームに関する知識」を活かしてゲーム業界での無双を試みるが、 その浅はかな考えが、本格的な破滅の引き金となっていく。 小説家になろう・カクヨムでも掲載しています!

処理中です...