11 / 56
11時限目 乱入者
しおりを挟む本校舎には様々な設備がある。雨の日でも魔導の訓練ができる全天候型のドームや、校内行事で使われるホール、レクリエーション施設。古今東西の料理を集めたカフェテリアなどは、生徒の中でも人気の施設だ。
この学園でもっとも優れているものと言えるのは、生徒用の戦闘訓場だ。事前に予約しておけば学内の誰でも使うことができる訓練場は、王都兵団にも負けず劣らずの設備が整えられている。
「では、隊長。私はこれで帰ります」
「おう助かったよ」
授業終わりに起こされたダンテは気持ちよさそうにあくびをした。「おかげさまでよく寝れた」とフジバナに頭を下げた。
「このくらいお安いご用です。隊長が王都に帰ってこられるのなら、それ以上に嬉しいことはないですから」
にこりと微笑んで、彼女は生徒たちに言った。
「明日も来ますからね。皆さん、渡した課題の復習をお願いします」
「い、いっぱいあるニャ……」
山積みになったプリントを見て、ミミが真っ青な顔になっていた。
「成績に応じて、課題を変えています。特にミミは普段の十倍です。これくらい、やらなければ間に合いません」
「ひえぇ……」
「私達も多いけれど、ミミは桁違いだね。頑張って……」
しょげてしまったミミを、同情したようにリリアが励ました。ミミは哀れな声で「脳が死んでしまうニャあ」とぼやいた。
「さぁて、頭の訓練も良いが、こっからは実践戦闘だ。訓練場を押さえておいた。本校舎まで移動するぞ。走ってついてこい」
「え、ここからあっちの校舎まで走るの?」
リリアが目を丸くして言った。
「当然。魔導を使うのに体力は基本だからな。十キロくらいだろ。ちょうど良い」
「げぇ……」
そこからダンテを先頭にして、旧校舎を抜けて、訓練上までの道を走って行った。ペースを緩めずぐんぐんとで進むダンテに、生徒たちは見失わないように付いていくのがやっとだった。皆、汗だくで息も絶え絶えだった。
「は、速すぎる……」
「……私も、もうダメかも」
「マキネス! しっかりするニャ!」
「……私の代わりに、この触手を……」
「それはいらないニャ」
「……うぅ」
結局誰一人付いていくことができず、訓練場についた頃にはダンテは訓練の準備を終えていた。ケロリとした顔で「遅かったな」と生徒たちを迎え入れた。
地面に柔らかい砂が敷き詰められた訓練場の中心には、細長い筒のついた得体の知れない機械が置かれていた。
「なんですかこれ?」
シオンが、ウィンウィンと駆動音を立てる機械を見て、不思議そうに首をかしげた。
「当面の課題だ。シオンちょっとそこに立ってくれ」
「ここですか?」
「もうちょい後ろ……あぁ、そこそこ……」
シオンが機械の目前に立ったのを確認して、ダンテはスイッチを押した。
バシュ!
筒から丸いボールが飛び出した。
「いたぁい!」
飛び出したボールはシオンの顔面を直撃した。野球ボール程度の小ぶりな玉は柔らかく、ぽーんと跳ねて床に落ちた。
「いったーい。なにするんですかぁ」
「擬似魔導弾だ。防御は最大の攻撃。適当に素振りをするよりかは、ずっと効果がある」
「回避の訓練ですか……?」
「そうだ」
「地味だニャア」
バシュ!
続いて飛び出したボールはミミの顔面に激突した。「ふげっ」と声を漏らした彼女
は尻餅をついた。
「不意打ちはひどいニャ!」
「今のが戦闘だったら、死んでいたぞ。いかに強い魔導師だろうが、頭を矢で撃ち抜
かれたら死ぬし、頭を叩けば昏倒する。どんな強い魔導より、一発の暴力の方が効果的だ」
「……乱暴な理論ニャ……」
「魔導をする暇があったら、素早く動いて鈍器で頭を叩く。この上なくシンプルだろうが。さ、行くぞ」
人数分の機械を並べて、ダンテは生徒たちに向かってボールを連射し始めた。バケツいっぱいに盛られていたボールがみるみるうちになくなっていく。
「いたたたたた」
雨あられのごとく連射されていくボールは、運動神経がずば抜けて良いミミすらも避けることができなかった。シオンやマキネスは言わずもがな、ほとんどのボールに当たっている。
少し厳しめに、かなり速めのスピードに設定してある。当然といえば当然だった。
(さて、こいつはどうか)
ダンテは最後にリリアの前にある機械のスイッチを入れた。
「行くぞ」
「うん」
バシュ!
ボールが射出される。
魔導弾を想定した弾丸は。常人なら目で追うのがやっとなはずだった。いかに直進するだけの単純な弾道とはいえ、初見で避けることは素人ならほぼ不可能だった。
「よっ」
その弾丸をリリアは軽々と避けてみせた。昨日よりもリリアの表情が軽い。ダンテはさらに球速をあげて、リリアに放った。
「ほっ」
それも回避する。余裕の表情で、かすりもせずボールをかわして見せた。ボールに当たり過ぎて、メガネが吹き飛んだマキネスが驚いたようにつぶやいた。
「……リリア、すごいね……」
「ん? このくらいなら大丈夫だよ。先生もっと速くても大丈夫!」
「そうか。よし」
もう一段階球速をあげる。この機械が出せるほぼマックスのスピード。ウィウィンと唸りをあげる機械から射出されたボールを、リリアがくるりと舞うようにかわして見せた。
「へへん。よゆーよゆー」
得意げな顔でリリアは笑った。次から次へと飛んでくるボールのどれもをかわして見せている。
(フラガラッハの魔眼は健在か)
神業に近い動体視力。
ダンテは彼女がかわせる理由を、フラガラッハの家系に受け継がれている魔眼の影響だと確信していた。
魔導師の家系には、『異界物質』を代々受け継いでいるものがいる。フラガラッハのそれは人間離れした動体視力を持つ魔眼で、ゆえに敵の攻撃を見切る絶対の武器として威力を発揮してきた。
リリアがその魔眼を持っているのは間違いない。純粋に才能を発揮すれば、一対一の戦いにおいて彼女の右に出るものはそういないはずだった。
(戦闘恐怖症さえ克服できれば、恐ろしい使い手になるんだが)
他の生徒達が息も絶え絶えになっても、リリアは全く疲れを見せていなかった。
「よし、休憩にするか」
バケツに一杯あったボールが空っぽになったところで、ダンテが合図をした。ボールを回収しようと立ち上がった時、バンと音を立てて訓練場のドアがあいた。
「おや、先客かな」
声がした方向を振り向くと、入ってきたのはダンテの知らない生徒たちだった。
髪をオールバックにしたいかにも高慢そうな男子生徒を中心に、タッパの良い男子生徒が数人が子分のように彼を取り囲んでいる。
中にダンテたちがいることを確認した後も、彼はずかずかと訓練場の中へと入ってきた。ダンテはそれを制止させて、立ちはだかった。
「すまんな、授業中だ。帰ってくれないか」
「授業……? 誰だお前」
「教師だ。昨日付けだがな」
怪訝そうな顔でダンテに問いかけたリーダーと見られる生徒は、「あぁ」と思い出したように言った。
「誰かと思えばナッツのクズどもか」
そう言うと彼はリリアたちを見ながら、嘲るような笑みを見せた。ダンテはくるりと振り返って、シオンに「誰だ?」と問いかけた。
「急に授業に割り込んできて、随分と生意気なガキどもだな」
「……彼ら、同学年のパラディンの生徒です。真ん中のあいつは首席のブラム・バーンズ」
「バーンズ……」
嫌な名前を聞いた。ダンテの顔が苦々しげに歪む。
ずかずかと入ってきたオールバックの男子生徒は、ダンテを指差して言った。
「……そうか。お前が俺の父親に逆らって、王都を追い出された身の程しらずか!」
訓練場に響く大声で、ブラム・バーンズはゲタゲタと笑った。
0
お気に入りに追加
71
あなたにおすすめの小説
幼なじみ三人が勇者に魅了されちゃって寝盗られるんだけど数年後勇者が死んで正気に戻った幼なじみ達がめちゃくちゃ後悔する話
妄想屋さん
ファンタジー
『元彼?冗談でしょ?僕はもうあんなのもうどうでもいいよ!』
『ええ、アタシはあなたに愛して欲しい。あんなゴミもう知らないわ!』
『ええ!そうですとも!だから早く私にも――』
大切な三人の仲間を勇者に〈魅了〉で奪い取られて絶望した主人公と、〈魅了〉から解放されて今までの自分たちの行いに絶望するヒロイン達の話。
異世界で買った奴隷が強すぎるので説明求む!
夜間救急事務受付
ファンタジー
仕事中、気がつくと知らない世界にいた 佐藤 惣一郎(サトウ ソウイチロウ)
安く買った、視力の悪い奴隷の少女に、瓶の底の様な分厚いメガネを与えると
めちゃめちゃ強かった!
気軽に読めるので、暇つぶしに是非!
涙あり、笑いあり
シリアスなおとぼけ冒険譚!
異世界ラブ冒険ファンタジー!
ハズレスキル【収納】のせいで実家を追放されたが、全てを収納できるチートスキルでした。今更土下座してももう遅い
平山和人
ファンタジー
侯爵家の三男であるカイトが成人の儀で授けられたスキルは【収納】であった。アイテムボックスの下位互換だと、家族からも見放され、カイトは家を追放されることになった。
ダンジョンをさまよい、魔物に襲われ死ぬと思われた時、カイトは【収納】の真の力に気づく。【収納】は魔物や魔法を吸収し、さらには異世界の飲食物を取り寄せることができるチートスキルであったのだ。
かくして自由になったカイトは世界中を自由気ままに旅することになった。一方、カイトの家族は彼の活躍を耳にしてカイトに戻ってくるように土下座してくるがもう遅い。
S級スキル【竜化】持ちの俺、トカゲと間違われて実家を追放されるが、覚醒し竜王に見初められる。今さら戻れと言われてももう遅い
猪木洋平@【コミカライズ連載中】
ファンタジー
主人公ライルはブリケード王国の第一王子である。
しかし、ある日――
「ライル。お前を我がブリケード王家から追放する!」
父であるバリオス・ブリケード国王から、そう宣言されてしまう。
「お、俺のスキルが真の力を発揮すれば、きっとこの国の役に立てます」
ライルは必死にそうすがりつく。
「はっ! ライルが本当に授かったスキルは、【トカゲ化】か何かだろ? いくら隠したいからって、【竜化】だなんて嘘をつくなんてよ」
弟である第二王子のガルドから、そう突き放されてしまう。
失意のまま辺境に逃げたライルは、かつて親しくしていた少女ルーシーに匿われる。
「苦労したんだな。とりあえずは、この村でゆっくりしてくれよ」
ライルの辺境での慎ましくも幸せな生活が始まる。
だが、それを脅かす者たちが近づきつつあった……。
『殺す』スキルを授かったけど使えなかったので追放されました。お願いなので静かに暮らさせてください。
晴行
ファンタジー
ぼっち高校生、冷泉刹華(れいぜい=せつか)は突然クラスごと異世界への召喚に巻き込まれる。スキル付与の儀式で物騒な名前のスキルを授かるも、試したところ大した能力ではないと判明。いじめをするようなクラスメイトに「ビビらせんな」と邪険にされ、そして聖女に「スキル使えないならいらないからどっか行け」と拷問されわずかな金やアイテムすら与えられずに放り出され、着の身着のままで異世界をさまよう羽目になる。しかし路頭に迷う彼はまだ気がついていなかった。自らのスキルのあまりのチートさゆえ、世界のすべてを『殺す』権利を手に入れてしまったことを。不思議なことに自然と集まってくる可愛い女の子たちを襲う、残酷な運命を『殺し』、理不尽に偉ぶった奴らや強大な敵、クラスメイト達を蚊を払うようにあしらう。おかしいな、俺は独りで静かに暮らしたいだけなんだがと思いながら――。
転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】
ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします
ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった
【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。
累計400万ポイント突破しました。
応援ありがとうございます。】
ツイッター始めました→ゼクト @VEUu26CiB0OpjtL
【完結】【勇者】の称号が無かった美少年は王宮を追放されたのでのんびり異世界を謳歌する
雪雪ノ雪
ファンタジー
ある日、突然学校にいた人全員が【勇者】として召喚された。
その召喚に巻き込まれた少年柊茜は、1人だけ【勇者】の称号がなかった。
代わりにあったのは【ラグナロク】という【固有exスキル】。
それを見た柊茜は
「あー....このスキルのせいで【勇者】の称号がなかったのかー。まぁ、ス・ラ・イ・厶・に【勇者】って称号とか合わないからなぁ…」
【勇者】の称号が無かった柊茜は、王宮を追放されてしまう。
追放されてしまった柊茜は、特に慌てる事もなくのんびり異世界を謳歌する..........たぶん…....
主人公は男の娘です 基本主人公が自分を表す時は「私」と表現します
王宮で汚職を告発したら逆に指名手配されて殺されかけたけど、たまたま出会ったメイドロボに転生者の技術力を借りて反撃します
有賀冬馬
ファンタジー
王国貴族ヘンリー・レンは大臣と宰相の汚職を告発したが、逆に濡れ衣を着せられてしまい、追われる身になってしまう。
妻は宰相側に寝返り、ヘンリーは女性不信になってしまう。
さらに差し向けられた追手によって左腕切断、毒、呪い状態という満身創痍で、命からがら雪山に逃げ込む。
そこで力尽き、倒れたヘンリーを助けたのは、奇妙なメイド型アンドロイドだった。
そのアンドロイドは、かつて大賢者と呼ばれた転生者の技術で作られたメイドロボだったのだ。
現代知識チートと魔法の融合技術で作られた義手を与えられたヘンリーが、独立勢力となって王国の悪を蹴散らしていく!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる