16 / 41
16、せっくすチャンス
しおりを挟む
付き合ってるの? という猪苗代の質問に、春姫は一瞬きょとんとした表情になった。
「なに? ど、どうしたの?」
「いやさ。高校まで仲が良い幼なじみってすごくない? しかもお互いの家に行き来しているくらいだから、できてるのかなー、とか思ったけど……実際どうなの?」
猪苗代は身を乗り出して、春姫に聞いた。その質問に春姫はあまり動揺もせず、あっさりと返した。
「ううん、付き合ってないよ。ただの幼なじみ」
「そっかー、そうなんだー……」
つまらなそうに、猪苗代は座布団にあぐらをかいた。
……付き合ってないか。
確かにそうだ。
けれど、改めて春姫の口から聞くとやはりそうなんだなと認識させられる。俺たちはただの幼なじみで、変わっているところがあるとすれば、毎週水曜日にセックスごっこをするだけの関係だ。
「なぁんだ。つまんないの」
猪苗代がため息をつく。
「でも、仲良しなのは確かだよ」
春姫がニッコリと笑って言う。
「テッちゃんはとっても、優しいんだ」
「そうは見えないけどな」
「マリーちゃんが知らないだけどよ。ね、テッちゃん?」
こっちを振り向いた春姫に、肩をすくめる。
「……どうだかな」
セックスごっこでさえ、いつかその内になくなってしまうのかもしれない。こうやって友人ができて、忙しくなれば、春姫だって家に近寄らなくなる。
そうなれば……、
「ねぇ、コーラある?」
くるくると鉛筆を指で回しながら、猪苗代が言った。
「コーラ? あるかな」
春姫がちらっと俺のことを見る。嫌な想像を頭から振り払って、俺は言った。
「悪い、水しかないんだ。ちょっと買ってくるよ」
「良いよ良いよ。自分で買ってくる」
「コンビニまでちょっと歩くぞ。国道まで出ないと見えてこない。歩いていくと15分くらいかかる」
「結構遠いねー。ま、良いか。気分転換がてら言ってきまーす」
足が痺れたのか、アイタタタと言いながら猪苗代はのそのそと部屋を出て行った。二人きりになった部屋で、春姫はクスクスと笑いながら言った。
「マリーちゃん、面白いでしょ」
「ま、悪いやつじゃなさそうだな」
「みんなからヤンキー扱いされてるけど、そんなことないのに」
「俺もそう思ってた。偏見って怖いな」
少しツンとしている印象があったが、猪苗代は話すとかなり良いやつだ。コソコソ噂話をする奴らよりも、ずっと性格が良い。
「春姫と気が合ったのも、理解したよ」
俺の言葉にくすりと笑って、春姫はペンを握った。しかしそれをすぐテーブルの上に置くと、春姫は髪を耳にかけると、ボソリと囁くように言った。
「今日は、どうする?」
「ん?」
「今日、水曜日だよね」
春姫は俺と目を合わせることもなく言った。窓から差し込む西日に照らされた横顔は、じっとノートに注がれている。
「大人ごっこ。毎週水曜日の……約束でしょ」
「なに? ど、どうしたの?」
「いやさ。高校まで仲が良い幼なじみってすごくない? しかもお互いの家に行き来しているくらいだから、できてるのかなー、とか思ったけど……実際どうなの?」
猪苗代は身を乗り出して、春姫に聞いた。その質問に春姫はあまり動揺もせず、あっさりと返した。
「ううん、付き合ってないよ。ただの幼なじみ」
「そっかー、そうなんだー……」
つまらなそうに、猪苗代は座布団にあぐらをかいた。
……付き合ってないか。
確かにそうだ。
けれど、改めて春姫の口から聞くとやはりそうなんだなと認識させられる。俺たちはただの幼なじみで、変わっているところがあるとすれば、毎週水曜日にセックスごっこをするだけの関係だ。
「なぁんだ。つまんないの」
猪苗代がため息をつく。
「でも、仲良しなのは確かだよ」
春姫がニッコリと笑って言う。
「テッちゃんはとっても、優しいんだ」
「そうは見えないけどな」
「マリーちゃんが知らないだけどよ。ね、テッちゃん?」
こっちを振り向いた春姫に、肩をすくめる。
「……どうだかな」
セックスごっこでさえ、いつかその内になくなってしまうのかもしれない。こうやって友人ができて、忙しくなれば、春姫だって家に近寄らなくなる。
そうなれば……、
「ねぇ、コーラある?」
くるくると鉛筆を指で回しながら、猪苗代が言った。
「コーラ? あるかな」
春姫がちらっと俺のことを見る。嫌な想像を頭から振り払って、俺は言った。
「悪い、水しかないんだ。ちょっと買ってくるよ」
「良いよ良いよ。自分で買ってくる」
「コンビニまでちょっと歩くぞ。国道まで出ないと見えてこない。歩いていくと15分くらいかかる」
「結構遠いねー。ま、良いか。気分転換がてら言ってきまーす」
足が痺れたのか、アイタタタと言いながら猪苗代はのそのそと部屋を出て行った。二人きりになった部屋で、春姫はクスクスと笑いながら言った。
「マリーちゃん、面白いでしょ」
「ま、悪いやつじゃなさそうだな」
「みんなからヤンキー扱いされてるけど、そんなことないのに」
「俺もそう思ってた。偏見って怖いな」
少しツンとしている印象があったが、猪苗代は話すとかなり良いやつだ。コソコソ噂話をする奴らよりも、ずっと性格が良い。
「春姫と気が合ったのも、理解したよ」
俺の言葉にくすりと笑って、春姫はペンを握った。しかしそれをすぐテーブルの上に置くと、春姫は髪を耳にかけると、ボソリと囁くように言った。
「今日は、どうする?」
「ん?」
「今日、水曜日だよね」
春姫は俺と目を合わせることもなく言った。窓から差し込む西日に照らされた横顔は、じっとノートに注がれている。
「大人ごっこ。毎週水曜日の……約束でしょ」
0
お気に入りに追加
101
あなたにおすすめの小説
悪役王子に転生したので推しを幸せにします
あじ/Jio
BL
僕はラブコメファンタジー小説「希望のフィオレ」に出てくる獣人国の悪役王子──ジョシュア・アンニークに転生した。
物語のジョシュアは、ヒーローである皇帝に一目惚れをして、主人公を皇后の座から引きずり下ろそうとした性悪王子。
だけど、僕は違う。
なんせ僕の推しは、物語の主人公に想いを寄せている、ベルデ大公だからだ!
どんなときも主人公を想い、守り、何年も一途に愛したのに、ぽっとで弟に想い人をかっさらわれるわ、最後は死亡エンドだわ……あんまりだろう!
だから僕は決意した。
──僕が大公を幸せにしたらいいじゃん、と。
大公の死亡フラグを折り幸せにするため、とある契約をもちかけた僕は、ある秘密を抱えて推し活に励むことになったのだけれど……。
-----------------------------
ツンデレ無愛想攻めと、不遜な一途健気受けです。
最初の説明回のみはすれ違いや嫌われですが、
第3章からラブコメ・ギャグテイストな雰囲気になります。
前半
攻め←←←←←←←←受け
後半
攻め→→→→→→→→受け
みたいな感じで溺愛度たっぷりになる予定です。
また、異種族がいるため男性妊娠が可能な世界となっています。
-----------------------------
※ムーンライトにも掲載していますが、先行公開はこちらです。
継母や義妹に家事を押し付けられていた灰被り令嬢は、嫁ぎ先では感謝されました
今川幸乃
恋愛
貧乏貴族ローウェル男爵家の娘キャロルは父親の継母エイダと、彼女が連れてきた連れ子のジェーン、使用人のハンナに嫌がらせされ、仕事を押し付けられる日々を送っていた。
そんなある日、キャロルはローウェル家よりもさらに貧乏と噂のアーノルド家に嫁に出されてしまう。
しかし婚約相手のブラッドは家は貧しいものの、優しい性格で才気に溢れていた。
また、アーノルド家の人々は家事万能で文句ひとつ言わずに家事を手伝うキャロルに感謝するのだった。
一方、キャロルがいなくなった後のローウェル家は家事が終わらずに滅茶苦茶になっていくのであった。
※4/20 完結していたのに完結をつけ忘れてましたので完結にしました。
【完結】王子妃になりたくないと願ったら純潔を散らされました
ユユ
恋愛
毎夜天使が私を犯す。
それは王家から婚約の打診があったときから
始まった。
体の弱い父を領地で支えながら暮らす母。
2人は私の異変に気付くこともない。
こんなこと誰にも言えない。
彼の支配から逃れなくてはならないのに
侯爵家のキングは私を放さない。
* 作り話です
茶番には付き合っていられません
わらびもち
恋愛
私の婚約者の隣には何故かいつも同じ女性がいる。
婚約者の交流茶会にも彼女を同席させ仲睦まじく過ごす。
これではまるで私の方が邪魔者だ。
苦言を呈しようものなら彼は目を吊り上げて罵倒する。
どうして婚約者同士の交流にわざわざ部外者を連れてくるのか。
彼が何をしたいのかさっぱり分からない。
もうこんな茶番に付き合っていられない。
そんなにその女性を傍に置きたいのなら好きにすればいいわ。
【完結】浮気者と婚約破棄をして幼馴染と白い結婚をしたはずなのに溺愛してくる
ユユ
恋愛
私の婚約者と幼馴染の婚約者が浮気をしていた。
私も幼馴染も婚約破棄をして、醜聞付きの売れ残り状態に。
浮気された者同士の婚姻が決まり直ぐに夫婦に。
白い結婚という条件だったのに幼馴染が変わっていく。
* 作り話です
* 暇つぶしにどうぞ
【☆完結☆】転生箱庭師は引き籠り人生を送りたい
udonlevel2
ファンタジー
昔やっていたゲームに、大型アップデートで追加されたソレは、小さな箱庭の様だった。
ビーチがあって、畑があって、釣り堀があって、伐採も出来れば採掘も出来る。
ビーチには人が軽く住めるくらいの広さがあって、畑は枯れず、釣りも伐採も発掘もレベルが上がれば上がる程、レアリティの高いものが取れる仕組みだった。
時折、海から流れつくアイテムは、ハズレだったり当たりだったり、クジを引いてる気分で楽しかった。
だから――。
「リディア・マルシャン様のスキルは――箱庭師です」
異世界転生したわたくし、リディアは――そんな箱庭を目指しますわ!
============
小説家になろうにも上げています。
一気に更新させて頂きました。
中国でコピーされていたので自衛です。
「天安門事件」
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる