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43 二人の朝
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朝アエルが目を覚ますと、リリアージュは昨日のドレス姿になり、カーテンポールに掛けてあるアエルのマントを背伸びしながら取ろうとしているところだった。
「……?何をしている」
「私……ドレス姿で来てしまって。このマントを貸してくれる?羽織って公爵邸に行って来るから……ドレスも返さなきゃいけないし……」
「──公爵邸?」
「毎朝、王宮に出勤する前のお医者様が公爵邸に寄って、私の傷を診てくれていたの……。今朝も来ていただく予定……」
アエルは剥がれかけていたガーゼをそっと摘まんで傷を見た。
もう乾燥して治りかけてはいたが、まだ治りきってはいなかった。
「今日で治療をやめると言ってこなければ。お金もかかるし、もうほっといても治りそうだし……」
「いや…お金は出すから少しでも傷が残らないように、ちゃんと診てもらえ……」
そう、アエルに言われリリアージュは首を振った。
「いいの……。あと、レオルドにも謝ってくる。私が押し掛けたあげく、看病もしてもらって公爵夫人にしてほしいと言ったの……結婚の準備もさせて…なのに……。私の友達はレオルドしかいないのに…」
「妬けるな……。やはりあの時家を出なければよかった……あなたのそばにいたかった。アイリス姫の付き人を引き受けたのも、あなたに、また必要とされているみたいで嬉しかったから……」
アエルは自分のシャツを羽織りながらリリアージュに言った。
「あなた一人では行かせられないから、一緒に付き添って行く。治療の事も頼まなければいけないし、ドアも破壊してしまったからそれも謝罪せねば……まぁ、元はと言えばあいつの嘘で別れる羽目になったのだが……」
アエルは昨日自分のした事を思い出したのか、くすっと笑った。
二人は手早く身支度を整えると、朝の澄んだ空気のする外へ出た。
「アエル…ありがとう……」
リリアージュはアエルにポツリと言った。
「こうして朝、一緒に家を出るとアエルが学校に付き添ってくれていた頃を思い出す……」
「……懐かしいな。でも前とは違う……今は手を繋げる。付き人と令嬢は手を繋げないから…」
ドアの鍵をかけながらアエルは言った。
「色々と用意できてなくて悪い……朝ごはんも。お腹空いただろう?」
リリアージュは首を振りながらほほ笑んだ。
「お腹は空いたけれど……。あっ今、向かうと丁度公爵邸の朝ごはんの時間……。もし誘われたらレオルドの所で…」
「やめろ……。その図は間抜けだ。医者に診てもらったらすぐに帰宅する」
「では……紅茶をいただくのは?もし、出していただけたらよ?喉が渇いて……。朝起きて茶葉を探したけれど、何もなかったし。そもそもお茶の淹れ方も私は知らないんだけれどね?」
「……あなたは学校や家で…料理などは……」
「私は学校では勉強と剣術の授業をフルで取っていたから、花嫁修業的な授業を一切受けなかったの」
なぜか得意げに答えるリリアージュをアエルは静かに見つめた。
「家ではお手伝いさんが全てやっていたし、母に教わろうにも母も何も知らないし。そもそもアエルがいた頃は、全てアエルがやってくれていたじゃない?」
全て自分がやっていた事を思い出し、自分を思わず呪いそうになりながらアエルは口をつぐみリリアージュの話を黙って聞く。
「……でも、このままじゃと思っているのよ。私はコーンポタージュが好きなのだけど、あれは色的に卵と牛乳で作られているのよね?どうやって作るのかしら?あら、でもコーンというからには……」
横で頓珍漢な話をするリリアージュを横目に、アエルは考えていた。
──誰が育てたらこんな痴れ者ができあがるのか……。
そしてすぐに、ハッとする。
それは自分だという事に……。
「……ではあなたには一体何ができるのだろうか?」
思わず心に浮かんだ言葉がフィルターを通さず、アエルの口を突いて出た。
そう言われ少し考えて、リリアージュは答えた。
「髪を……売ることはできたわ。あれは、少しのお金になった。治療費もかかるしお金が必要だから…あなたが許してくれるのなら、また売りに行ってもいい?丁度伸びて邪魔な事だし」
「──聞いた私がいけない。悪かった。あなたの長い髪は私が気に入っているんだ。だからやめてくれ……」
そう言って笑うと、リリアージュの手を取り朝日の降り注ぐ小道を二人でゆっくりと歩き出した。
「……?何をしている」
「私……ドレス姿で来てしまって。このマントを貸してくれる?羽織って公爵邸に行って来るから……ドレスも返さなきゃいけないし……」
「──公爵邸?」
「毎朝、王宮に出勤する前のお医者様が公爵邸に寄って、私の傷を診てくれていたの……。今朝も来ていただく予定……」
アエルは剥がれかけていたガーゼをそっと摘まんで傷を見た。
もう乾燥して治りかけてはいたが、まだ治りきってはいなかった。
「今日で治療をやめると言ってこなければ。お金もかかるし、もうほっといても治りそうだし……」
「いや…お金は出すから少しでも傷が残らないように、ちゃんと診てもらえ……」
そう、アエルに言われリリアージュは首を振った。
「いいの……。あと、レオルドにも謝ってくる。私が押し掛けたあげく、看病もしてもらって公爵夫人にしてほしいと言ったの……結婚の準備もさせて…なのに……。私の友達はレオルドしかいないのに…」
「妬けるな……。やはりあの時家を出なければよかった……あなたのそばにいたかった。アイリス姫の付き人を引き受けたのも、あなたに、また必要とされているみたいで嬉しかったから……」
アエルは自分のシャツを羽織りながらリリアージュに言った。
「あなた一人では行かせられないから、一緒に付き添って行く。治療の事も頼まなければいけないし、ドアも破壊してしまったからそれも謝罪せねば……まぁ、元はと言えばあいつの嘘で別れる羽目になったのだが……」
アエルは昨日自分のした事を思い出したのか、くすっと笑った。
二人は手早く身支度を整えると、朝の澄んだ空気のする外へ出た。
「アエル…ありがとう……」
リリアージュはアエルにポツリと言った。
「こうして朝、一緒に家を出るとアエルが学校に付き添ってくれていた頃を思い出す……」
「……懐かしいな。でも前とは違う……今は手を繋げる。付き人と令嬢は手を繋げないから…」
ドアの鍵をかけながらアエルは言った。
「色々と用意できてなくて悪い……朝ごはんも。お腹空いただろう?」
リリアージュは首を振りながらほほ笑んだ。
「お腹は空いたけれど……。あっ今、向かうと丁度公爵邸の朝ごはんの時間……。もし誘われたらレオルドの所で…」
「やめろ……。その図は間抜けだ。医者に診てもらったらすぐに帰宅する」
「では……紅茶をいただくのは?もし、出していただけたらよ?喉が渇いて……。朝起きて茶葉を探したけれど、何もなかったし。そもそもお茶の淹れ方も私は知らないんだけれどね?」
「……あなたは学校や家で…料理などは……」
「私は学校では勉強と剣術の授業をフルで取っていたから、花嫁修業的な授業を一切受けなかったの」
なぜか得意げに答えるリリアージュをアエルは静かに見つめた。
「家ではお手伝いさんが全てやっていたし、母に教わろうにも母も何も知らないし。そもそもアエルがいた頃は、全てアエルがやってくれていたじゃない?」
全て自分がやっていた事を思い出し、自分を思わず呪いそうになりながらアエルは口をつぐみリリアージュの話を黙って聞く。
「……でも、このままじゃと思っているのよ。私はコーンポタージュが好きなのだけど、あれは色的に卵と牛乳で作られているのよね?どうやって作るのかしら?あら、でもコーンというからには……」
横で頓珍漢な話をするリリアージュを横目に、アエルは考えていた。
──誰が育てたらこんな痴れ者ができあがるのか……。
そしてすぐに、ハッとする。
それは自分だという事に……。
「……ではあなたには一体何ができるのだろうか?」
思わず心に浮かんだ言葉がフィルターを通さず、アエルの口を突いて出た。
そう言われ少し考えて、リリアージュは答えた。
「髪を……売ることはできたわ。あれは、少しのお金になった。治療費もかかるしお金が必要だから…あなたが許してくれるのなら、また売りに行ってもいい?丁度伸びて邪魔な事だし」
「──聞いた私がいけない。悪かった。あなたの長い髪は私が気に入っているんだ。だからやめてくれ……」
そう言って笑うと、リリアージュの手を取り朝日の降り注ぐ小道を二人でゆっくりと歩き出した。
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