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40 新居
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アエルは王宮からもほど近い場所にある、公園のような場所にリリアージュを連れて行った。
鉄製のアーチ型の門を開け小さな中庭を抜けると、そこにはレンガや石材でできた瀟洒なアパートが現れた。
アエルがカチリとドアの鍵を開ける。
中に入るとこじんまりとした感じのいい部屋が幾つかあり、どの窓にもまだカーテンが掛かっていなかった。
「プロポーズされてからすぐに部屋を探し始め、帰国後はあなたとここに住もうとタタン国からも人を通して手続きをした。二人の新居をこつこつと用意していたわけだが…子爵邸に行ったら、公爵邸にいると言われ……」
案内されるままリリアージュが奥の寝室について行くと、毛布が一枚掛かっただけの簡素なベッドと椅子が置いてあった。
アエルは自分の着ていたマントを脱ぎ、カーテンの掛かっていないカーテンポールに適当に引っ掛け、外からかろうじて見えなくさせる…。
「大人しく花嫁修業でもしているのかと思っていたのに、怪我をしたとはいえレオルドの元で紅茶を啜っているとは……」
アエルはため息をついてベッドに腰かけると、横に座ったリリアージュの顔を見て言った。
「リリアージュ…。今回の事はいい…もう終わった事だ。だが、次に他の男に体を許したら私はあなたを許さない……覚えておけ」
青い顔で頷くリリアージュにアエルは続けて言う。
「意識があろうとなかろうと…だ。仮にも騎士だったんだから私の身を守る前に自分の身ぐらい自分で守れ……」
怒られて、涙を滲ませながら再び頷いたリリアージュに、アエルは吐き捨てるように言った。
「私は、あなたと結婚するに当たって他の男と寝てはいけない……というところから教えなければいけないのか?」
「……だって、あなた、私の顔や髪は好きだとよく言っていたけれど私の性格や体なんて、そこまで好きではないでしょう?褒められた事もないし……いつも理性的に抱く」
「──何を言っている?」
「だから、顔に傷がついてしまったのを見たらきっと私の事、嫌になると思った。それで…いつも受け入れてくれるレオルドの元へ行った……」
「受け入れてくれる、レオルド……?あなたは私を煽っているのか?……私が受け入れないとでも?」
リリアージュは小さく頷いた。
「今日まで、愛していると言われた事もなかったし、私は自分の立ち位置を知っている。学校に通っている頃は、努力してなんとか首席をキープしたけど…それが限界。上手く生きていく力は…ない。応用力もない。そもそも何であなたが結婚を承諾したのだか…」
リリアージュは続けて言葉をぶつける。
「子爵家を継ぐ気なら税金もかかるし、私は怪我の治療費もレオルドに返さなければいけない……」
「なるほど…金がかかる……と」
リリアージュは、ぼそりと言った。
「贅沢するつもりはないけど、なぜか私はいつも負債があってお金がないの……」
「それは……大変そうだな……」
アエルは小さく笑うと唇にキスをした。
鉄製のアーチ型の門を開け小さな中庭を抜けると、そこにはレンガや石材でできた瀟洒なアパートが現れた。
アエルがカチリとドアの鍵を開ける。
中に入るとこじんまりとした感じのいい部屋が幾つかあり、どの窓にもまだカーテンが掛かっていなかった。
「プロポーズされてからすぐに部屋を探し始め、帰国後はあなたとここに住もうとタタン国からも人を通して手続きをした。二人の新居をこつこつと用意していたわけだが…子爵邸に行ったら、公爵邸にいると言われ……」
案内されるままリリアージュが奥の寝室について行くと、毛布が一枚掛かっただけの簡素なベッドと椅子が置いてあった。
アエルは自分の着ていたマントを脱ぎ、カーテンの掛かっていないカーテンポールに適当に引っ掛け、外からかろうじて見えなくさせる…。
「大人しく花嫁修業でもしているのかと思っていたのに、怪我をしたとはいえレオルドの元で紅茶を啜っているとは……」
アエルはため息をついてベッドに腰かけると、横に座ったリリアージュの顔を見て言った。
「リリアージュ…。今回の事はいい…もう終わった事だ。だが、次に他の男に体を許したら私はあなたを許さない……覚えておけ」
青い顔で頷くリリアージュにアエルは続けて言う。
「意識があろうとなかろうと…だ。仮にも騎士だったんだから私の身を守る前に自分の身ぐらい自分で守れ……」
怒られて、涙を滲ませながら再び頷いたリリアージュに、アエルは吐き捨てるように言った。
「私は、あなたと結婚するに当たって他の男と寝てはいけない……というところから教えなければいけないのか?」
「……だって、あなた、私の顔や髪は好きだとよく言っていたけれど私の性格や体なんて、そこまで好きではないでしょう?褒められた事もないし……いつも理性的に抱く」
「──何を言っている?」
「だから、顔に傷がついてしまったのを見たらきっと私の事、嫌になると思った。それで…いつも受け入れてくれるレオルドの元へ行った……」
「受け入れてくれる、レオルド……?あなたは私を煽っているのか?……私が受け入れないとでも?」
リリアージュは小さく頷いた。
「今日まで、愛していると言われた事もなかったし、私は自分の立ち位置を知っている。学校に通っている頃は、努力してなんとか首席をキープしたけど…それが限界。上手く生きていく力は…ない。応用力もない。そもそも何であなたが結婚を承諾したのだか…」
リリアージュは続けて言葉をぶつける。
「子爵家を継ぐ気なら税金もかかるし、私は怪我の治療費もレオルドに返さなければいけない……」
「なるほど…金がかかる……と」
リリアージュは、ぼそりと言った。
「贅沢するつもりはないけど、なぜか私はいつも負債があってお金がないの……」
「それは……大変そうだな……」
アエルは小さく笑うと唇にキスをした。
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