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39 怒るアエル
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リリアージュはドアに耳をつけてアエルの動向を探った。
しばらくして、ドア越しにアエルの気配が消えたのを感じたリリアージュは、急いでバルコニーに出た。
そして身を乗り出すように下を見て、必死にアエルの姿を探す……。
すると、リリアージュの背後からバキバキっという轟音と共に床に何かが倒れる音がした。
リリアージュが何事かと振り返ると、アエルに勢いよく蹴られたドアが床になぎ倒されていた……。
ドアを踏んで向かってくるアエルの顔は怒りに満ちている。
アエルは、バルコニーで固まっているリリアージュの頬を一瞥した。
「……顔の傷か…。あれから勤務中に怪我でも負ったのか?」
リリアージュは急いで頬のガーゼに手を当て、顔を伏せる。
アエルは当惑したように言った。
「あなたは、そんな事の為に私を捨てようとしたのか…?」
たじろいでいるリリアージュの手首を掴むと、アエルは部屋の外に向かった。
「あなたは簡単に私を捨てすぎる…。なぜ私の存在はいつもそんなに軽いのか?私が二度も同じ手に引っかかって去るわけ……ないだろう…?」
ドアの倒れた音に気がついて部屋の前まで来たレオルドが、リリアージュの手を引いて出て行こうとしているアエルに声をかける。
「……連れ出すのはいいが…。リリアージュの事は抱いたぞ。怪我で薬を飲んで意識がはっきりしていない時に何度か……」
その言葉を聞き、アエルに掴まれていたリリアージュの手から力が抜ける……。
レオルドは、足を止めたアエルに更に言葉を投げかけた。
「そんなリリアージュを変わらずに愛せるほど、あなたの心が広いとは思えないが…どうだろう…。俺の思い違いか?」
リリアージュは、絞り出したような小さな声で言った。
「…アエル……私、意識のない時なら抱いていいってレオルドに言ったの……」
アエルはリリアージュの掴んでいた手首を一瞬が強く握った。
しかし、すぐに力を抜き、レオルドの方を向いた。
そして、獲物を見つけた獣のような灰色の瞳で一直線にレオルドを捉える。
灰色の奥の青色がギラリと冷酷に光るのが、レオルドにも見えた。
「──リリアージュが、戯言を言ったのも、迷惑をかけたのも想像できる……。傷の手当ての事も感謝する。ただ、謝る事はできるが譲る事はできない……」
そう言うと、アエルはリリアージュの手を引きながら公爵邸を出て行った。
※※※
去って行ったアエルを背に、蹴り倒されたマホガニー材でできたドアを見てレオルドは呟いた。
「………あと少しだったが…手に入れそこなった……。そういえばあの男、護衛騎士団の隊長をやっていたっけ。……馬鹿力め」
レオルドは、軽く足元のドアを蹴った。
「あいつ、口では穏やかな事を言っていたが、人を殺しそうな目で見やがって……。俺とした事が、一瞬…日和った……」
そしてふっと笑うと、ドアのなくなった部屋の入口に腕を組んで寄りかかった。
「まぁ、一時いい夢が見れて、幸せだったと前向きに……捉えるか──」
レオルドは、ゆっくりと目を閉じてふぅ…とため息をついた。
しばらくして、ドア越しにアエルの気配が消えたのを感じたリリアージュは、急いでバルコニーに出た。
そして身を乗り出すように下を見て、必死にアエルの姿を探す……。
すると、リリアージュの背後からバキバキっという轟音と共に床に何かが倒れる音がした。
リリアージュが何事かと振り返ると、アエルに勢いよく蹴られたドアが床になぎ倒されていた……。
ドアを踏んで向かってくるアエルの顔は怒りに満ちている。
アエルは、バルコニーで固まっているリリアージュの頬を一瞥した。
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リリアージュは急いで頬のガーゼに手を当て、顔を伏せる。
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「あなたは、そんな事の為に私を捨てようとしたのか…?」
たじろいでいるリリアージュの手首を掴むと、アエルは部屋の外に向かった。
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ドアの倒れた音に気がついて部屋の前まで来たレオルドが、リリアージュの手を引いて出て行こうとしているアエルに声をかける。
「……連れ出すのはいいが…。リリアージュの事は抱いたぞ。怪我で薬を飲んで意識がはっきりしていない時に何度か……」
その言葉を聞き、アエルに掴まれていたリリアージュの手から力が抜ける……。
レオルドは、足を止めたアエルに更に言葉を投げかけた。
「そんなリリアージュを変わらずに愛せるほど、あなたの心が広いとは思えないが…どうだろう…。俺の思い違いか?」
リリアージュは、絞り出したような小さな声で言った。
「…アエル……私、意識のない時なら抱いていいってレオルドに言ったの……」
アエルはリリアージュの掴んでいた手首を一瞬が強く握った。
しかし、すぐに力を抜き、レオルドの方を向いた。
そして、獲物を見つけた獣のような灰色の瞳で一直線にレオルドを捉える。
灰色の奥の青色がギラリと冷酷に光るのが、レオルドにも見えた。
「──リリアージュが、戯言を言ったのも、迷惑をかけたのも想像できる……。傷の手当ての事も感謝する。ただ、謝る事はできるが譲る事はできない……」
そう言うと、アエルはリリアージュの手を引きながら公爵邸を出て行った。
※※※
去って行ったアエルを背に、蹴り倒されたマホガニー材でできたドアを見てレオルドは呟いた。
「………あと少しだったが…手に入れそこなった……。そういえばあの男、護衛騎士団の隊長をやっていたっけ。……馬鹿力め」
レオルドは、軽く足元のドアを蹴った。
「あいつ、口では穏やかな事を言っていたが、人を殺しそうな目で見やがって……。俺とした事が、一瞬…日和った……」
そしてふっと笑うと、ドアのなくなった部屋の入口に腕を組んで寄りかかった。
「まぁ、一時いい夢が見れて、幸せだったと前向きに……捉えるか──」
レオルドは、ゆっくりと目を閉じてふぅ…とため息をついた。
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