上 下
36 / 43

36 結婚準備

しおりを挟む
リリアージュは起き上がれるようになって、傷も乾燥し始めた頃から毎日ドレスの試着をさせられていた。

白いウエディングドレスは公爵家代々のものを着ると決まっていて、選んでいるのはその後の晩餐会や舞踏会で着る豪華なドレスだった。

起き上がるとまだふらふらするのに、何度も着替えねばならずリリアージュはレオルドに文句を言った。

「ドレスなど…レオルドが適当に選んだのを着るから……。それに、なんでそんなに式を急ぐの?顔に傷のある花嫁など自慢できないでしょ?ガーゼが取れてからのほうが幾分ましでは?」

「顔の傷などどうでもいい。アエルが帰ってくる前に、正式に俺のものにしておかなければまずいからな…。それには周りへのお披露目も欠かせない」

リリアージュが公爵夫人の椅子は空いているか?と聞いた次の日から、レオルドは結婚に向けてすみやかに準備を進めていた。

「俺が選ぶにしろ、ドレスは着てみないと分からないから黙って衣装合わせぐらい付き合え……時間がないから既製品から選ぶしかないんだよ…」

そう言って、持っていた書類に目を通しサインをした。

すると、隣で山のような書類を持っている公爵家お抱えの法律家の男に、他にも急いでサインしてもらわなければならない書類があるから別室に来てくれ……と言われる。

「ああ…公爵だった事が嫌だと思った事はないが、貴族間の結婚の手続きがこんなに煩雑だとは思わなかった。平民同士ならすぐできたのに!時間との勝負になるとは……!!」

そう言って珍しくイライラしているレオルドをしり目に、リリアージュは侍女に言われるまま、衝立ついたての向こう側で違うドレスに着替える。

すると今度は一階にいる執事から、レオルドは呼ばれた。

限界に達したレオルドは「ううっ……」と呻いて天を仰ぎ、ふぅっとため息をついた。

そして、レオルドは執事に向かって諦めたかのように返事をする。

「──ちょっと待っていてくれ。サインが終わったらすぐに下に降りて行く」

レオルドは舌打ちをして、男と共に足早に部屋を出て行った。

リリアージュを着替えさせていた侍女が、装飾品の入っている箱を何個かごそごそと開け、そしてためらいがちにリリアージュに言った。

「このドレスに似合うヘッドドレスは、ドレスと同じ色のボンネだと思うのですがなぜかここになくて…。一階の装飾保管庫を探して参ります…ですから少しお待ちいただいても?」

静かに頷いたリリアージュを残し、侍女は下に降りて行った。

急に誰もいなくなった部屋で、リリアージュは久しぶりに人心地ついた。

何も考えずに、ボーと立っていると、トントンとノックする音が聞こえた。

侍女はノックしたらすぐにドアを開けるから、誰だろうと思っていると、リリアージュが一番聞きたくて一番聞きたくない声がドアの外で響いた。

「……リリアージュ?」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

公爵家のご令嬢は婚約者に裏切られて~愛と溺愛のrequiem~

一ノ瀬 彩音
恋愛
婚約者に裏切られた貴族令嬢。 貴族令嬢はどうするのか? ※この物語はフィクションです。 本文内の事は決してマネしてはいけません。 「公爵家のご令嬢は婚約者に裏切られて~愛と復讐のrequiem~」のタイトルを変更いたしました。 この作品はHOTランキング9位をお取りしたのですが、 作者(著者)が未熟なのに誠に有難う御座います。

前世軍医だった傷物令嬢は、幸せな花嫁を夢見る

花雨宮琵
恋愛
侯爵令嬢のローズは、10歳のある日、背中に刀傷を負い生死の境をさまよう。 その時に見た夢で、軍医として生き、結婚式の直前に婚約者を亡くした前世が蘇る。 何とか一命を取り留めたものの、ローズの背中には大きな傷が残った。 “傷物令嬢”として揶揄される中、ローズは早々に貴族女性として生きることを諦め、隣国の帝国医学校へ入学する。 背中の傷を理由に六回も婚約を破棄されるも、18歳で隣国の医師資格を取得。自立しようとした矢先に王命による7回目の婚約が結ばれ、帰国を余儀なくされる。 7人目となる婚約者は、弱冠25歳で東の将軍となった、ヴァンドゥール公爵家次男のフェルディナンだった。 長年行方不明の想い人がいるフェルディナンと、義務ではなく愛ある結婚を夢見るローズ。そんな二人は、期間限定の条件付き婚約関係を結ぶことに同意する。 守られるだけの存在でいたくない! と思うローズは、一人の医師として自立し、同時に、今世こそは愛する人と結ばれて幸せな家庭を築きたいと願うのであったが――。 この小説は、人生の理不尽さ・不条理さに傷つき悩みながらも、幸せを求めて奮闘する女性の物語です。 ※この作品は2年前に掲載していたものを大幅に改稿したものです。 (C)Elegance 2025 All Rights Reserved.無断転載・無断翻訳を固く禁じます。

いつか彼女を手に入れる日まで

月山 歩
恋愛
伯爵令嬢の私は、婚約者の邸に馬車で向かっている途中で、馬車が転倒する事故に遭い、治療院に運ばれる。医師に良くなったとしても、足を引きずるようになると言われてしまい、傷物になったからと、格下の私は一方的に婚約破棄される。私はこの先誰かと結婚できるのだろうか?

【完結】私、噂の令息に嫁ぎます!

まりぃべる
恋愛
私は、子爵令嬢。 うちは貴族ではあるけれど、かなり貧しい。 お父様が、ハンカチ片手に『幸せになるんだよ』と言って送り出してくれた嫁ぎ先は、貴族社会でちょっとした噂になっている方だった。 噂通りなのかしら…。 でもそれで、弟の学費が賄えるのなら安いものだわ。 たとえ、旦那様に会いたくても、仕事が忙しいとなかなか会えない時期があったとしても…。 ☆★ 虫、の話も少しだけ出てきます。 作者は虫が苦手ですので、あまり生々しくはしていませんが、読んでくれたら嬉しいです。 ☆★☆★ 全25話です。 もう出来上がってますので、随時更新していきます。

【完結】失いかけた君にもう一度

暮田呉子
恋愛
偶然、振り払った手が婚約者の頬に当たってしまった。 叩くつもりはなかった。 しかし、謝ろうとした矢先、彼女は全てを捨てていなくなってしまった──。

引きこもり令嬢が完全無欠の氷の王太子に愛されるただひとつの花となるまでの、その顛末

藤原ライラ
恋愛
 夜会が苦手で家に引きこもっている侯爵令嬢 リリアーナは、王太子妃候補が駆け落ちしてしまったことで突如その席に収まってしまう。  氷の王太子の呼び名をほしいままにするシルヴィオ。  取り付く島もなく冷徹だと思っていた彼のやさしさに触れていくうちに、リリアーナは心惹かれていく。けれど、同時に自分なんかでは釣り合わないという気持ちに苛まれてしまい……。  堅物王太子×引きこもり令嬢  「君はまだ、君を知らないだけだ」 ☆「素直になれない高飛車王女様は~」にも出てくるシルヴィオのお話です。そちらを未読でも問題なく読めます。時系列的にはこちらのお話が2年ほど前になります。 ※こちら同じ内容で別タイトルのものをムーンライトノベルズにも掲載しています※

婚約者が最凶すぎて困っています

白雲八鈴
恋愛
今日は婚約者のところに連行されていました。そう、二か月は不在だと言っていましたのに、一ヶ月しか無かった私の平穏。 そして現在進行系で私は誘拐されています。嫌な予感しかしませんわ。 最凶すぎる第一皇子の婚約者と、その婚約者に振り回される子爵令嬢の私の話。 *幼少期の主人公の言葉はキツイところがあります。 *不快におもわれましたら、そのまま閉じてください。 *作者の目は節穴ですので、誤字脱字があります。 *カクヨム。小説家になろうにも投稿。

人質姫と忘れんぼ王子

雪野 結莉
恋愛
何故か、同じ親から生まれた姉妹のはずなのに、第二王女の私は冷遇され、第一王女のお姉様ばかりが可愛がられる。 やりたいことすらやらせてもらえず、諦めた人生を送っていたが、戦争に負けてお金の為に私は売られることとなった。 お姉様は悠々と今まで通りの生活を送るのに…。 初めて投稿します。 書きたいシーンがあり、そのために書き始めました。 初めての投稿のため、何度も改稿するかもしれませんが、どうぞよろしくお願いします。 小説家になろう様にも掲載しております。 読んでくださった方が、表紙を作ってくださいました。 新○文庫風に作ったそうです。 気に入っています(╹◡╹)

処理中です...