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36 結婚準備
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リリアージュは起き上がれるようになって、傷も乾燥し始めた頃から毎日ドレスの試着をさせられていた。
白いウエディングドレスは公爵家代々のものを着ると決まっていて、選んでいるのはその後の晩餐会や舞踏会で着る豪華なドレスだった。
起き上がるとまだふらふらするのに、何度も着替えねばならずリリアージュはレオルドに文句を言った。
「ドレスなど…レオルドが適当に選んだのを着るから……。それに、なんでそんなに式を急ぐの?顔に傷のある花嫁など自慢できないでしょ?ガーゼが取れてからのほうが幾分ましでは?」
「顔の傷などどうでもいい。アエルが帰ってくる前に、正式に俺のものにしておかなければまずいからな…。それには周りへのお披露目も欠かせない」
リリアージュが公爵夫人の椅子は空いているか?と聞いた次の日から、レオルドは結婚に向けてすみやかに準備を進めていた。
「俺が選ぶにしろ、ドレスは着てみないと分からないから黙って衣装合わせぐらい付き合え……時間がないから既製品から選ぶしかないんだよ…」
そう言って、持っていた書類に目を通しサインをした。
すると、隣で山のような書類を持っている公爵家お抱えの法律家の男に、他にも急いでサインしてもらわなければならない書類があるから別室に来てくれ……と言われる。
「ああ…公爵だった事が嫌だと思った事はないが、貴族間の結婚の手続きがこんなに煩雑だとは思わなかった。平民同士ならすぐできたのに!時間との勝負になるとは……!!」
そう言って珍しくイライラしているレオルドをしり目に、リリアージュは侍女に言われるまま、衝立の向こう側で違うドレスに着替える。
すると今度は一階にいる執事から、レオルドは呼ばれた。
限界に達したレオルドは「ううっ……」と呻いて天を仰ぎ、ふぅっとため息をついた。
そして、レオルドは執事に向かって諦めたかのように返事をする。
「──ちょっと待っていてくれ。サインが終わったらすぐに下に降りて行く」
レオルドは舌打ちをして、男と共に足早に部屋を出て行った。
リリアージュを着替えさせていた侍女が、装飾品の入っている箱を何個かごそごそと開け、そしてためらいがちにリリアージュに言った。
「このドレスに似合うヘッドドレスは、ドレスと同じ色のボンネだと思うのですがなぜかここになくて…。一階の装飾保管庫を探して参ります…ですから少しお待ちいただいても?」
静かに頷いたリリアージュを残し、侍女は下に降りて行った。
急に誰もいなくなった部屋で、リリアージュは久しぶりに人心地ついた。
何も考えずに、ボーと立っていると、トントンとノックする音が聞こえた。
侍女はノックしたらすぐにドアを開けるから、誰だろうと思っていると、リリアージュが一番聞きたくて一番聞きたくない声がドアの外で響いた。
「……リリアージュ?」
白いウエディングドレスは公爵家代々のものを着ると決まっていて、選んでいるのはその後の晩餐会や舞踏会で着る豪華なドレスだった。
起き上がるとまだふらふらするのに、何度も着替えねばならずリリアージュはレオルドに文句を言った。
「ドレスなど…レオルドが適当に選んだのを着るから……。それに、なんでそんなに式を急ぐの?顔に傷のある花嫁など自慢できないでしょ?ガーゼが取れてからのほうが幾分ましでは?」
「顔の傷などどうでもいい。アエルが帰ってくる前に、正式に俺のものにしておかなければまずいからな…。それには周りへのお披露目も欠かせない」
リリアージュが公爵夫人の椅子は空いているか?と聞いた次の日から、レオルドは結婚に向けてすみやかに準備を進めていた。
「俺が選ぶにしろ、ドレスは着てみないと分からないから黙って衣装合わせぐらい付き合え……時間がないから既製品から選ぶしかないんだよ…」
そう言って、持っていた書類に目を通しサインをした。
すると、隣で山のような書類を持っている公爵家お抱えの法律家の男に、他にも急いでサインしてもらわなければならない書類があるから別室に来てくれ……と言われる。
「ああ…公爵だった事が嫌だと思った事はないが、貴族間の結婚の手続きがこんなに煩雑だとは思わなかった。平民同士ならすぐできたのに!時間との勝負になるとは……!!」
そう言って珍しくイライラしているレオルドをしり目に、リリアージュは侍女に言われるまま、衝立の向こう側で違うドレスに着替える。
すると今度は一階にいる執事から、レオルドは呼ばれた。
限界に達したレオルドは「ううっ……」と呻いて天を仰ぎ、ふぅっとため息をついた。
そして、レオルドは執事に向かって諦めたかのように返事をする。
「──ちょっと待っていてくれ。サインが終わったらすぐに下に降りて行く」
レオルドは舌打ちをして、男と共に足早に部屋を出て行った。
リリアージュを着替えさせていた侍女が、装飾品の入っている箱を何個かごそごそと開け、そしてためらいがちにリリアージュに言った。
「このドレスに似合うヘッドドレスは、ドレスと同じ色のボンネだと思うのですがなぜかここになくて…。一階の装飾保管庫を探して参ります…ですから少しお待ちいただいても?」
静かに頷いたリリアージュを残し、侍女は下に降りて行った。
急に誰もいなくなった部屋で、リリアージュは久しぶりに人心地ついた。
何も考えずに、ボーと立っていると、トントンとノックする音が聞こえた。
侍女はノックしたらすぐにドアを開けるから、誰だろうと思っていると、リリアージュが一番聞きたくて一番聞きたくない声がドアの外で響いた。
「……リリアージュ?」
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