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29 プロポーズ
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アエルは、美しい顔で静かに言った。
どんなにリリアージュが探っても、その瞳からは誠実さしか見つけられなかった。
それでも、リリアージュはアエルの言った言葉が信じられず聞き返した。
「…本当に?嘘ではなく?……では今日でも?!」
アエルは少し笑って、リリアージュを優しく見つめた。
「今日はもう役所が閉まっている。それと、あなたは子爵令嬢で貴族だから実際の手続きは、少し時間がかかると思う。それに…」
アエルは瞳の奥の真剣さを隠さずに、リリアージュに言った。
「結婚するのなら、簡単に死ぬわけにはいかないから、いつまでも危険な仕事に就いてはいられない。騎士や護衛ではなく医者になるよ…もともと興味もあったから」
リリアージュはそれを聞き、アエルの進学の邪魔をした事を思い出した。
「卒業の時は…ごめんなさい!医学部の特待生が決まっていたのに、私が我が儘を言って……」
「いや、あなたの意見に従ったのではなく、あの時は自分から進学を取り止めた。あなたは子どもながらに魅力的だったし、そんなあなたにご両親は無関心で…あのまま私が出て行ったら危険がつきまとうと思ったから、あなたの側にいた」
そして、そっとリリアージュの頬に触れた。
「あなたが15歳になる頃には将来はあなたと一緒になれたら…と思い始めていたが、年の割に子どもすぎるあなたに何も言い出せず……動けなくなっていて」
アエルは一心不乱に自分を見つめるリリアージュの顔に、髪の毛がまとわりついている事に気が付いた。
無意識にそれを整えながら言葉を続ける。
「そんな時、あなたは髪を売り…。幼くてもいいから16歳になったら結婚しようと、急いで高給が貰える護衛の仕事で働き始めた矢先、あなたに振られ……」
アエルが話しているとナラの林に強い風が吹き、一瞬にしてリリアージュの白銀色の髪の毛が、繊細な銀糸を散らしたようにさっと広がり舞い上がった。
しばらくして風が治まり、長い髪の毛がゆっくりと優雅にリリアージュの肩に降りる。
「また伸びてよかった…。私は好きなんだ。あなたの髪が美しい顔の周りで揺れるのを見るのが…」
リリアージュはそう言われて、恥ずかしくなって顔を伏せた。
「今日はいつもより髪はぐちゃぐちゃだし…顔だって……汚い」
「下を向かれては顔が見えないが……まぁ…いい」
アエルはそう言うと、先ほどとは打って変わって真面目な口調で語りだした。
「あなたには、すぐに騎士を辞めてもらう…これが私との結婚の条件なのだが。奨学金の試験には受かるだろうし、私が王立医学部で医者の資格をとる間は、今までの私の貯金で暮らしてほしい」
「でも…私、あなたに学費を返していないし…騎士以外で稼ぐ方法を知らない……」
アエルはくすっと笑った。
「また、髪を売りに行ってしまいそうな勢いだな……。じゃあ、私と暮らして私の専属の騎士となって、家で綺麗な恰好をして私を守ってくれ」
「専属の……騎士?」
「ああ…。私が雇うから…そこからお金を返せ。きっと数年で払い終わる。つまり…どういう事かあなたは理解しているか?」
アエルの言葉に対して、リリアージュは神妙な顔で答えた。
「私は騎士になってまだ日が浅い。元護衛騎士団の隊長をやっていたあなたの護衛など、おこがましいにもほどがある…けれど一歩兵や盾としての利用価値はあると思う…」
リリアージュは意を決した様に、アエルに真剣な紫色の瞳を向けた。
「私、その仕事やるわ。全身全霊であなたを守る!」
アエルはふっと息を吐き、呟いた。
「……思った通り、理解していないな。料理の勉強でもしてろよ…。お子様……」
どんなにリリアージュが探っても、その瞳からは誠実さしか見つけられなかった。
それでも、リリアージュはアエルの言った言葉が信じられず聞き返した。
「…本当に?嘘ではなく?……では今日でも?!」
アエルは少し笑って、リリアージュを優しく見つめた。
「今日はもう役所が閉まっている。それと、あなたは子爵令嬢で貴族だから実際の手続きは、少し時間がかかると思う。それに…」
アエルは瞳の奥の真剣さを隠さずに、リリアージュに言った。
「結婚するのなら、簡単に死ぬわけにはいかないから、いつまでも危険な仕事に就いてはいられない。騎士や護衛ではなく医者になるよ…もともと興味もあったから」
リリアージュはそれを聞き、アエルの進学の邪魔をした事を思い出した。
「卒業の時は…ごめんなさい!医学部の特待生が決まっていたのに、私が我が儘を言って……」
「いや、あなたの意見に従ったのではなく、あの時は自分から進学を取り止めた。あなたは子どもながらに魅力的だったし、そんなあなたにご両親は無関心で…あのまま私が出て行ったら危険がつきまとうと思ったから、あなたの側にいた」
そして、そっとリリアージュの頬に触れた。
「あなたが15歳になる頃には将来はあなたと一緒になれたら…と思い始めていたが、年の割に子どもすぎるあなたに何も言い出せず……動けなくなっていて」
アエルは一心不乱に自分を見つめるリリアージュの顔に、髪の毛がまとわりついている事に気が付いた。
無意識にそれを整えながら言葉を続ける。
「そんな時、あなたは髪を売り…。幼くてもいいから16歳になったら結婚しようと、急いで高給が貰える護衛の仕事で働き始めた矢先、あなたに振られ……」
アエルが話しているとナラの林に強い風が吹き、一瞬にしてリリアージュの白銀色の髪の毛が、繊細な銀糸を散らしたようにさっと広がり舞い上がった。
しばらくして風が治まり、長い髪の毛がゆっくりと優雅にリリアージュの肩に降りる。
「また伸びてよかった…。私は好きなんだ。あなたの髪が美しい顔の周りで揺れるのを見るのが…」
リリアージュはそう言われて、恥ずかしくなって顔を伏せた。
「今日はいつもより髪はぐちゃぐちゃだし…顔だって……汚い」
「下を向かれては顔が見えないが……まぁ…いい」
アエルはそう言うと、先ほどとは打って変わって真面目な口調で語りだした。
「あなたには、すぐに騎士を辞めてもらう…これが私との結婚の条件なのだが。奨学金の試験には受かるだろうし、私が王立医学部で医者の資格をとる間は、今までの私の貯金で暮らしてほしい」
「でも…私、あなたに学費を返していないし…騎士以外で稼ぐ方法を知らない……」
アエルはくすっと笑った。
「また、髪を売りに行ってしまいそうな勢いだな……。じゃあ、私と暮らして私の専属の騎士となって、家で綺麗な恰好をして私を守ってくれ」
「専属の……騎士?」
「ああ…。私が雇うから…そこからお金を返せ。きっと数年で払い終わる。つまり…どういう事かあなたは理解しているか?」
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「私は騎士になってまだ日が浅い。元護衛騎士団の隊長をやっていたあなたの護衛など、おこがましいにもほどがある…けれど一歩兵や盾としての利用価値はあると思う…」
リリアージュは意を決した様に、アエルに真剣な紫色の瞳を向けた。
「私、その仕事やるわ。全身全霊であなたを守る!」
アエルはふっと息を吐き、呟いた。
「……思った通り、理解していないな。料理の勉強でもしてろよ…。お子様……」
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