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26 戦闘部隊の騎士 セルジオに捕まる……。

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1日の仕事を終え、疲れ果てていたリリアージュは、更に運悪く先輩騎士のセルジオに声をかけられた。

セルジオは近衛部隊ではなかったが、入って1か月の見習い中は色々な部門を渡り歩く為、戦闘部隊に配属された時にリリアージュの上官になった男だった。

リリアージュはその際、厳しく指導を受けた。
目立つ容姿のリリアージュに対して特別扱いせず、普通に接してくれたのは彼だけだった。

無骨な外見の割に根は案外優しいが、剣術に対しては妥協を許さない男だった。

「リリアージュ、近衛は暇だろう…。戦闘部隊はいつでもお前を歓迎するから、近衛に飽きたら志願しろ…。体がなまっているだろうから、手合わせに付き合ってやる」

そう言われ、リリアージュは剣術の稽古場にずるずると引きずられて行った。
そして、一時間ほど剣の立ち合いさせられる…。

思いのほか気分はすっきりしたが、かつてないほど汗にまみれてギタギタになった姿に、リリアージュは自分でも薄く引いていた…。

セルジオと別れた後、窓ガラスに映った山賊のような姿の自分に愕然とした……。
かつて氷の美女と謳われた片鱗がそこにはなかった。

マントは片側がはずれ、いつのまにかずるずると引きずっていた。
頭の高いところで一つに束ねていた髪も、みっともなく垂れ下がりあちこちから髪が飛び出していて、かろうじて髪紐がくっついているという有様だった。

リリアージュは、寮に着いたらすぐに髪を洗おうと乱暴に髪紐をはずし、変な跡のついた長い銀髪をばさりとおろした。

早く寮に帰って身を清めねば、女性としての価値を見失う…と本気で思った。
誰にも会いませんように…と歩き出したリリアージュの背中で、毎日思い返している愛しい人の声が響く。

「──リリアージュ?!本当に騎士になったのか?王宮医になるのでは……」

振り向かなくても分かった……。
なぜ、今なのだろう…。

脂汗が背中を伝う。

近衛は美しさも求められるから、普段はいつももっと綺麗にしていた。
上官からは髪型の指示も受けていて、長い髪は高い所できちんと結び、少しの乱れもなくいつもさらさらとなびかせていた。

いつアエルと会ってもよかった……でも…今は…。

リリアージュは振り向かずに走り出した。
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