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22 公爵邸にて
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公爵邸に着いたリリアージュは、侍女にドレスを脱がせてもらった。
そして一段落するとアエルに言われた通り、目の周りを布で包んだ氷で冷やしながらレオルドの帰りを待っていた。
レオルドの両親は別邸へ出かけていて不在という事もあり、使用人が寝てしまった広い公爵邸は、しんと静まり返っていた。
リリアージュはレオルドの部屋の長椅子で、知らないうちに寝てしまっていた。
帰宅したレオルドが、耳元に甘噛みのような強めのキスをした事により、リリアージュは浅い眠りから起こされる。
リリアージュは片足半分まだ夢の中につっこんだまま、ほほ笑んだ。
「…お帰りなさい。晩餐会はどうだった…豪華だった?」
レオルドはリリアージュの耳から唇を離すと鋭く見つめ一言、言った。
「この約束破りが……」
いつもと調子が違い、少し顔が赤くなっているレオルドをリリアージュは心配げに見た。
「………お酒飲んだの?」
「……食前酒だけだよ。あんなので、酔っぱらう奴いないだろ。確かに俺は酒に強くないが…」
クスリと笑ったリリアージュは、ゆっくりと起き上がって言った。
「お水、持ってきてあげる。ここの調理場って地下にあるのね。氷を取ってくる時に知ったんだけど…」
「リリアージュ。なんで、俺との約束を破った?アエルと抱き合っていたって…見た奴から聞かされた。屈辱だったよ。俺は今までお前との約束を忠実に守ってきたんだぞ…」
リリアージュの顔が、さっと青くなった。
「見られていたなんて……恥をかかせてごめんなさい!ちゃんとあなたの自慢の彼女を演じる予定だったのに…。どうしよう、尻軽と付き合っていると噂されたらあなた…」
リリアージュは思わず立ち上がって、深刻な顔でレオルドを見た。
「……微妙にニュアンスが違う。俺が怒ってるのは純粋にお前が他の男に体を触れさせた事。しかも相手はアエル…」
「ニュアンス?…そうだ私、レオルドに言わなきゃいけない事がある。今日アエルと会って、2年前に別れを告げた理由を伝えてそれで……私」
その言葉を聞き、レオルドの顔から余裕が消える。
「──言うな。言わなくてもお前の言いたい事は分かる。馬鹿じゃないから。ただ、それを言う前によく考えろ」
立っているリリアージュの手をレオルドは掴んだ。
レオルドの手は氷のように冷えていた。
その手からは、怖いほどの真剣さがリリアージュに伝わってくる。
「あいつと一緒になっても俺ほど、贅沢はさせてもらえないぞ…」
リリアージュは小さく頷いた。
「あいつは…優しいかもしれないけど、計算高く立ち回れないからこの先の出世は見込めない。」
うんうんと、素直に頷くリリアージュに苛立ちを覚えながら、レオルドは更に畳み掛ける。
「玉石混淆の護衛達の中で働き始め、異例の出世をし、騎士の称号も得て護衛騎士団の隊長にまで上りつめたのに、急に末端の第5皇女の付き人に成り下がった男として王宮でも有名だったぞ…」
第5皇女と聞き、初めてリリアージュの瞳に光が宿る。
やっと心が動いたのが、レオルドには分かった。
「臨時で第5皇女の護衛をした時、気に入られて自分の付き人になれと駄々をこねられ、あっさり出世ルートから退いたんだと。馬鹿だろ…あいつ」
それを聞き、なぜアエルがアイリス姫の付き人をやっているのか理解したリリアージュはクスクスと笑った。
「私も以前、駄々をこねてアエルを自分のそばに置いたから…」
「……なぜ笑っていられる?俺は怒っているんだぞ?」
アエルはリリアージュを睨みつけると、長椅子に乱暴に押し倒した。
「卒業までは俺の恋人役をやると言ったのに、破ったのならば違約金が発生する…。違約金はお前の体で払え。一晩でいい…。そしたらお前の言う通りにする」
そして一段落するとアエルに言われた通り、目の周りを布で包んだ氷で冷やしながらレオルドの帰りを待っていた。
レオルドの両親は別邸へ出かけていて不在という事もあり、使用人が寝てしまった広い公爵邸は、しんと静まり返っていた。
リリアージュはレオルドの部屋の長椅子で、知らないうちに寝てしまっていた。
帰宅したレオルドが、耳元に甘噛みのような強めのキスをした事により、リリアージュは浅い眠りから起こされる。
リリアージュは片足半分まだ夢の中につっこんだまま、ほほ笑んだ。
「…お帰りなさい。晩餐会はどうだった…豪華だった?」
レオルドはリリアージュの耳から唇を離すと鋭く見つめ一言、言った。
「この約束破りが……」
いつもと調子が違い、少し顔が赤くなっているレオルドをリリアージュは心配げに見た。
「………お酒飲んだの?」
「……食前酒だけだよ。あんなので、酔っぱらう奴いないだろ。確かに俺は酒に強くないが…」
クスリと笑ったリリアージュは、ゆっくりと起き上がって言った。
「お水、持ってきてあげる。ここの調理場って地下にあるのね。氷を取ってくる時に知ったんだけど…」
「リリアージュ。なんで、俺との約束を破った?アエルと抱き合っていたって…見た奴から聞かされた。屈辱だったよ。俺は今までお前との約束を忠実に守ってきたんだぞ…」
リリアージュの顔が、さっと青くなった。
「見られていたなんて……恥をかかせてごめんなさい!ちゃんとあなたの自慢の彼女を演じる予定だったのに…。どうしよう、尻軽と付き合っていると噂されたらあなた…」
リリアージュは思わず立ち上がって、深刻な顔でレオルドを見た。
「……微妙にニュアンスが違う。俺が怒ってるのは純粋にお前が他の男に体を触れさせた事。しかも相手はアエル…」
「ニュアンス?…そうだ私、レオルドに言わなきゃいけない事がある。今日アエルと会って、2年前に別れを告げた理由を伝えてそれで……私」
その言葉を聞き、レオルドの顔から余裕が消える。
「──言うな。言わなくてもお前の言いたい事は分かる。馬鹿じゃないから。ただ、それを言う前によく考えろ」
立っているリリアージュの手をレオルドは掴んだ。
レオルドの手は氷のように冷えていた。
その手からは、怖いほどの真剣さがリリアージュに伝わってくる。
「あいつと一緒になっても俺ほど、贅沢はさせてもらえないぞ…」
リリアージュは小さく頷いた。
「あいつは…優しいかもしれないけど、計算高く立ち回れないからこの先の出世は見込めない。」
うんうんと、素直に頷くリリアージュに苛立ちを覚えながら、レオルドは更に畳み掛ける。
「玉石混淆の護衛達の中で働き始め、異例の出世をし、騎士の称号も得て護衛騎士団の隊長にまで上りつめたのに、急に末端の第5皇女の付き人に成り下がった男として王宮でも有名だったぞ…」
第5皇女と聞き、初めてリリアージュの瞳に光が宿る。
やっと心が動いたのが、レオルドには分かった。
「臨時で第5皇女の護衛をした時、気に入られて自分の付き人になれと駄々をこねられ、あっさり出世ルートから退いたんだと。馬鹿だろ…あいつ」
それを聞き、なぜアエルがアイリス姫の付き人をやっているのか理解したリリアージュはクスクスと笑った。
「私も以前、駄々をこねてアエルを自分のそばに置いたから…」
「……なぜ笑っていられる?俺は怒っているんだぞ?」
アエルはリリアージュを睨みつけると、長椅子に乱暴に押し倒した。
「卒業までは俺の恋人役をやると言ったのに、破ったのならば違約金が発生する…。違約金はお前の体で払え。一晩でいい…。そしたらお前の言う通りにする」
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