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43 休眠
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王宮の地下牢には三人が倒れていた…。
湿気も多く、どこから染み出ているのだか分からない汚水があちらこちらに水たまりを作っている。
ネズミの鳴き声と、時折天井から落ちてくるピチャン…という水音だけが、不気味に響いていた…。
拷問の時に付いたのか、囚人が付けたのだか分からない汚れも、いたるところにこびり付いている…。
そんな地獄絵図が広がる場所に、一人の青年が瞬間移動でフッとやって来た。
「おーい、シャルリンテ、ショールを忘れ…」
その黒髪で浅黒い肌の青年の手には、金色のショールが握られていた…。
その青年はダートだった。
ダートは、シャルリンテを追った先が地下牢だとすぐに気がつき、驚愕した。
ダートは動揺しながらも、すばやく頭を回転させる。
──そういえば、急に現れた金髪女が、地下牢…と言っていたかもしれない…と。
けたたましく風のように来て、風のように去って行った女の話は、正直はっきり聞き取れてはいなかった…。
周りを見渡すと、女だと思っていたスーが半裸になり、完全な男の体で、シャルリと共に重なるように横たわっているのが目に入った。
そして足元には、虫の息でかろうじて呼吸をしている、先ほどの金髪の女が俯せで倒れている…。
ひとまず、意識のありそうな金髪女から話を聞こうと、ダートは身を屈めた。
その瞬間、兵士が地下牢になだれ込んで来た。
驚いて立ち上がったダートの左胸を、兵の放った一本の弓矢が貫通する…。
「嘘…だ…ろう…」
ダートは、地下牢に着いて、一分たらずで自分が死に瀕している事に衝撃を受けた。
急いで、治癒魔法を自分にかけながら、倒れている三人と自分を守るシールドを張る。
「…くそ……。こんな状況じゃ…シールドを張るだけで何もできない…」
ダートはシールドの外の飛び交う弓矢を見ながら、その場にずるり…と座り込んだ。
クースリューは青ざめた顔で、必死に手を伸ばしダートに何かを訴えていた。
それに気がついたダートは、クースリューに顔を近づける。
「…何?」
「…わたくし…もう…意識が飛ぶ……消えてしまう…。一人なら遠くに飛ばせる…。だからあなた…シャルリンテを遠くに飛ばして…。二人一緒がいいはずだけど…多分無理…。場所なんて、定められる力…残っていない…」
「…消えるって、休眠に入るって事か…?」
自分の魔力の限界点を超えてしまった、最高位の魔力の持ち主に残された道は、一つしかなかった。
──休眠だ。
それは最高位の魔力の持ち主にのみ、起こる現象だった。
そもそも限界点を超えた魔力を使った時点で、並みの魔術師では生きてはいられない。
一度休眠に入ってしまえば、魔力が満ちて覚醒するまで、体は消えたまま本人の時間だけが止まる。
次に目が覚めるのは、数年後なのか数十年後なのかは、分からなかった…。
「…待てよ…。俺だってこう見えて瀕死なんだぜ…。一人を瞬間移動させたら…俺も休眠だ…」
「道連れにして…ごめん…」
もう目を開けていられなくなったクースリューは、一筋の涙を流し、金色の瞳をゆっくり閉じた…。
それを見て、ダートはため息をついた。
「……分かったよ…。俺は自分以外で金色の瞳の奴…初めて見たし…。まぁ、何かの縁か…。どのタイミングで目覚めるのかは知らないが、覚醒したらお前を捜してみるよ…。一つ貸しだから、その時はお茶ぐらい付き合えよ…。クースリューっていうんだろう?俺は、ダート…」
「ダート…ね。分かった…お茶しよ…。わたくしは…ジャナル様…飛ばす…。あなた…シャルリンテ…飛ばして…」
ダートは、くすっと笑った。
「…俺の知っている名前と…二人は違うが…。込み入った事情ってやつか?…まるでここは戦場だし…。じゃあ、俺は茶色の長い髪のシャルリンテの方を、飛ばす…。またな…クースリュー」
「うん…。ありがとう…ダート」
二人は、スーリとシャルリンテを、一番遠くまで瞬間移動させた。
そして、二人の体もすぐに休眠に入り、一瞬で消える…。
それと共にシールドもさっと消え、地下牢には、大量の弓矢と兵士のみが残された…。
湿気も多く、どこから染み出ているのだか分からない汚水があちらこちらに水たまりを作っている。
ネズミの鳴き声と、時折天井から落ちてくるピチャン…という水音だけが、不気味に響いていた…。
拷問の時に付いたのか、囚人が付けたのだか分からない汚れも、いたるところにこびり付いている…。
そんな地獄絵図が広がる場所に、一人の青年が瞬間移動でフッとやって来た。
「おーい、シャルリンテ、ショールを忘れ…」
その黒髪で浅黒い肌の青年の手には、金色のショールが握られていた…。
その青年はダートだった。
ダートは、シャルリンテを追った先が地下牢だとすぐに気がつき、驚愕した。
ダートは動揺しながらも、すばやく頭を回転させる。
──そういえば、急に現れた金髪女が、地下牢…と言っていたかもしれない…と。
けたたましく風のように来て、風のように去って行った女の話は、正直はっきり聞き取れてはいなかった…。
周りを見渡すと、女だと思っていたスーが半裸になり、完全な男の体で、シャルリと共に重なるように横たわっているのが目に入った。
そして足元には、虫の息でかろうじて呼吸をしている、先ほどの金髪の女が俯せで倒れている…。
ひとまず、意識のありそうな金髪女から話を聞こうと、ダートは身を屈めた。
その瞬間、兵士が地下牢になだれ込んで来た。
驚いて立ち上がったダートの左胸を、兵の放った一本の弓矢が貫通する…。
「嘘…だ…ろう…」
ダートは、地下牢に着いて、一分たらずで自分が死に瀕している事に衝撃を受けた。
急いで、治癒魔法を自分にかけながら、倒れている三人と自分を守るシールドを張る。
「…くそ……。こんな状況じゃ…シールドを張るだけで何もできない…」
ダートはシールドの外の飛び交う弓矢を見ながら、その場にずるり…と座り込んだ。
クースリューは青ざめた顔で、必死に手を伸ばしダートに何かを訴えていた。
それに気がついたダートは、クースリューに顔を近づける。
「…何?」
「…わたくし…もう…意識が飛ぶ……消えてしまう…。一人なら遠くに飛ばせる…。だからあなた…シャルリンテを遠くに飛ばして…。二人一緒がいいはずだけど…多分無理…。場所なんて、定められる力…残っていない…」
「…消えるって、休眠に入るって事か…?」
自分の魔力の限界点を超えてしまった、最高位の魔力の持ち主に残された道は、一つしかなかった。
──休眠だ。
それは最高位の魔力の持ち主にのみ、起こる現象だった。
そもそも限界点を超えた魔力を使った時点で、並みの魔術師では生きてはいられない。
一度休眠に入ってしまえば、魔力が満ちて覚醒するまで、体は消えたまま本人の時間だけが止まる。
次に目が覚めるのは、数年後なのか数十年後なのかは、分からなかった…。
「…待てよ…。俺だってこう見えて瀕死なんだぜ…。一人を瞬間移動させたら…俺も休眠だ…」
「道連れにして…ごめん…」
もう目を開けていられなくなったクースリューは、一筋の涙を流し、金色の瞳をゆっくり閉じた…。
それを見て、ダートはため息をついた。
「……分かったよ…。俺は自分以外で金色の瞳の奴…初めて見たし…。まぁ、何かの縁か…。どのタイミングで目覚めるのかは知らないが、覚醒したらお前を捜してみるよ…。一つ貸しだから、その時はお茶ぐらい付き合えよ…。クースリューっていうんだろう?俺は、ダート…」
「ダート…ね。分かった…お茶しよ…。わたくしは…ジャナル様…飛ばす…。あなた…シャルリンテ…飛ばして…」
ダートは、くすっと笑った。
「…俺の知っている名前と…二人は違うが…。込み入った事情ってやつか?…まるでここは戦場だし…。じゃあ、俺は茶色の長い髪のシャルリンテの方を、飛ばす…。またな…クースリュー」
「うん…。ありがとう…ダート」
二人は、スーリとシャルリンテを、一番遠くまで瞬間移動させた。
そして、二人の体もすぐに休眠に入り、一瞬で消える…。
それと共にシールドもさっと消え、地下牢には、大量の弓矢と兵士のみが残された…。
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