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19 辺境の街
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シャルリンテとスーリは、山を下りサシュナとの国境付近の小さな街に来ていた。
この辺りで、街という街はここだけらしく、山に囲まれている割には栄えている。
おいしそうな飲食店もずらりと並び、もう少し離れた場所には宿屋もありそうだった。
段々と、活気に満ちてくるにつれ、シャルリンテの気分も上がっていった。
スーリを怒っていた気持ちも薄れ始める…。
そもそも、街を自由に歩く事自体、シャルリンテにとっては、初めてだった。
王女だった時は、せいぜい馬車で通り過ぎるだけ…。
シャルリンテの目を奪ったのは、勿論、店の軒先に並んでいる食べ物だった。
色とりどりのチョコレートでコーティングされたドーナツ、串刺しの焼いたお肉…。
食べ物を熱心に見ていたシャルリンテは、お店の奥の厨房に料理人とは別に魔術師らしき者が立っている事に、気がついた。
「──なぜ、あの者はあそこに立っているの?」
スーリは小さく「ああっ…」と呟くと説明を始めた。
「火起こし人…ですね。この辺りは王都のように、魔力を溜めておいて、ボタン一つで火をつけるというシステムはないんです。だから、火を起こせる魔術師を、いちいち雇っているんです…。そもそも、魔力自体持っていない者も、田舎では…決して珍しくないんですよ?」
「…私は、本当に何も知らないのね。あなたは他国の者なのに、博識ね…」
「いえ…、一応、王になる予定でしたので…自国の事も、他国の事も一通り、教わりましたし…。あなたは、学ばなかったので…」
「うるさいわね!私は勉強をさぼったし、父王も甘かった…」
シャルリンテは、人々が行列を作っている先にある、白い建物を指差して聞いた。
「……あれは、何で並んでいるの?」
「ああ…あれは治癒能力者が、病気や怪我を治している場所です。かなり遠方からも人が集まるから、混んでいますね…。治癒魔法が使える魔術師は稀有で、滅多にいないので。私もその能力はないです。その分、費用も高額だから、大抵の人は薬草か祈祷に頼らざるを得ない…」
「──!!そうなの?!私、使えてよ?!一番得意…かもしれない!」
「ええ…知っています。無駄に、あなたは色々な能力を使えた…」
シャルリンテは嫌味っぽいスーリの言葉を、へっと聞き流すと、熱っぽい口調で語り出した。
「闘剣技大会には、いつも医療班に紛れ込んで……オルグ騎士隊長が怪我しないかな~って待っていたの、あなた知ってるでしょ?実際には、他の騎士を、治癒しただけなんだけど…。そこで騎士達の話も盗み聞き出来たし…忙しかったけど、楽しかったわ…」
「私は横で、いつも胃が痛かった…」
スーリは当時を思い出したのか、嫌そうに眉間に皺をよせた。
「──シャルリンテ王女?!」
ふいにそう呼ばれ、スーリとシャルリンテは声の主のする方へ、同時に体を向けた。
「おっと…王女はまずいか…。ご無事で…いらっしゃったんですね…!よかった!スーリ様もご一緒で…」
そこに立っていたのは、シュッとした長身の男だった。
その男の顔だちは美しく、金髪碧眼でどこまでも爽やかな印象を与える。
文武両道そうな気品の溢れる様は、明らかにこの辺境の田舎街では浮いていた。
「オルグ騎士隊長…あなたこそご無事で?」
シャルリンテは驚いて、その男に言葉を返した。
この辺りで、街という街はここだけらしく、山に囲まれている割には栄えている。
おいしそうな飲食店もずらりと並び、もう少し離れた場所には宿屋もありそうだった。
段々と、活気に満ちてくるにつれ、シャルリンテの気分も上がっていった。
スーリを怒っていた気持ちも薄れ始める…。
そもそも、街を自由に歩く事自体、シャルリンテにとっては、初めてだった。
王女だった時は、せいぜい馬車で通り過ぎるだけ…。
シャルリンテの目を奪ったのは、勿論、店の軒先に並んでいる食べ物だった。
色とりどりのチョコレートでコーティングされたドーナツ、串刺しの焼いたお肉…。
食べ物を熱心に見ていたシャルリンテは、お店の奥の厨房に料理人とは別に魔術師らしき者が立っている事に、気がついた。
「──なぜ、あの者はあそこに立っているの?」
スーリは小さく「ああっ…」と呟くと説明を始めた。
「火起こし人…ですね。この辺りは王都のように、魔力を溜めておいて、ボタン一つで火をつけるというシステムはないんです。だから、火を起こせる魔術師を、いちいち雇っているんです…。そもそも、魔力自体持っていない者も、田舎では…決して珍しくないんですよ?」
「…私は、本当に何も知らないのね。あなたは他国の者なのに、博識ね…」
「いえ…、一応、王になる予定でしたので…自国の事も、他国の事も一通り、教わりましたし…。あなたは、学ばなかったので…」
「うるさいわね!私は勉強をさぼったし、父王も甘かった…」
シャルリンテは、人々が行列を作っている先にある、白い建物を指差して聞いた。
「……あれは、何で並んでいるの?」
「ああ…あれは治癒能力者が、病気や怪我を治している場所です。かなり遠方からも人が集まるから、混んでいますね…。治癒魔法が使える魔術師は稀有で、滅多にいないので。私もその能力はないです。その分、費用も高額だから、大抵の人は薬草か祈祷に頼らざるを得ない…」
「──!!そうなの?!私、使えてよ?!一番得意…かもしれない!」
「ええ…知っています。無駄に、あなたは色々な能力を使えた…」
シャルリンテは嫌味っぽいスーリの言葉を、へっと聞き流すと、熱っぽい口調で語り出した。
「闘剣技大会には、いつも医療班に紛れ込んで……オルグ騎士隊長が怪我しないかな~って待っていたの、あなた知ってるでしょ?実際には、他の騎士を、治癒しただけなんだけど…。そこで騎士達の話も盗み聞き出来たし…忙しかったけど、楽しかったわ…」
「私は横で、いつも胃が痛かった…」
スーリは当時を思い出したのか、嫌そうに眉間に皺をよせた。
「──シャルリンテ王女?!」
ふいにそう呼ばれ、スーリとシャルリンテは声の主のする方へ、同時に体を向けた。
「おっと…王女はまずいか…。ご無事で…いらっしゃったんですね…!よかった!スーリ様もご一緒で…」
そこに立っていたのは、シュッとした長身の男だった。
その男の顔だちは美しく、金髪碧眼でどこまでも爽やかな印象を与える。
文武両道そうな気品の溢れる様は、明らかにこの辺境の田舎街では浮いていた。
「オルグ騎士隊長…あなたこそご無事で?」
シャルリンテは驚いて、その男に言葉を返した。
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