上 下
15 / 46

15 キスの研究

しおりを挟む
スーリは、クースリューの耳に顔を近づけて言った。

「ねぇ…クースリュー、もうお互いに婚約というものに縛られず、自由に生きてもいいのでは…」

耳元に、スーリの息が触れクースリューは明らかに動揺していた。

「…騙され…ないわ…。ジャナル様が甘く囁く時は裏がある…。そもそも婚姻石こんいんせきを入れてもらったら、お互いの頭の中で会話できるはずですのに、五年前入れられてから、私が問いかけても雑な返答しかいただけなかった。問いかけられた事もない…」

「…その代わり…沢山…キスしましたよね?あなたと…私で……」

そう言ってスーリは誘惑するように、クースリューの顎にそっと手を添える。

そして二人は再び、キスを始めた。

それを見ていたシャルリンテの胸には、鋭い痛みが走った…。

なぜ、二人を見て胸が苦しいのか分からなかった。

ただ、昨夜まで自分にされていたそのキスが、今は他の女のものだと思うと切なかった…。


唇を離したクースリューは、とろんとした顔で言った。

「…ずるいわ…。いつも…ジャナル様は、色々な事…キスでうやむやにして…どうしてそんなに、キスが上手なの…」

「あなたを大人しくさせるのは…キスしか方法がない事に気がついて…それから、色んな女とキスして研究しましたし…」

それを聞いたクースリューの体は、瞬時に発光する。

そして、自分の髪の毛をすばやくスーリの首に巻きつけた。

「あなた、今なんとおっしゃったの…?浮気…していたという事?」

首を髪で絞められながら、苦し気にスーリは言った。

「…口…滑らせてしまったな…なんで…私の周りには…気の強い…女ばかりっ…」

「だいたいね、女装までして三年間も…あんな王女に仕える必要など…なかったじゃない。わたくしを呼べば一瞬で…」

そう言っていて、クースリューはハッと何かに気づき、言葉を詰まらせた。

「…まさか魔力を封印したのは、わたくしをカリストに来させたくなかったから?……あの王女に、危害を加えるとでも思ったの…?それって…」

「違う…クースリュー」

スーリは言葉を遮り、クースリューにその先を言わせなかった。

「…私はシャルリンテ様の事を…愛していない。でも…あなたの事は尊敬しているし…大切に思って…いる…」

シャルリンテは、首を絞められているスーリを見て、ハラハラしていたが、愛していないと再び聞かされ、気分は落ち込んでいった。

クースリューは、ふっと魔力を緩めた。

「お上手だ事…。なら、命だけは、助けてさしあげる。…けど、気を失ってしまって?」

くすりと笑うと、自分の髪の毛を首からヒュッっと抜いた。

その拍子に、意識のないスーリは力なく膝から崩れ落ちる。

それを見て、シャルリンテは思わずスーリの元へ駆け寄った。

急いで助け起こそうとしたが、スーリの意識がなくなっている事にシャルリンテは焦り、動かしていいものかどうかと、逡巡しゅんじゅんする。

どうしたらいいか分からないシャルリンテは、半泣きになりながら、スーリの呼吸を確認した。

とりあえず、息をしている事が分かったシャルリンテはホッとため息をつく。

シャルリンテは、こんな事をしたクースリューに、ふつふつと怒りが湧くのを抑えられなかった。

キッと、クースリューを見上げると、涙の滲んだ瞳で睨みつける。

「…あなた、酷いわ!気を失うまで、首を絞めるだなんて…!」

クースリューは、鼻先でふんと笑った。

「──本当の事を知っても、あなたそんな事、言えて?」

「?」

「ジャナル様は、綺麗な顔の裏でなかなか酷い事をなさるのよ…?」

「…どういう事?」

「嘘なんですのよ…うっそ!サシュナに入国したとたん、あなた、待ち構えているサシュナ軍に売られましてよ?」


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】それぞれの贖罪

夢見 歩
恋愛
タグにネタバレがありますが、 作品への先入観を無くすために あらすじは書きません。 頭を空っぽにしてから 読んで頂けると嬉しいです。

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

貴妃エレーナ

無味無臭(不定期更新)
恋愛
「君は、私のことを恨んでいるか?」 後宮で暮らして数十年の月日が流れたある日のこと。国王ローレンスから突然そう聞かれた貴妃エレーナは戸惑ったように答えた。 「急に、どうされたのですか?」 「…分かるだろう、はぐらかさないでくれ。」 「恨んでなどいませんよ。あれは遠い昔のことですから。」 そう言われて、私は今まで蓋をしていた記憶を辿った。 どうやら彼は、若かりし頃に私とあの人の仲を引き裂いてしまったことを今も悔やんでいるらしい。 けれど、もう安心してほしい。 私は既に、今世ではあの人と縁がなかったんだと諦めている。 だから… 「陛下…!大変です、内乱が…」 え…? ーーーーーーーーーーーーー ここは、どこ? さっきまで内乱が… 「エレーナ?」 陛下…? でも若いわ。 バッと自分の顔を触る。 するとそこにはハリもあってモチモチとした、まるで若い頃の私の肌があった。 懐かしい空間と若い肌…まさか私、昔の時代に戻ったの?!

五歳の時から、側にいた

田尾風香
恋愛
五歳。グレースは初めて国王の長男のグリフィンと出会った。 それからというもの、お互いにいがみ合いながらもグレースはグリフィンの側にいた。十六歳に婚約し、十九歳で結婚した。 グリフィンは、初めてグレースと会ってからずっとその姿を追い続けた。十九歳で結婚し、三十二歳で亡くして初めて、グリフィンはグレースへの想いに気付く。 前編グレース視点、後編グリフィン視点です。全二話。後編は来週木曜31日に投稿します。

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

もう一度だけ。

しらす
恋愛
私の一番の願いは、貴方の幸せ。 最期に、うまく笑えたかな。 **タグご注意下さい。 ***ギャグが上手く書けなくてシリアスを書きたくなったので書きました。 ****ありきたりなお話です。 *****小説家になろう様にても掲載しています。

最悪なお見合いと、執念の再会

当麻月菜
恋愛
伯爵令嬢のリシャーナ・エデュスは学生時代に、隣国の第七王子ガルドシア・フェ・エデュアーレから告白された。 しかし彼は留学期間限定の火遊び相手を求めていただけ。つまり、真剣に悩んだあの頃の自分は黒歴史。抹消したい過去だった。 それから一年後。リシャーナはお見合いをすることになった。 相手はエルディック・アラド。侯爵家の嫡男であり、かつてリシャーナに告白をしたクズ王子のお目付け役で、黒歴史を知るただ一人の人。 最低最悪なお見合い。でも、もう片方は執念の再会ーーの始まり始まり。

さよなら 大好きな人

小夏 礼
恋愛
女神の娘かもしれない紫の瞳を持つアーリアは、第2王子の婚約者だった。 政略結婚だが、それでもアーリアは第2王子のことが好きだった。 彼にふさわしい女性になるために努力するほど。 しかし、アーリアのそんな気持ちは、 ある日、第2王子によって踏み躙られることになる…… ※本編は悲恋です。 ※裏話や番外編を読むと本編のイメージが変わりますので、悲恋のままが良い方はご注意ください。 ※本編2(+0.5)、裏話1、番外編2の計5(+0.5)話です。

処理中です...