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File1 自覚無き殺人犯
第七話 仕掛けます
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警視庁から二十分かけ、九.四キロメートル先にある東京都新宿区西新宿七丁目のオフィスビル、川嶋医科器械株式会社に到着した。
ここは服部和毅の勤務先だ。
会社の側にある駐車場に車を止め、USBロボットを持ってビルへ入った。
正直、ロボット丸出しで持ってくのは恥ずかしいし、使う直前まで鞄にしまっておきたいのは山々だが、久しぶりに外の景色を見る椿先輩に少しでも気分転換になればと思い、羞恥心を押し殺すことにした。
「すみません。警視庁特殊捜査官の高良正人と申します。服部和毅さんはいらっしゃいますか?」
と俺は警察手帳を開けて見せた。
「少々お待ち下さい」
と女性職員が席を立った。
俺の手に持ったUSBロボットにチラリと目をやりながら。
"警視庁特殊捜査官"と"警視庁雑務部雑務総務課"は呼び方は違えど、同一の意味を示している。
うちの部署はドラマや新聞で取り上げられることはあまりないので、部署の存在自体あまり知られていない。だから外では特殊捜査官と名乗ったほうが通りやすいので、これが一般的なのだという。特殊捜査官と特別捜査官を同一と捉える人が多いから通りやすいというのが理由のひとつだ。
「こんにちは。服部和毅と申します。何かご用でしょうか?」
第一印象は、ピシッとスーツを着こなした真面目な会社員といった感じだ。
だが、よく見れば髪はやや茶色に染めており、少し遊ばせている。近くに来て気がついたが、香水の匂いもする。チャラ男の雰囲気を醸し出していた。
「警視庁特殊捜査官の高良正人と申します。事前連絡も入れず申し訳ありません。今回の事件の裏付けを取るために貴方のパソコンを十分程度お借りできないかと思いまして……すみませんが、ご協力頂けませんでしょうか?」
事前連絡を入れなかったのは、相手に考える猶予を与えないためだ。
「いいですよ」
思いの外、快く承諾してくれた。
職員の集まる場を離れ、誰もいない個室に案内され、パソコンを手渡された。
「すみません。奥さんを亡くされたばかりでお辛いでしょうに……証拠は揃ってはいるんですが、念のため共犯者がいないかも調べないといけないもので……」
と申し訳なさそうに眉を下げながら俺は言った。
「いえいえ、全然大丈夫ですよ。妻とは離婚協議中でしたし、仲も冷え切っていましたから思ったよりはダメージないんですよね。それに、警察は疑うのが仕事でしょう」
「そうですか、ご協力感謝致します」
自分の奥さんが殺されてからまだたったの一週間なのに……。
冷え切っていても、一応身内が殺されたら怯えたり冷静さを失ってもおかしくないのに、本当に他人事のようだ。
パソコンを立ち上げ、USBを差し込む。
「あの……変わったUSBですね」
「あ、ははははは……うちの先輩の趣味でして……」
本当、恥ずかしい。
もう少しかっこいいのに改良して欲しい、マジで。
「ところで、加藤はどうしてますか? 同僚なので心配で」
やっぱり気になるよな、捜査状況。
俺は顔には出さず、心の内でほそく笑んだ。
「捜査中で守秘義務もあるのであまり話しちゃいけないんですが、結構憔悴していますね。はじめて人を殺したということもあって、恐らくまだ混乱してるんでしょう。でも、それも時間の問題だと思います。証拠は十分に揃っていますし、加藤が犯人だと確信しています」
「そうですか、残念です。アイツ、凄く真面目で上司からも高く評価されてたのに」
涙こそ浮かべはしないものの、消え入るような声で服部が言った。
「傷が癒えるには時間が解決してくれるのを待つしかないでしょう。大変でしょうが、貴方が立ち直れることを祈っています。気の利いた言葉をかけられなくて申し訳ありません。ご協力、有難う御座いました」
作業が終わり、パソコンを閉じて服部に頭を下げながら返す。
「いえいえ、お気遣い頂き有難う御座います」
服部が俺の横を通り過ぎた瞬間、
「あの?」
俺は服部の肩に触れた。
「すみません、糸くずが……」
と摘んだ糸くずを見せた後、捨てた。
「あぁ、有難う御座います」
そして俺は、いや俺たちは車に戻った。
「いやぁ~後輩、キミ本物の刑事みたいだったね。結構サマになってタヨ#/$€%」
「ははは……でもかなり緊張しましたよ? 俺いま汗ビッショリですよ……ってか、大丈夫でしたか?俺」
「ぜーんぜん大丈夫だったヨ! 演技も身のこなしもスマートだった。あの感じなら疑われてもないだろうネ! 寧ろ及第点以上の働きぶりだったヨ#/$€%」
「ハァ、とりあえずその言葉を聞けて安心しました」
俺はハンドルに顔を押し付けた。
「安心すんのはまだ早いぞ後輩。まだまだ重要な仕事は残ってル#/$€%」
「了解です!」
俺は額に浮かんだ汗を袖で拭い、車を発進させた。
ここは服部和毅の勤務先だ。
会社の側にある駐車場に車を止め、USBロボットを持ってビルへ入った。
正直、ロボット丸出しで持ってくのは恥ずかしいし、使う直前まで鞄にしまっておきたいのは山々だが、久しぶりに外の景色を見る椿先輩に少しでも気分転換になればと思い、羞恥心を押し殺すことにした。
「すみません。警視庁特殊捜査官の高良正人と申します。服部和毅さんはいらっしゃいますか?」
と俺は警察手帳を開けて見せた。
「少々お待ち下さい」
と女性職員が席を立った。
俺の手に持ったUSBロボットにチラリと目をやりながら。
"警視庁特殊捜査官"と"警視庁雑務部雑務総務課"は呼び方は違えど、同一の意味を示している。
うちの部署はドラマや新聞で取り上げられることはあまりないので、部署の存在自体あまり知られていない。だから外では特殊捜査官と名乗ったほうが通りやすいので、これが一般的なのだという。特殊捜査官と特別捜査官を同一と捉える人が多いから通りやすいというのが理由のひとつだ。
「こんにちは。服部和毅と申します。何かご用でしょうか?」
第一印象は、ピシッとスーツを着こなした真面目な会社員といった感じだ。
だが、よく見れば髪はやや茶色に染めており、少し遊ばせている。近くに来て気がついたが、香水の匂いもする。チャラ男の雰囲気を醸し出していた。
「警視庁特殊捜査官の高良正人と申します。事前連絡も入れず申し訳ありません。今回の事件の裏付けを取るために貴方のパソコンを十分程度お借りできないかと思いまして……すみませんが、ご協力頂けませんでしょうか?」
事前連絡を入れなかったのは、相手に考える猶予を与えないためだ。
「いいですよ」
思いの外、快く承諾してくれた。
職員の集まる場を離れ、誰もいない個室に案内され、パソコンを手渡された。
「すみません。奥さんを亡くされたばかりでお辛いでしょうに……証拠は揃ってはいるんですが、念のため共犯者がいないかも調べないといけないもので……」
と申し訳なさそうに眉を下げながら俺は言った。
「いえいえ、全然大丈夫ですよ。妻とは離婚協議中でしたし、仲も冷え切っていましたから思ったよりはダメージないんですよね。それに、警察は疑うのが仕事でしょう」
「そうですか、ご協力感謝致します」
自分の奥さんが殺されてからまだたったの一週間なのに……。
冷え切っていても、一応身内が殺されたら怯えたり冷静さを失ってもおかしくないのに、本当に他人事のようだ。
パソコンを立ち上げ、USBを差し込む。
「あの……変わったUSBですね」
「あ、ははははは……うちの先輩の趣味でして……」
本当、恥ずかしい。
もう少しかっこいいのに改良して欲しい、マジで。
「ところで、加藤はどうしてますか? 同僚なので心配で」
やっぱり気になるよな、捜査状況。
俺は顔には出さず、心の内でほそく笑んだ。
「捜査中で守秘義務もあるのであまり話しちゃいけないんですが、結構憔悴していますね。はじめて人を殺したということもあって、恐らくまだ混乱してるんでしょう。でも、それも時間の問題だと思います。証拠は十分に揃っていますし、加藤が犯人だと確信しています」
「そうですか、残念です。アイツ、凄く真面目で上司からも高く評価されてたのに」
涙こそ浮かべはしないものの、消え入るような声で服部が言った。
「傷が癒えるには時間が解決してくれるのを待つしかないでしょう。大変でしょうが、貴方が立ち直れることを祈っています。気の利いた言葉をかけられなくて申し訳ありません。ご協力、有難う御座いました」
作業が終わり、パソコンを閉じて服部に頭を下げながら返す。
「いえいえ、お気遣い頂き有難う御座います」
服部が俺の横を通り過ぎた瞬間、
「あの?」
俺は服部の肩に触れた。
「すみません、糸くずが……」
と摘んだ糸くずを見せた後、捨てた。
「あぁ、有難う御座います」
そして俺は、いや俺たちは車に戻った。
「いやぁ~後輩、キミ本物の刑事みたいだったね。結構サマになってタヨ#/$€%」
「ははは……でもかなり緊張しましたよ? 俺いま汗ビッショリですよ……ってか、大丈夫でしたか?俺」
「ぜーんぜん大丈夫だったヨ! 演技も身のこなしもスマートだった。あの感じなら疑われてもないだろうネ! 寧ろ及第点以上の働きぶりだったヨ#/$€%」
「ハァ、とりあえずその言葉を聞けて安心しました」
俺はハンドルに顔を押し付けた。
「安心すんのはまだ早いぞ後輩。まだまだ重要な仕事は残ってル#/$€%」
「了解です!」
俺は額に浮かんだ汗を袖で拭い、車を発進させた。
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