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第4章 奴隷と暮らす
第19話
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龍人のもつ魔力保有量は高く、あの強靭な肉体は、剣を振り下ろしても傷ひとつ付かないと聞く。相手をしたことはないが、仮にもし敵対したならば逃げた方が懸命だと云われるほどだ。
そんな龍人に対して恐れを抱かずにはいられない。俺は思わず敬語になって話していた。
「ふむ」と龍人が椅子に深くもたれ掛かり、両腕を胸の前で組む。視線を宙にやって何か考えているようだ。
暫くして、「なるほど」と小さな呟きが龍人から聞こえ、びくりと俺の耳が過剰に反応した。それは、龍人のその声が異様に低く感じたからだ。
「だがな……カミュアでのことを、そして、ここの宿に来るまでのことをよく思い出してみよ。我とて、たった一日の出来事で信じろとは言わぬが……」
静かな部屋に、龍人の凛とした声が、よく響く。
「我ら奴隷の汚い足に触れ、布を巻いた時のご主人はどうだった? カミュアを出てから、ご主人が歩調を気にしていたのは知ってるか? 服屋と靴屋の奴隷に対する扱いに憤っていたのは見たか? 宿へ入る時、主人扱いするなと言ったのは何故だ? 食事を十分に与えたのは?」
「そ、れは……」
龍人の問いに答えを見いだすため、瞼を閉じて俺は思い返す。
───我ら奴隷の汚い足に触れ、布を巻いた時のご主人はどうだった?
(嫌な顔ひとつしなかったし、気遣いからくる優しさだと……思った)
───カミュアを出てから、ご主人が歩調を気にしていたのは知ってるか?
(知っている。はじめは小さな子供を連れ歩くようにゆっくり歩いていたが、俺たちが歩きづらそうに見えたのか、歩調を上げてくれた)
───服屋と靴屋の奴隷に対する扱いに憤っていたのは見たか?
(見た、というより聞いた。だが、俺たちの服を買うためか、感情を抑え込んでいるようだった)
───宿へ入る時、主人扱いするなと言ったのは何故だ?
(奴隷扱いされないように、だろうか?)
───食事を十分に与えたのは?
(……わからない。けれど、十分過ぎるほどの食事を与えてくれた)
「それら全ての行動が偽りだと、おまえたちは思っておるのか? ご主人は常に行動で示そうとしている。おまえたちの信頼を得るためにな」
龍人の問いに対する答えをなんとか見いだした俺だったが、あの人間の俺たちに対する扱いが、普通の奴隷に対するものとは随分とかけ離れていて、それが時折、恐ろしく感じてしまう。
「あの人間は……何か秘密を抱えている」
俺は、不安気に声をこぼす。
「あぁ、そのようだな。だが、それが何だ?」
(何だ……って?)
バッサリと切り捨てられた言葉に、俺は呆然とした顔で、龍人が次に話す内容に耳を傾ける。
「人は誰しもが秘密を抱えて生きている。それに我らとて同じことよ。ご主人は、我らの過去もそれぞれが抱える秘密も何も知らぬ。知っていることといえば、奴隷資料に記載されていた薄っぺらい情報くらいではないか?」
その言葉を聞いて、ハッとし俺は顔を上げた。
そんな龍人に対して恐れを抱かずにはいられない。俺は思わず敬語になって話していた。
「ふむ」と龍人が椅子に深くもたれ掛かり、両腕を胸の前で組む。視線を宙にやって何か考えているようだ。
暫くして、「なるほど」と小さな呟きが龍人から聞こえ、びくりと俺の耳が過剰に反応した。それは、龍人のその声が異様に低く感じたからだ。
「だがな……カミュアでのことを、そして、ここの宿に来るまでのことをよく思い出してみよ。我とて、たった一日の出来事で信じろとは言わぬが……」
静かな部屋に、龍人の凛とした声が、よく響く。
「我ら奴隷の汚い足に触れ、布を巻いた時のご主人はどうだった? カミュアを出てから、ご主人が歩調を気にしていたのは知ってるか? 服屋と靴屋の奴隷に対する扱いに憤っていたのは見たか? 宿へ入る時、主人扱いするなと言ったのは何故だ? 食事を十分に与えたのは?」
「そ、れは……」
龍人の問いに答えを見いだすため、瞼を閉じて俺は思い返す。
───我ら奴隷の汚い足に触れ、布を巻いた時のご主人はどうだった?
(嫌な顔ひとつしなかったし、気遣いからくる優しさだと……思った)
───カミュアを出てから、ご主人が歩調を気にしていたのは知ってるか?
(知っている。はじめは小さな子供を連れ歩くようにゆっくり歩いていたが、俺たちが歩きづらそうに見えたのか、歩調を上げてくれた)
───服屋と靴屋の奴隷に対する扱いに憤っていたのは見たか?
(見た、というより聞いた。だが、俺たちの服を買うためか、感情を抑え込んでいるようだった)
───宿へ入る時、主人扱いするなと言ったのは何故だ?
(奴隷扱いされないように、だろうか?)
───食事を十分に与えたのは?
(……わからない。けれど、十分過ぎるほどの食事を与えてくれた)
「それら全ての行動が偽りだと、おまえたちは思っておるのか? ご主人は常に行動で示そうとしている。おまえたちの信頼を得るためにな」
龍人の問いに対する答えをなんとか見いだした俺だったが、あの人間の俺たちに対する扱いが、普通の奴隷に対するものとは随分とかけ離れていて、それが時折、恐ろしく感じてしまう。
「あの人間は……何か秘密を抱えている」
俺は、不安気に声をこぼす。
「あぁ、そのようだな。だが、それが何だ?」
(何だ……って?)
バッサリと切り捨てられた言葉に、俺は呆然とした顔で、龍人が次に話す内容に耳を傾ける。
「人は誰しもが秘密を抱えて生きている。それに我らとて同じことよ。ご主人は、我らの過去もそれぞれが抱える秘密も何も知らぬ。知っていることといえば、奴隷資料に記載されていた薄っぺらい情報くらいではないか?」
その言葉を聞いて、ハッとし俺は顔を上げた。
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