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第3章 奴隷と暮らすまで

第10話

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「こちらです」

 そう私たちに向かって言うのは、小脇に書類を抱えたBの資料の不動産業者だ。

 王都から十二分先の貴族街に隣接したところにある、パラディオ様式の家が三軒繋がって出来たような屋敷だ。外壁はラスティケーションを施した石細工で表面が滑らかなバンダイクブラウンのレンガ模様になっている。

 両側の家は屋根が三角の破風をもつ主棟が特徴的で、窓は上部分がアーチ型のものと、それを挟むように長方形で背の低いものを合わせて三つ並んで埋め込まれている。

 中央の家には、フロントには上部分がアーチ型の両開きドア、ドアの上部分から伸びた雨を防ぐためのひさしがあり、窓は長方形で背の高いもののみが複数埋め込まれている。

 家の造りは、中庭を囲むような形状になっている。

 玄関は広々としていて、綺麗に保たれた床は大理石で出来ており、歩く度にコツコツと足音が響き渡る。正面には二階へ上がる階段があった。

 一階には、洗濯室、倉庫、醸造室、使用人部屋、キッチン、生鮮食品貯蔵室、食品保管室、パン焼き室、酪農室、洗い場。そして、二階へ上がると、図書室、応接間、正餐室食事場所、ホール、浴場だった場所がある。地下室は、酪農室の地下通路を通ったところにある。その他の部屋は寝室や物置部屋として使用されていたようだ。

「いかがでしょうか?」

 業者が買うのか買わないのか聞いてくるので、私は振り返って彼らに問う。

「この屋敷はどうだ?」

「我は、大きなベッドと新聞があれば良いが、一室がこれだけ広ければ寝返りも楽そうだ」

「中庭なので、人の目にあまり触れられず鍛錬ができるので、良いかと」

「地下室も広くて頑丈そうだ」

「王都から少し離れているので、人の声も聞こえませんし……」

「清潔感あるし、部屋も多いからここでいいんじゃない?」

 はっきりと言わない者もいるが、皆んなここがいいような感じだ。家は大きな買い物だし、彼らが奴隷ということもあって、強くは主張できないのだろう。

 前に向き直れば、きらきらした瞳で業者が見てくる。「もう買うだろ? 買うよな?」みたいな顔だ。あまりかさないでほしいものだ。

「ここでやりたいことがある。少し待って欲しい」

「やりたいこと、ですか?」

 私は業者を除く彼らに、赤いケシの実を一粒ずつ手渡すと、手のひらに乗せられた実を不思議そうに見つめていた。

「何故、ケシの実を?」

 その狼人の問いと同時に彼らから向けられる不思議そうな顔に、私は業者から離れた。そして、彼らの真横に並ぶように立つと人間の業者に聞こえないような小声で答える。

「ケシの実であることは重要ではない。丸いのが重要なんだ。今から各部屋に行って、実を置いてみてほしい。それで、実が転がった部屋が有れば教えてくれ。あと、各部屋の窓を開閉し歪みがないか見てきてほしい。欠陥住宅には住みたくはないだろう?」




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