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第3章 奴隷と暮らすまで
第1話
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彼らの足に負担がかからぬよう、歩幅に気をつけながら暫く歩いていたが、彼らの足と私の足の長さは随分と差があり、普通に歩いても私の方が遅く歩きにくそうで、やや早歩きの方が丁度良いくらいのように思えた。
昼間、屋台を回っていたときに集めた情報を元に、現在地からなるべく近い距離で、かつ評判の良い服屋と靴屋に寄った。ここは共同経営しているのか、店が合体しているため一式揃う。だが、来て早々、店主らは私の背後に立つ彼らを頭頂から足のつま先まで見て、嫌悪感を露わにしやがった。
(本当に、腹が立つ。奴隷もおまえらと同じなのに)
怒りで拳が震える。それを悟られないように、ローブの袖で手を隠した。
大きめの麻袋の中に入っている登録収納の麻袋に手を入れ、『店主を納得させられる金』を引き抜き手渡す。
「こ、これは⁉︎」
「よろしいのですか⁉︎」
店主たちは、きらきらと目を輝かせながらこちらを見てくる。喉まで込み上げてくる苛立ち、怒り、悲しみ、それらを呑み込み胃の中に無理矢理押し込んだ。
「あぁ、その代わり、彼らに服を選ばせてやれ」
ハッとする。自分でも驚いた。演技の時とは異なり、一段と低い唸るような声が出ていたことに。
それから店主たちは手のひらを返すように、彼らに対する対応をがらりと変えた。金で解決する、とよく言うがあまり良い気分ではなかった。
「さぁ、選んでこい。金に糸目はつけない、好きなのを選ぶと良い。とりあえず今日のところは、普段着と寝間着と下着、デミグラブそれから靴下三セット、あと靴二足だ。生憎、今は持ち家がないので、持ち運びできる量に抑えてほしい」
龍人と狐人はさっさと店に入って行ったが、残りの三人は、なかなか動こうとはしない。
「どうした?」
「失礼ながら、ご主人様……奴隷は自分で服を選びません。そもそも、奴隷に選択させるようなことは一般的にはしないのです……」
エルフの顔がフードの奥へと引っ込み、表情が隠される。
調教で身体に叩き込まれているせいだろう。命じれば、紋に従って彼らは行動する。だが、それでは信頼関係は築けないし、彼らの為にならない。
「おまえら、ちょっとこっちに来い……」
手招きして、そう三人を集めると、店主や店員、他の客を避けて店の端に寄る。そして、三人だけに聞こえる声で言った。
「おまえら、三年後も自分の意思を捨てて誰かに従って生きていくつもりなのか?」
ごくりと息を呑む音がした。
その反応は、私が奴隷を本当に解放するとは思っていないのか、はたまた自分の三年後を想像できないがためか、は分からない。
「ご主人様、貴方は本当に我々を三年後に解放するつもりでいらっしゃるのですか?」
狼人のラピスラズリの瞳が私を射抜くかのように見つめる。その瞳に浮かぶのは"疑念"だった。
昼間、屋台を回っていたときに集めた情報を元に、現在地からなるべく近い距離で、かつ評判の良い服屋と靴屋に寄った。ここは共同経営しているのか、店が合体しているため一式揃う。だが、来て早々、店主らは私の背後に立つ彼らを頭頂から足のつま先まで見て、嫌悪感を露わにしやがった。
(本当に、腹が立つ。奴隷もおまえらと同じなのに)
怒りで拳が震える。それを悟られないように、ローブの袖で手を隠した。
大きめの麻袋の中に入っている登録収納の麻袋に手を入れ、『店主を納得させられる金』を引き抜き手渡す。
「こ、これは⁉︎」
「よろしいのですか⁉︎」
店主たちは、きらきらと目を輝かせながらこちらを見てくる。喉まで込み上げてくる苛立ち、怒り、悲しみ、それらを呑み込み胃の中に無理矢理押し込んだ。
「あぁ、その代わり、彼らに服を選ばせてやれ」
ハッとする。自分でも驚いた。演技の時とは異なり、一段と低い唸るような声が出ていたことに。
それから店主たちは手のひらを返すように、彼らに対する対応をがらりと変えた。金で解決する、とよく言うがあまり良い気分ではなかった。
「さぁ、選んでこい。金に糸目はつけない、好きなのを選ぶと良い。とりあえず今日のところは、普段着と寝間着と下着、デミグラブそれから靴下三セット、あと靴二足だ。生憎、今は持ち家がないので、持ち運びできる量に抑えてほしい」
龍人と狐人はさっさと店に入って行ったが、残りの三人は、なかなか動こうとはしない。
「どうした?」
「失礼ながら、ご主人様……奴隷は自分で服を選びません。そもそも、奴隷に選択させるようなことは一般的にはしないのです……」
エルフの顔がフードの奥へと引っ込み、表情が隠される。
調教で身体に叩き込まれているせいだろう。命じれば、紋に従って彼らは行動する。だが、それでは信頼関係は築けないし、彼らの為にならない。
「おまえら、ちょっとこっちに来い……」
手招きして、そう三人を集めると、店主や店員、他の客を避けて店の端に寄る。そして、三人だけに聞こえる声で言った。
「おまえら、三年後も自分の意思を捨てて誰かに従って生きていくつもりなのか?」
ごくりと息を呑む音がした。
その反応は、私が奴隷を本当に解放するとは思っていないのか、はたまた自分の三年後を想像できないがためか、は分からない。
「ご主人様、貴方は本当に我々を三年後に解放するつもりでいらっしゃるのですか?」
狼人のラピスラズリの瞳が私を射抜くかのように見つめる。その瞳に浮かぶのは"疑念"だった。
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