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第33章『かくしん』
第197話
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カーテン越しの会話というのは、思っていた以上に難しい。
「お、おまたせしました」
《ありがとうございます。…いただきます》
相手の表情が見えないと、どんなことを考えているか予想するのも難しい。
《あ、美味しい…》
「喜んでいただけたようで何よりです」
《あ、あの…僕のこと、変だって言わないんですか?》
「何故そんなことをお聞きになるんですか?」
カーテン越しで葛藤しているような気がしたけど、男性は少しずつ話しはじめた。
《実を言うと、親から顔を見せて食べるな、気持ち悪いって言われたことがあるんです。
それ以降、人前で食べるのがどうしても苦痛になってしまって…。こんなふうに誰かが近くにいる状態で食べるのは久しぶりです》
嫌なことを言われたら、誰だって辛くなる。
《人と話すのも苦手で、できるだけ人に関わらずに生きているんです。ご飯は友だちとも行ったことがなくて…。
でも、そんな僕に優しくしてくれる人もいます。だから、悩んでいるなら力になりたい》
「何か悩んでいるんですか?」
表情は確認できないけど、お友だちのことを大切に思っていることは分かる。
男性はとても優しい声で話してくれた。
《大事な友だちなんですけど、何かを抱えこんでいるみたいなんです。昔から真面目で、色々考えるところはあったけど…。
何があったか調べている途中で、パワハラされてることしか分からなくて、何ができるかずっと考えています》
「…誰かが側にいてくれるだけでいいのではないでしょうか?」
《え?》
こんな勝手なことを言ってしまっていいのか分からない。
お客様はもう死んでしまっているし、追いつめてしまう可能性だってある。
だけど、放っておくことなんてできない。
「大切な人と美味しいものを食べたり、楽しく話したり…心配してくれているんだって、相手には伝わると思うんです。
特に、お客様の優しさは伝わっているのではないでしょうか?」
カーテンの向こうから声は聞こえない。
もしかして、失礼なことを言ってしまっただろうか。
「あ、あの、勝手なことを言って申し訳ありません…」
《いえ。初めて会った人とこんなふうに話すのが不思議で…。ありがとうございます。
上手く話せるか分からないけど、僕は彼に笑ってほしいから頑張りたいです》
「…どんな形であれ、あなたの想いが届くことを願っています」
こんな言い方しかできないのは申し訳ない。
まさかもう死んでしまっているから話す機会がしばらくないなんて、今は言えそうになかった。
…そういえば、どうしてこの人は死んでしまったんだろう。
「お、おまたせしました」
《ありがとうございます。…いただきます》
相手の表情が見えないと、どんなことを考えているか予想するのも難しい。
《あ、美味しい…》
「喜んでいただけたようで何よりです」
《あ、あの…僕のこと、変だって言わないんですか?》
「何故そんなことをお聞きになるんですか?」
カーテン越しで葛藤しているような気がしたけど、男性は少しずつ話しはじめた。
《実を言うと、親から顔を見せて食べるな、気持ち悪いって言われたことがあるんです。
それ以降、人前で食べるのがどうしても苦痛になってしまって…。こんなふうに誰かが近くにいる状態で食べるのは久しぶりです》
嫌なことを言われたら、誰だって辛くなる。
《人と話すのも苦手で、できるだけ人に関わらずに生きているんです。ご飯は友だちとも行ったことがなくて…。
でも、そんな僕に優しくしてくれる人もいます。だから、悩んでいるなら力になりたい》
「何か悩んでいるんですか?」
表情は確認できないけど、お友だちのことを大切に思っていることは分かる。
男性はとても優しい声で話してくれた。
《大事な友だちなんですけど、何かを抱えこんでいるみたいなんです。昔から真面目で、色々考えるところはあったけど…。
何があったか調べている途中で、パワハラされてることしか分からなくて、何ができるかずっと考えています》
「…誰かが側にいてくれるだけでいいのではないでしょうか?」
《え?》
こんな勝手なことを言ってしまっていいのか分からない。
お客様はもう死んでしまっているし、追いつめてしまう可能性だってある。
だけど、放っておくことなんてできない。
「大切な人と美味しいものを食べたり、楽しく話したり…心配してくれているんだって、相手には伝わると思うんです。
特に、お客様の優しさは伝わっているのではないでしょうか?」
カーテンの向こうから声は聞こえない。
もしかして、失礼なことを言ってしまっただろうか。
「あ、あの、勝手なことを言って申し訳ありません…」
《いえ。初めて会った人とこんなふうに話すのが不思議で…。ありがとうございます。
上手く話せるか分からないけど、僕は彼に笑ってほしいから頑張りたいです》
「…どんな形であれ、あなたの想いが届くことを願っています」
こんな言い方しかできないのは申し訳ない。
まさかもう死んでしまっているから話す機会がしばらくないなんて、今は言えそうになかった。
…そういえば、どうしてこの人は死んでしまったんだろう。
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