皓皓、天翔ける

黒蝶

文字の大きさ
上 下
191 / 236
第27章『散り桜』

第160話『星の人』

しおりを挟む
《あなたにも根深い悩みごとがありそうね》
「…突然どうされたんですか?」
《気を悪くしたならごめんなさい。少しだけ氷空ちゃんが重なって見えたの。…寂しそうな雰囲気とか》
女性は人を見る目がかなりこえているようだ。
このままだと俺の心まで見透かされてしまいそうで、話をそらしてしまった。
「…大切な人へ、手紙を書きませんか?」
《手紙…絶対に相手に届くの?》
「勿論です」
《なら、書いてみようかしら。氷空ちゃんと、ずっとお世話になった星屑園に》
女性は終始穏やかな表情で手紙を書き終えた。
列車が到着する頃には身支度を整えていて、足が不自由だという彼女を軽く支える。
《ごめんなさい。最後まで迷惑をかけてしまって…》
「いえ。…お話できてよかったです」
《私の方こそ、話を聞いてくれてありがとう。こうやって人は星になっていくのね》
「星、ですか?」
《あくまでこれは持論なんだけど、死にゆく人たちってきらきらした星になって大切な人を照らす存在だと思うの。
私も施設のみなさんや氷空ちゃん、それから…あなたのことも照らせるかしら》
ここまで落ち着いているお客様は珍しい。
それに、瞳には諦めや絶望ではなく希望が宿っている。
「…いってらっしゃいませ」
《ありがとう。いつかあなたが苦しみから解放されることを祈っているわ》
俺は、この人のような輝きを持っていない。
近づこうとするとあまりに眩しくて、掴むのはおこがましいとさえ思う。
こんなことで心の整理ができるか分からないが、星影氷空の心に何か残っただろうか。
「お客様、全員降りました」
「点検ご苦労さまです」
そこからすぐに片づけをすませ、モニタールームの鍵を開ける。
「…おばさんと、いつ知り合ったの?」
「道で荷物を持っていたところに通りかかった程度。これ、ちゃんと読んで。お客様が綴る手紙には、心のシャッターで捉えた想いがのっているから」
彼女は小さく頷き席を立つ。
それとほぼ同時に矢田がやってきた。
「氷空ちゃん、これあげる」
「え…?」
「それじゃあリーダー、お先に失礼します」
「お疲れ様です」
そそくさと去っていったが、彼女は渡されたものをじっと見つめている。
そこに敷き詰められていたのは感謝の言葉だった。
専属シェフや他の車掌たち、整備士のものまである。
「君からもらったお菓子を大切に食べている人たちだ。…それから、君のことをみんな仲間だと思っている」
「そっか…。私には、この場所もあるんだね」
涙を流しながら静かに微笑んでいる彼女の隣に立つ。
星の人の希望が彼女に繋がれると信じたい。
……それくらいは、俺が願っても赦されるだろうか。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

東京カルテル

wakaba1890
ライト文芸
2036年。BBCジャーナリスト・綾賢一は、独立系のネット掲示板に投稿された、とある動画が発端になり東京出張を言い渡される。 東京に到着して、待っていたのはなんでもない幼い頃の記憶から、より洗練されたクールジャパン日本だった。 だが、東京都を含めた首都圏は、大幅な規制緩和と経済、金融、観光特区を設けた結果、世界中から企業と優秀な人材、莫大な投機が集まり、東京都の税収は年16兆円を超え、名実ともに世界一となった都市は更なる独自の進化を進めていた。 その掴みきれない光の裏に、綾賢一は知らず知らずの内に飲み込まれていく。 東京カルテル 第一巻 BookWalkerにて配信中。 https://bookwalker.jp/de6fe08a9e-8b2d-4941-a92d-94aea5419af7/

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

クラシオン

黒蝶
ライト文芸
「ねえ、知ってる?どこかにある、幸福を招くカフェの話...」 町で流行っているそんな噂を苦笑しながら受け流す男がいた。 「...残念ながら、君たちでは俺の店には来られないよ」 決して誰でも入れるわけではない場所に、今宵やってくるお客様はどんな方なのか。 「ようこそ、『クラシオン』へ」 これは、傷ついた心を優しく包みこむカフェと、謎だらけのマスターの話。

28歳、曲がり角

ふくまめ
ライト文芸
「30歳は曲がり角だから」「30過ぎたら違うよ」なんて、周りからよく聞かされてきた。 まぁそんなものなのかなと思っていたが、私の曲がり角少々早めに設定されていたらしい。 ※医療的な場面が出てくることもありますが、作者は医療従事者ではありません。  正確な病名・症例ではない、描写がおかしいこともあるかもしれませんが、  ご了承いただければと思います。  また何よりも、このような症例、病状、症状に悩んでおられる方をはじめとする、  関係者の皆様を傷つける意図はありません。  作品の雰囲気としてあまり暗くならない予定ですし、あくまで作品として見ていただければ幸いですが、  気分を害した方がいた場合は何らかの形で連絡いただければと思います。

隣の古道具屋さん

雪那 由多
ライト文芸
祖父から受け継いだ喫茶店・渡り鳥の隣には佐倉古道具店がある。 幼馴染の香月は日々古道具の修復に励み、俺、渡瀬朔夜は従妹であり、この喫茶店のオーナーでもある七緒と一緒に古くからの常連しか立ち寄らない喫茶店を切り盛りしている。 そんな隣の古道具店では時々不思議な古道具が舞い込んでくる。 修行の身の香月と共にそんな不思議を目の当たりにしながらも一つ一つ壊れた古道具を修復するように不思議と向き合う少し不思議な日常の出来事。

ベスティエンⅢ【改訂版】

花閂
ライト文芸
美少女と強面との美女と野獣っぽい青春恋愛物語。 恋するオトメと武人のプライドの狭間で葛藤するちょっと天然の少女と、モンスターと恐れられるほどの力を持つ強面との、たまにシリアスたまにコメディな学園生活。 名門お嬢様学校に通う少女が、彼氏を追いかけて地元で恐れられる最悪の不良校に入学。 女子生徒数はわずか1%という環境でかなり注目を集めるなか、入学早々に不良をのしてしまったり暴走族にさらわれてしまったり、彼氏の心配をよそに前途多難な学園生活。 不良たちに暴君と恐れられる彼氏に溺愛されながらも、さらに事件に巻き込まれていく。 人間の女に恋をしたモンスターのお話がハッピーエンドだったことはない。 鐵のような両腕を持ち、鋼のような無慈悲さで、鬼と怖れられ獣と罵られ、己のサガを自覚しながらも 恋して焦がれて、愛さずにはいられない。

「桜の樹の下で、笑えたら」✨奨励賞受賞✨

悠里
ライト文芸
高校生になる前の春休み。自分の16歳の誕生日に、幼馴染の悠斗に告白しようと決めていた心春。 会う約束の前に、悠斗が事故で亡くなって、叶わなかった告白。 (霊など、ファンタジー要素を含みます) 安達 心春 悠斗の事が出会った時から好き 相沢 悠斗 心春の幼馴染 上宮 伊織 神社の息子  テーマは、「切ない別れ」からの「未来」です。 最後までお読み頂けたら、嬉しいです(*'ω'*) 

処理中です...