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第26章『届かなかった歌を君に』
閑話『届けられた詩(うた)』
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「リーダー、最近氷空ちゃんに優しいですね」
「いつもどおりです」
らしくない自覚はある。
それでも、なんとなく危なっかしくて声をかけてしまうのだ。
今日も様々な想いがつまった手紙も届けに向かう。
「こんにちは。佐渡美春様でしょうか?」
「…?はい」
「八乙女小春様から、手紙を預かっております」
名前を言った瞬間、佐渡美春の表情が曇る。
「死んだ人を冒涜するような真似は、」
「嘘は申しあげておりません。中を見ていただければ分かります」
まだ怪訝そうな表情をしていたものの、ひとまず封がきられる。
【美春
一緒に夢を叶えようって約束したのに、叶えられなくてごめんなさい。私の近くにいた猫さんは大丈夫だったかな…。
家でも扱いづらそうにされて、学校にもいまいち馴染めなくて…まともに話してくれるのは、あなただけでした。
あの夜、消えたくてしかたなかった私を見つけてくれてありがとう。
私が唯一おかえしできるとしたらこれしかないから…よかったら使ってください。
美春、どんな形でもいいから絶対音楽辞めないでね。私はあなたの音に救われた。ずっとファンでいさせて】
「これ、歌詞ノート…小春……」
補聴器の予備も入れると話していたが、まさか本当に入っているとは思わなかった。
佐渡美春は封筒の中身を握りしめ、何も言わずに俯いている。
少しして発せられたのは謝罪だった。
「疑ってごめんなさい」
「いえ。普段からよくありますので。それに、まだ心が整理できていないうちにこういったものが届けば誰だって混乱します」
経験上、よく分かっているつもりだ。
手紙の内容にもよるが、相手は後悔や悲しみを口にする。
だが、佐渡美春から感じ取ったのは決意だった。
「私、これからもギターを弾いていいか分からなかったんです。小春は自分でもできることを探すって言ってたのに、少し離れた間にその未来が消えました。
だけど、小春は辞めないでって言ってくれて、大事な歌詞ノートまで託してくれて…。どこまでできるか分からないけどやってみます」
「きっと小春さんにも届きます」
「そうですね。…そう信じてます」
「それでは、私はこれで失礼いたします」
一礼してその場を離れる。
1番大切なものを失うというのは、心にずっと残る傷痕だ。
…それをもうすぐ彼女も負うことになる。
そして、限りなく死が近くて遠いように感じるようになるのだ。
【ねえ、氷雨。今だけ私のお兄ちゃんやってよ】
「…教えてくれ。君はどういうつもりであんなことを言ったんだ」
──その答えは、桜の花びらが散るだけで返ってこない。おそらく、もう二度と。
「いつもどおりです」
らしくない自覚はある。
それでも、なんとなく危なっかしくて声をかけてしまうのだ。
今日も様々な想いがつまった手紙も届けに向かう。
「こんにちは。佐渡美春様でしょうか?」
「…?はい」
「八乙女小春様から、手紙を預かっております」
名前を言った瞬間、佐渡美春の表情が曇る。
「死んだ人を冒涜するような真似は、」
「嘘は申しあげておりません。中を見ていただければ分かります」
まだ怪訝そうな表情をしていたものの、ひとまず封がきられる。
【美春
一緒に夢を叶えようって約束したのに、叶えられなくてごめんなさい。私の近くにいた猫さんは大丈夫だったかな…。
家でも扱いづらそうにされて、学校にもいまいち馴染めなくて…まともに話してくれるのは、あなただけでした。
あの夜、消えたくてしかたなかった私を見つけてくれてありがとう。
私が唯一おかえしできるとしたらこれしかないから…よかったら使ってください。
美春、どんな形でもいいから絶対音楽辞めないでね。私はあなたの音に救われた。ずっとファンでいさせて】
「これ、歌詞ノート…小春……」
補聴器の予備も入れると話していたが、まさか本当に入っているとは思わなかった。
佐渡美春は封筒の中身を握りしめ、何も言わずに俯いている。
少しして発せられたのは謝罪だった。
「疑ってごめんなさい」
「いえ。普段からよくありますので。それに、まだ心が整理できていないうちにこういったものが届けば誰だって混乱します」
経験上、よく分かっているつもりだ。
手紙の内容にもよるが、相手は後悔や悲しみを口にする。
だが、佐渡美春から感じ取ったのは決意だった。
「私、これからもギターを弾いていいか分からなかったんです。小春は自分でもできることを探すって言ってたのに、少し離れた間にその未来が消えました。
だけど、小春は辞めないでって言ってくれて、大事な歌詞ノートまで託してくれて…。どこまでできるか分からないけどやってみます」
「きっと小春さんにも届きます」
「そうですね。…そう信じてます」
「それでは、私はこれで失礼いたします」
一礼してその場を離れる。
1番大切なものを失うというのは、心にずっと残る傷痕だ。
…それをもうすぐ彼女も負うことになる。
そして、限りなく死が近くて遠いように感じるようになるのだ。
【ねえ、氷雨。今だけ私のお兄ちゃんやってよ】
「…教えてくれ。君はどういうつもりであんなことを言ったんだ」
──その答えは、桜の花びらが散るだけで返ってこない。おそらく、もう二度と。
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