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第25章『届けたい想い』
第144話
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「お客様、どうされましたか?」
《ああ、すみません。車椅子が動かなくなってしまって…》
段差に引っかかったみたいで、男性が進めなくなって困っていた。
「座席までご案内します」
《ありがとうございます》
からからと車椅子を押して、1番出入り口に近い席に案内する。
「こちらでよろしいでしょうか?」
《はい。ありがとうございます》
「あ、あの、何か食事や飲み物はいかがですか?」
《それなら、冷たい緑茶をお願いできますか?》
「かしこまりました」
すぐに用意してサーブすると、男性は丁寧に頭を下げてくれた。
《ありがとうございます》
「いえ。仕事ですし…」
男性が飲もうとしたところでパスケースが床に落ちる。
その中には、男性と小さな女の子が笑顔でおさまっている写真が入っていた。
「も、申し訳ありません。中身を見てしまいました」
《いや、いいんです。…この子は娘の千佳といいます。可愛いでしょう?》
男性はにこやかに話を続ける。
《妻に先立たれてからというもの、ずっとふたりで生きてきました。
僕が言うのもおかしいですが、本当にしっかりした子で…甘えてくれなくて心配になるんです》
男性の目には愛情がこめられていて、娘さんのことも奥さんのことも大切に想っていることが分かる。
私は父親というものは分からないけど、おばさんが数年前まで飼っていた猫を見ているときと同じ目だ。
「ご家族の話を、もっと聞かせていただいてもよろしいでしょうか?」
《僕の話でよければ。だけど、何から話せばいいものが…》
男性は少し考える仕草を見せた後、少し寂しげな瞳を揺らして話しはじめた。
《まずは、妻がいた頃の話をしようかな。本当に勇敢な人で、車道でころんだ僕を助けてくれた人なんだ。
それからしばらくふたりで食事したりして、2年くらい経った頃にプロポーズされた。先を越されちゃったんだ》
「そうなんですね」
《あのときはなかなか覚悟が決まらなかったんだ。障碍がある人間と暮らしていくのは大変だから》
男性は照れ笑いしながら、幸せな日々を語る。
《彼女は、そんなこと関係ない、あなたがいいって言ってくれたんだ。
それから半年して娘ができた。…できたというよりは拾ったという方が正しいだろうけど》
「どういうことですか?」
《家の隣に大きな廃屋があって、そこから泣き声がしたんだ。行ってみたら赤ん坊が捨てられていて、警察に通報した。
…僕の体じゃ子どもを育てるのは難しいかもしれないと思ったけど、幸い仕事もできているし運命だろうから引き取ろうって話になった。…決断できたのは彼女のおかげなんだ》
男性からは喜びが伝わってくる。
家族の絆ってこんなにきらきらしたものなんだ…なんて呑気にかまえていた。
だけど、それは次の一言で壊れることになる。
《娘が4歳になった頃、事件がおきた。…妻が刺されたんだ。通り魔に》
《ああ、すみません。車椅子が動かなくなってしまって…》
段差に引っかかったみたいで、男性が進めなくなって困っていた。
「座席までご案内します」
《ありがとうございます》
からからと車椅子を押して、1番出入り口に近い席に案内する。
「こちらでよろしいでしょうか?」
《はい。ありがとうございます》
「あ、あの、何か食事や飲み物はいかがですか?」
《それなら、冷たい緑茶をお願いできますか?》
「かしこまりました」
すぐに用意してサーブすると、男性は丁寧に頭を下げてくれた。
《ありがとうございます》
「いえ。仕事ですし…」
男性が飲もうとしたところでパスケースが床に落ちる。
その中には、男性と小さな女の子が笑顔でおさまっている写真が入っていた。
「も、申し訳ありません。中身を見てしまいました」
《いや、いいんです。…この子は娘の千佳といいます。可愛いでしょう?》
男性はにこやかに話を続ける。
《妻に先立たれてからというもの、ずっとふたりで生きてきました。
僕が言うのもおかしいですが、本当にしっかりした子で…甘えてくれなくて心配になるんです》
男性の目には愛情がこめられていて、娘さんのことも奥さんのことも大切に想っていることが分かる。
私は父親というものは分からないけど、おばさんが数年前まで飼っていた猫を見ているときと同じ目だ。
「ご家族の話を、もっと聞かせていただいてもよろしいでしょうか?」
《僕の話でよければ。だけど、何から話せばいいものが…》
男性は少し考える仕草を見せた後、少し寂しげな瞳を揺らして話しはじめた。
《まずは、妻がいた頃の話をしようかな。本当に勇敢な人で、車道でころんだ僕を助けてくれた人なんだ。
それからしばらくふたりで食事したりして、2年くらい経った頃にプロポーズされた。先を越されちゃったんだ》
「そうなんですね」
《あのときはなかなか覚悟が決まらなかったんだ。障碍がある人間と暮らしていくのは大変だから》
男性は照れ笑いしながら、幸せな日々を語る。
《彼女は、そんなこと関係ない、あなたがいいって言ってくれたんだ。
それから半年して娘ができた。…できたというよりは拾ったという方が正しいだろうけど》
「どういうことですか?」
《家の隣に大きな廃屋があって、そこから泣き声がしたんだ。行ってみたら赤ん坊が捨てられていて、警察に通報した。
…僕の体じゃ子どもを育てるのは難しいかもしれないと思ったけど、幸い仕事もできているし運命だろうから引き取ろうって話になった。…決断できたのは彼女のおかげなんだ》
男性からは喜びが伝わってくる。
家族の絆ってこんなにきらきらしたものなんだ…なんて呑気にかまえていた。
だけど、それは次の一言で壊れることになる。
《娘が4歳になった頃、事件がおきた。…妻が刺されたんだ。通り魔に》
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