皓皓、天翔ける

黒蝶

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第23章『凍えそうな季節から』

第136話

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「あ、愛菜」
「どうしたの?」
「それ、俺が縫い直してもいい?」
「いいけど…慎吾、裁縫できるんだ」
「一応。ひととおりは」
2軒の家の間で、少年少女が楽しそうに話している。
ぬいぐるみの服を綺麗にした少年は、翌日少女に手渡した。
「き、昨日仕上げたんだけど…」
「嘘、もう!?早いし綺麗…ありがとう!」
「また壊れたときは、俺が直すから」
「またお願いしようかな」
ふたりの会話は些細なものが多いけど、あんなに明るい笑顔を見せる人だったんだ。
「慎吾はもっと自信持っていいと思う」
「突然、何…?」
「手芸が得意なら、ぬいぐるみ作家さんとかどう?いい副業バイト知ってるから教えてあげる」
「たしかに、ぬいぐるみを作るのは好きだけど…」
「なれるよ。みんなが馬鹿にしても、私はその夢応援するから!」
「もしかして、進路指導の紙…」
「ごめん。見ちゃったんだ。だけど、絶対なれるから。そのときは私が1番最初のお客さんね」
「…うん。約束」
──その会話から数日後、彼女は引っ越していった。


「あの、ノートを集めているんだけど…」
「はいはい、後でやるわ」
「今すぐ持っていかないといけなくて、」
「はあ?」
委員長らしき人と、大きな体の男子生徒が話している。
絡まれたくないのか、みんなそそくさと横を通り過ぎていく。
そんななか、少年は立ち止まった。
「あ、あの…他のみんなの評価にも響くから、今すぐ持ってきてくれないと、こ、困ります」
少年がそう話すと、別の生徒は舌打ちしながらノートを放り投げた。
「柳君、ありがとう」
「いや、その…委員長が困ってたので…。それじゃあ、俺はこれで」
ノートを職員室まで持っていく少年の後ろ姿を、男子生徒はつまらなさそうに見ている。
「俺様に逆らったらどうなるか、しっかり教えてやらないとな」


それからそんなにたたないうちから、少年は空気みたいに扱われはじめた。
人と関わりたくない彼からすればラッキーな状況だったのかもしれないけど、傍から見ればただのいじめだ。
「柳君」
「…ああ、すみません。どうかしたんですか?」
「ごめんなさい。私のせいでこんなことに…」
「いえ、そんなことはありません。それに、中学の頃もこういうことがあったので慣れていますし」
「そんな…」
「委員長が普通に接してくれるので大丈夫です。今のところ、実害はありませんから」
それだけ話して少年は教室を出る。
おそらく、委員長を巻きこまないためという目的もあったのだろう。
その手には、少女から届いたであろう手紙が握られていた。
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