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第13章『来訪者』
第70話
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「先生、おはようございます。…あの、昨日も速水君に、」
「おお、小田!ちょっといいか?」
教師に相談しようとしても、少女の話を聞かずに逃げてしまった。
「あれ、化け物じゃん!まだ学校来てたわけ?おまえもう来るのやめれば?
俺の親に頼んで特別待遇で仕事させてやるからさ」
「…失礼します」
少女は必死に堪えている。
悲しみも苦しみも、全部ひとりで抱えてきたんだ。
大切な人には心配をかけたくなくて言えない、だけど辛くないわけじゃない…その気持ちはよく分かる。
そんな日々を過ごしてきた少女に、運命の夜が訪れた。
「城之内さん、あの…申し訳ないんだけど、そこの雑貨屋さんに行きたいの。一緒に来てくれる?」
「勿論」
「ありがとう、鈴さん」
ふたりは仲睦まじく話しながら、色違いのハンカチを購入した。
「お揃いなんてしたことなかったから、ずっと憧れだったの。嫌だったらごめんなさい」
「嫌だなんて私は思っていませんよ。…私も、菜穂さんといるのは楽しいから」
お店を出たところで、車椅子を押していた女性がはっとしたように顔をあげる。
「すみません。醤油をきらしていたのを忘れていました…」
「私はここで待ってるから、ゆっくり買い物をしてきて。ここなら道幅が広くて迷惑にならないだろうし、読みかけの本があるから」
「ありがとう。すぐ戻ってきますね」
小走りで女性が去っていった少し後、少年によって車椅子が押される。
「…誰?」
「やっぱり化け物じゃん!おまえ遠くから見ても目立つよな」
カッターシャツの上に羽織ったパーカーのフードを目深にかぶっているのに、そんなに目立っているはずがない。
「おい、なんか言えよ」
「……」
「なんか言えって!」
「あ…」
ブレーキをかけている車椅子が勢いよく蹴飛ばされ、少女はそのまま道路に倒れこむ。
その瞬間、暴走した車が彼女の体を撥ね飛ばした。
宙を舞う表情は寂しさが溢れ出していて、透明な雫が飛び散る。
沢山の悲鳴と恐怖で逃げ惑う声を最後に何も聞こえなくなった。
「…もうすぐつくよ」
「あ……」
彼女はこんなに痛かったんだ。
あまりに強い痛みに起きあがることができない。
「具合悪いの?」
首を横にふったけど、氷雨君は少し考えるような仕草を見せた後私を抱きあげる。
「嫌かもしれないけど我慢して」
「あ、あの、大、」
「大丈夫じゃないでしょ」
ずばっと言われて何も言い返せなくなる。
迷惑をかけてばかりで申し訳なく思っていると、優しく頭に手をおかれて外套で覆われた。
「…これで顔、見えないから」
その言葉と同時に、涙が溢れて止まらなくなる。
空の色なんて見えなくて、ずっとこのまま暗闇にいたいと思ってしまった。
「おお、小田!ちょっといいか?」
教師に相談しようとしても、少女の話を聞かずに逃げてしまった。
「あれ、化け物じゃん!まだ学校来てたわけ?おまえもう来るのやめれば?
俺の親に頼んで特別待遇で仕事させてやるからさ」
「…失礼します」
少女は必死に堪えている。
悲しみも苦しみも、全部ひとりで抱えてきたんだ。
大切な人には心配をかけたくなくて言えない、だけど辛くないわけじゃない…その気持ちはよく分かる。
そんな日々を過ごしてきた少女に、運命の夜が訪れた。
「城之内さん、あの…申し訳ないんだけど、そこの雑貨屋さんに行きたいの。一緒に来てくれる?」
「勿論」
「ありがとう、鈴さん」
ふたりは仲睦まじく話しながら、色違いのハンカチを購入した。
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「嫌だなんて私は思っていませんよ。…私も、菜穂さんといるのは楽しいから」
お店を出たところで、車椅子を押していた女性がはっとしたように顔をあげる。
「すみません。醤油をきらしていたのを忘れていました…」
「私はここで待ってるから、ゆっくり買い物をしてきて。ここなら道幅が広くて迷惑にならないだろうし、読みかけの本があるから」
「ありがとう。すぐ戻ってきますね」
小走りで女性が去っていった少し後、少年によって車椅子が押される。
「…誰?」
「やっぱり化け物じゃん!おまえ遠くから見ても目立つよな」
カッターシャツの上に羽織ったパーカーのフードを目深にかぶっているのに、そんなに目立っているはずがない。
「おい、なんか言えよ」
「……」
「なんか言えって!」
「あ…」
ブレーキをかけている車椅子が勢いよく蹴飛ばされ、少女はそのまま道路に倒れこむ。
その瞬間、暴走した車が彼女の体を撥ね飛ばした。
宙を舞う表情は寂しさが溢れ出していて、透明な雫が飛び散る。
沢山の悲鳴と恐怖で逃げ惑う声を最後に何も聞こえなくなった。
「…もうすぐつくよ」
「あ……」
彼女はこんなに痛かったんだ。
あまりに強い痛みに起きあがることができない。
「具合悪いの?」
首を横にふったけど、氷雨君は少し考えるような仕草を見せた後私を抱きあげる。
「嫌かもしれないけど我慢して」
「あ、あの、大、」
「大丈夫じゃないでしょ」
ずばっと言われて何も言い返せなくなる。
迷惑をかけてばかりで申し訳なく思っていると、優しく頭に手をおかれて外套で覆われた。
「…これで顔、見えないから」
その言葉と同時に、涙が溢れて止まらなくなる。
空の色なんて見えなくて、ずっとこのまま暗闇にいたいと思ってしまった。
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