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第8章『整理』
第44話
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「相手に寄り添いすぎると自分が保てなくなる。そこは気をつけて」
「…ごめんなさい」
掃除を終えたところで氷雨君に注意されてしまった。
たしかに、今回は少し男の子の気持ちを吸収して考えすぎた気がする。
会いたい人になかなか会えない寂しさを知っているからだろうか。
「…まあ、俺にはできないやり方だから尊敬はしてるけど」
「氷雨君は色々な人たちの心にちゃんと寄り添ってるよ。私なんかよりずっとすごい」
「場数を踏んでるだけだよ」
「そんな、こと……」
いつもの頭痛だ。頭が重い。もっと話したかったのに、今夜はここまでみたいだ。
「…いいよ。そのまま寝てて」
それと同時に意識が沈んでいった。
「お兄ちゃん!」
「佑哉、久しぶり」
お兄さんと楽しそうに話す姿で、ふたりがとても仲良しなことが分かる。
「手を繋いでおかないとはぐれるよ」
「はーい!」
ふたりで歩く姿は本当に微笑ましい。
「佑哉はこっちのお菓子なら食べられる」
「ありがとう」
卵アレルギーというのは食べられないものが沢山あるから大変だ。
市販のものには卵が使われることが多いし、そのなかでもお菓子は特に気をつけないといけない。
「佑哉、学校は楽しい?」
「うん。でも、お兄ちゃんともっと一緒にいたいな」
弟の願いを叶えたくても、お兄さんは簡単に二つ返事でいいとは言えない。
少し考える仕草を見せた後、催し物のお知らせを見せる。
「頑張ってチケット取るから、次は一緒に列車に乗ろう」
「すごい!夜遅くにはしる列車があるんだね」
「チケットが取れなくてもどこかへ連れていくよ。…約束な」
「うん!」
それから数日後の夜、ふたりは駅のホームで待っていた。
「何か飲み物を買ってくるよ。ひとりで待てるか?」
「うん。ここで待ってるね」
少しして、座る場所を探している人を見た男の子はすぐにベンチから立つ。
「あの、どうぞ」
「ああ、ありがとう。…そうだ、お礼にお菓子をやろう。こんなのしか持ってないが…」
「ありがとうございます」
後ろの注意書きを確認して、男の子は食べはじめる。
すると突然、彼は苦しみはじめた。
パッケージをよく見ると、『この商品には当たりがあり、それには卵を使用しています』ととても小さく書かれている。
男の子が食べたチップは星型のものだったけど、地面に散らばったチップは丸いものばかりだ。
「佑哉!?」
「お、おに、い……」
「待ってろ、すぐエピペン打つから!」
騒ぎになっていたのもあって、誰かがお兄さんにぶつかる。
ケースから取り出したエピペンはどこかへ転がっていってしまった。
「誰か、救急車を呼んでください!」
男の子は近くにあった鞄を握りしめ、静かに目を閉じる。
固く閉じられたまぶたが開くことはもうなかった。
「ついたよ」
「……ああ、ごめん」
「顔色が悪いみたいだけど、何か…」
どうしても涙を堪えきれなかった。
この亡くなり方は事故だ。誰も悪くない。
氷雨君は黙ってハンカチを渡してくれた。
「ごめんなさい……」
「気にしなくていい。そのまま落ち着くまでゆっくりしてて」
何度死を見ても苦しくなる。
この苦さには、とても慣れられそうにない。
「…ごめんなさい」
掃除を終えたところで氷雨君に注意されてしまった。
たしかに、今回は少し男の子の気持ちを吸収して考えすぎた気がする。
会いたい人になかなか会えない寂しさを知っているからだろうか。
「…まあ、俺にはできないやり方だから尊敬はしてるけど」
「氷雨君は色々な人たちの心にちゃんと寄り添ってるよ。私なんかよりずっとすごい」
「場数を踏んでるだけだよ」
「そんな、こと……」
いつもの頭痛だ。頭が重い。もっと話したかったのに、今夜はここまでみたいだ。
「…いいよ。そのまま寝てて」
それと同時に意識が沈んでいった。
「お兄ちゃん!」
「佑哉、久しぶり」
お兄さんと楽しそうに話す姿で、ふたりがとても仲良しなことが分かる。
「手を繋いでおかないとはぐれるよ」
「はーい!」
ふたりで歩く姿は本当に微笑ましい。
「佑哉はこっちのお菓子なら食べられる」
「ありがとう」
卵アレルギーというのは食べられないものが沢山あるから大変だ。
市販のものには卵が使われることが多いし、そのなかでもお菓子は特に気をつけないといけない。
「佑哉、学校は楽しい?」
「うん。でも、お兄ちゃんともっと一緒にいたいな」
弟の願いを叶えたくても、お兄さんは簡単に二つ返事でいいとは言えない。
少し考える仕草を見せた後、催し物のお知らせを見せる。
「頑張ってチケット取るから、次は一緒に列車に乗ろう」
「すごい!夜遅くにはしる列車があるんだね」
「チケットが取れなくてもどこかへ連れていくよ。…約束な」
「うん!」
それから数日後の夜、ふたりは駅のホームで待っていた。
「何か飲み物を買ってくるよ。ひとりで待てるか?」
「うん。ここで待ってるね」
少しして、座る場所を探している人を見た男の子はすぐにベンチから立つ。
「あの、どうぞ」
「ああ、ありがとう。…そうだ、お礼にお菓子をやろう。こんなのしか持ってないが…」
「ありがとうございます」
後ろの注意書きを確認して、男の子は食べはじめる。
すると突然、彼は苦しみはじめた。
パッケージをよく見ると、『この商品には当たりがあり、それには卵を使用しています』ととても小さく書かれている。
男の子が食べたチップは星型のものだったけど、地面に散らばったチップは丸いものばかりだ。
「佑哉!?」
「お、おに、い……」
「待ってろ、すぐエピペン打つから!」
騒ぎになっていたのもあって、誰かがお兄さんにぶつかる。
ケースから取り出したエピペンはどこかへ転がっていってしまった。
「誰か、救急車を呼んでください!」
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固く閉じられたまぶたが開くことはもうなかった。
「ついたよ」
「……ああ、ごめん」
「顔色が悪いみたいだけど、何か…」
どうしても涙を堪えきれなかった。
この亡くなり方は事故だ。誰も悪くない。
氷雨君は黙ってハンカチを渡してくれた。
「ごめんなさい……」
「気にしなくていい。そのまま落ち着くまでゆっくりしてて」
何度死を見ても苦しくなる。
この苦さには、とても慣れられそうにない。
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